加藤清史郎&渡邉蒼「僕たちも今、夜神月に巻き込まれている」 子役出身の二人が挑む「デスノート THE MUSICAL」【インタビュー】
映画やドラマ、アニメなど幅広いメディア展開を遂げてきた人気漫画「DEATH NOTE」のミュージカル版「デスノート THE MUSICAL」が11月24日から上演される。2015年に日本で世界初演された本作は、原作のスリリングな物語を世界的作曲家フランク・ワイルドホーンによる魂を揺さぶる音楽と、演出家・栗山民也の緻密(ちみつ)かつ大胆な演出によって作り上げられた作品。初演から10年を迎えた今年、新たなキャストを迎え、“最強のデスノート”が誕生する。今回、夜神月(やがみライト)をダブルキャストで演じる加藤清史郎と渡邉蒼に公演への意気込みを聞いた。

渡邉蒼(左)と加藤清史郎 (C)エンタメOVO
-本作の出演が決まったときの心境を教えてください。
加藤 最初は驚きとうれしい感情でいっぱいでしたが、その後すぐに重圧も感じました。夜神月は劇中で歌う楽曲も多く、その楽曲のどれもめちゃくちゃ難しいので、プレッシャーが押し寄せてきて。ただ、栗山民也さん、そしてフランク・ワイルドホーンさんの作品に出演された先輩方や仲間たちにお話を聞くと、皆さん、声をそろえて「楽しい」とおっしゃるんですよ。なので、今は楽しみだなという気持ちもあります。
渡邉 技術的な難しさももちろんですが、舞台に上がっている3時間、いろいろな宿命に振り回されていく役で心もハードな状況に置かれるので、長い公演期間中、自分の器が耐えられるのだろうかという不安もありました。ただ、栗山さんの演出とワイルドホーンさんの楽曲が形作ってくれる世界観があってこの作品があるので、怖がらずにまずは飛び込んでいくことだなと思っています。
-稽古はすでに始まっているそうですが、今の段階での手応えはいかがですか。
加藤 今、蒼がいったように自分が保つのだろうかという不安はあります。ちょうど(取材当時)1幕の終盤の稽古をしているのですが、ライトがキラという一面を完全に染まっていく瞬間が続くシーンがあって、演じている僕たちも心拍数が上がっているような感覚があったんです。演じ終わってもドクドクしていて。そこにワイルドホーンさんの楽曲が入ってくると、さらに重圧感があって、それをライトとして受け取るのか、キラとしての要素を強めて受け止めるのかでもまた違ってきます。それに耐えられるのかというのが課題ではあります。
渡邉 僕も稽古が終わったとき、全く同じ感覚を持ちました。
加藤 あの感覚はすごかったよね。
渡邉 気が付いたら戻ってこられないところまでいってしまっている感覚があって。死神リュークとレムの歌の中で、リュークが「人間の人生ってのは喜劇だな」というとレムが「悲劇でしょう」と答えるシーンがあるのですが、純粋に真っすぐ生きてきた青年が、死神のちょっとした出来心で殺人鬼になってしまうというのは、悲劇でもあるし、人間の欲望や根底にある悪意にどれだけ逆らえるのかを考えると、喜劇的な部分もあるかなと思いました。
加藤 リュークが初めに「骨を弄(もてあそ)んで ギャンブルやって 人間殺して」と歌いますが、その言葉から、まさに人間たちは弄ばれているんだということを強く感じます。リュークという存在も物語が進んでいく中で変わっていくのかもしれませんが、今の時点での浦井健治リュークはライトにとって、時には一緒に退屈しのぎを楽しくやっていこうとする相棒でもあり、時には自分の命を握られていると実感するような怖さがあるんです。ライトは無敵な優等生に見えますが、決してそうではない。実は巻き込まれているんですよね。
渡邉 本当に強い人間だったら、きっとデスノートは使わないよね。
加藤 そうだね。きっとそうした人間の弱さを描いている作品なのだと思います。人間は誰しも弱さを持っている。だから、死神は人間で遊んでいて、つまらなくなったら去ってしまう。でも、人生ってそういうものなのかもしれません。そういうことを今、稽古を通してヒシヒシと感じています。
-お話をお伺いしていると、今回、俯瞰(ふかん)で見て役を演じるというよりも、この作品、役にどっぷりと浸かって演じていらっしゃるのかなと感じましたが。
加藤 そうですね。ライトは頭もいいし、論理的に見えますが、それだけではやっていけない人物なんですよ。彼自身も計算はしているけれども、その計算を狂わされながら生きているので、僕たちも今、夜神月に巻き込まれている感じがします。
渡邉 本当にそうだと思います。でも、先ほども言いましたが、ワイルドホーンさんの楽曲も栗山さんの演出もそろっていて、あとは身を置けば良いだけという状況が整っているので、そこに身を置くだけで何かが始まっていくという感覚があるんです。だからこそ、ライトがデスノートを手に入れたときの、そして手に入れたと同時にリュークに命を握られたときの逃げられない感覚をリアルに感じられているのかなと思います。それに助けられて演じることができているのだと思います。
-普段の役作りでは、お二人はどのようなタイプなのですか。例えば、調べ尽くして考えた上で演じるタイプなのか、もっと感覚的なものを大切にされるタイプなのか。
加藤 蒼はめちゃくちゃ調べるんじゃない?
渡邉 そうですね。調べて調べて、考え尽くした結果、ストッパーが外れたときが面白いのかなと思います。そうしたとき、その役に基づいた正しい行動が出ると思うので。ただ、もちろん感覚的なことも大事にしたいので、その両方を兼ね備えられたらと思っています。
加藤 僕は逆にほとんど何もしないタイプです。原作ありきの作品であれば、もちろん原作を見て勉強しますし、その度にその作品のファンになるので深掘りもしますが、役を演じる上でどうなるかはその場次第かなと。舞台であれば稽古、映像作品であれば現場に行って監督や演出家の方と話しながら、周りの役者さんたちがどんな芝居をするのかによって変わってくるのだと思っているので、ほとんど役作りというのはしないんです。ある意味、言い訳でもあるんですが(苦笑)、その場に身を置けばその役になるでしょうという精神の持ち主なんです。
-加藤さんは1歳から芸能活動を始め、渡邉さんも子役としてNHK大河ドラマ「西郷どん」など数々の作品に出演されてきました。今は、どんな目標がありますか。
加藤 蒼は目標を決めるタイプ?
渡邉 決めるタイプです。今は、もっともっと上を見ないといけないという思いが強いです。韓国でこの「デスノート THE MUSICAL」の夜神月を演じたホン・グァンホさんという俳優さんがいらっしゃるのですが、その方はとんでもない経歴の持ち主なんです。夜神月役をはじめ、「ジキル&ハイド」のジキル役や「ノートルダム・ド・パリ」のカジモド役、「ラ・マンチャの男」のセルバンテス/ドン・キホーテ役などを演じていて、「ミス・サイゴン」のロンドン・ウエストエンドでの公演ではトゥイも演じているというすごい方です。彼が出演した作品は日本でも全て公演を行っている作品なので、同じ人間だし、同じものを食べて生きているので、僕にもできないことではないのではないかと目標にしています。日本でやり切れることをまずは20代、30代でやって、その後、海外に学びにいく期間を作りたいと今は考えています。
加藤 僕は目標を立てるのがとても苦手なタイプです。ただ、どんなとき、どんな状況、どんなコンディションでも、役者としてもその場に立ったら、その人として存在し続ける役者になるということは常に意識しています。それが究極なのかなと思うので、目指してはいますが、とてもとても難しいなとも思います。
-最後に改めて公演に向けての意気込みをお願いします。
加藤 頑張ります。心をわしづかみされるような題材、作品、演出、音楽なので、一瞬たりとも見逃がせない作品を作り上げていきたいと思います。ライト、そしてキラが繰り広げたこの世界を実際に生で体感していただけるよう、夜神月として生きていこうと思っています。
渡邉 栗山さんの演出、ワイルドホーンさんの音楽、セットや小道具、そして僕たち役者のお芝居でいろいろなシーンが作られていきます。見に来ていただいたお客さまの心を振り回すシーンもありますが、ぜひ楽しみにご来場いただけたらうれしいです。体感型の舞台になっています。特にこの作品は客席を巻き込むものだと思うので、必ず楽しませます。
(取材・文・写真/嶋田真己)
「デスノート THE MUSICAL」は、11月24日~12月14日に都内・東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)ほか、大阪、愛知、福岡、岡山で上演。














