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107年ぶりに新種の野生バラ(キリシマイバラ)を発見

107年ぶりに新種の野生バラ(キリシマイバラ)を発見

私たちは、宮崎県えびの市えびの高原において、新種の野生バラを発見し、キリシマイバラRosa kirishimensis Yahara & Taganeと名付けて発表しました。

最初に発見された日本産の野生バラは、1784年にツンベルクThunbergによって発表されたノイバラです。その後アズマイバラ(1878年)、フジイバラとヤブイバラ(1909年)、ヤマイバラ・ミヤコイバラとハコネイバラ(1917年)、ツクシイバラ(1918年)が発表されました。しかしツクシイバラを最後に107年間、新種は見つかっておらず、バラ属の種はすべて見つかったと思われてきました。

私たちは、えびの市えびの高原に自生するキリシマイバラが、よく似たヤブイバラR. onoeiから以下の点で区別できることを明らかにしました。

・キリシマイバラでは葉の裏が白色を帯びるが、ヤブイバラでは白色を帯びない。

・キリシマイバラの花冠はより大型で径1.7–3.2 cm(ヤブイバラでは1.2–1.7 cm)。

・キリシマイバラの雄蕊は長さ3.9–9.6 mm(ヤブイバラでは4 mm以下)。

・キリシマイバラの花弁は通常ピンク色を帯びる(ヤブイバラは白色)。

私たちは、キリシマイバラの系統的位置を決定するために、ゲノム上の遺伝的な違いを効率良く評価できるMIGseq (Multiplexed ISSR Genotyping by sequencing)法を用いて、高精度の系統樹を描きました。

その結果、キリシマイバラはヤブイバラに近縁ですが、ヤブイバラとは明瞭に異なるクラスターを形成することがわかりました。ヤブイバラはキリシマイバラが自生する宮崎県えびの市にも分布しています。同じ地域に自生していながら明瞭に異なるクラスターを形成することから、キリシマイバラとヤブイバラは生殖的に隔離された別種だと考えられます。

鹿児島大学などに所蔵されている標本を調べた結果、キリシマイバラは霧島山の1150~2000 mでのみ採集されている固有種であることがわかりました。これまで霧島山固有種として、ノカイドウMalus spontanea (Makino) Makinoが知られています。キリシマイバラは霧島山の第二の固有種と考えられます。キリシマイバラは、えびの高原の狭い範囲で約20個体(開花個体)しか見つかっていません。絶滅危惧I類(CR)に相当する絶滅危惧種です。自生地では、高密度化したキュウシュウジカの採食によって植生に大きな影響が出ています。キリシマイバラに対するシカの採食の影響を把握し、適切な保全対策を検討する必要があります。

また、高知県瓶ケ森林道に自生し、これまでフジイバラに同定されてきたシコクイバラは、神奈川県・静岡県に自生するフジイバラと形態的に異なることに気づきました。MIGseq (Multiplexed ISSR Genotyping by sequencing)法を用いて、高精度の系統樹を描いた結果、シコクイバラはフジイバラR. fujisanensisに近縁ですが、フジイバラとは異なる、独立したクラスターを形成しました。シコクイバラとフジイバラは以下の形態的特徴によって区別されます。

・シコクイバラはより幅広い小葉を持つ(図3:大型の頂小葉は幅1.4–2.1 cmに、大型の側小葉は幅1.2–1.8 cmに達する。これに対してフジイバラの頂小葉は幅0.6–1.3 cm、側小葉は幅0.6–1.1 cmである)。

・シコクイバラはより大型の花をつける(図3:花は径3–3.5 cmである。これに対してフジイバラの花は径2.5–3 cmである)。

フジイバラは、富士山周辺地域や箱根地域の火山環境に適応した植物ですが、シコクイバラは変成岩(苦鉄質片岩)や堆積岩(礫岩)などの非火山性環境に生育しています。

以上のような形態的・生態的違いを考慮し、シコクイバラをフジイバラの亜種R. fujisanensis subsp. shikokumontana Yahara & Se.Fujiiとして記載しました。シコクイバラの自生地でもシカの採食圧が高まっており、その個体群の状態を注意深くモニタリングする必要があります。

バラ属の植物は園芸用に広く栽培されるため、その分類については古くから関心がもたれてきました。そのバラ属で新種が発見されたことは、驚きです。今回の発見を契機に、バラ属の野生種の分類学的再検討を進めることで、さらなる新分類群が発見されるかもしれません。

なお、私たちの研究チームでは日本全国で多くの新種候補を発見し、『新種候補植物図鑑速報版1・2』を出版しました。

https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%96%B0%E7%A8%AE%E5%80%99%E8%A3%9C%E6%A4%8D%E7%89%A9%E5%9B%B3%E9%91%91&adgrpid=161152995975&hvadid=696134558294&hvdev=c&hvexpln=0&hvlocphy=9197727&hvnetw=g&hvocijid=16897416966472914846–&hvqmt=e&hvrand=16897416966472914846&hvtargid=kwd-2304473180553&hydadcr=13896_13573125&jp-ad-ap=0&mcid=f8da19c80e6934fb9b17f8acdd220af5&tag=googhydr-22&ref=pd_sl_1ud1hac9zt_e

これらの新種候補について、今後引き続き記載論文を発表していきます。

 

論文へのリンク:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjapbot/100/5/100_ID0326/_article

論文タイトル:日本産バラ属の2 新分類群―キリシマイバラ(新種)とシコクイバラ(新亜種)

Two New Taxa of Rosa (Rosaceae) from Japan: R. kirishimensis and R. fujisanensis

著者:矢原徹一1,田金秀一郎2,廣田 峻3,藤井聖子4,布施健吾1,佐藤広行1,社川武徳5,陶山佳久6

(1九州オープンユニバーシティ,2鹿児島大学総合研究博物館,3大阪公立大学附属植物園,4高知県立牧野植物園,5九州大学システム生命科学府,6東北大学農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター)

掲載誌:Journal of Japanese Botany 100(5): 398–415 (2025).

要旨:日本の九州と四国において,バラ属(Rosa,バラ科)の2 つの未知分類群を認識した. これらの分類学的な実態を明らかにするため,MIG-seq 法を用いて36 サンプルについての系統解析を行なった.SplitsTree および最尤法による系統解析の結果, 九州の分類群は, 同地域にも分布するヤブイバラR. onoei Makino に近縁であることが示された.しかし,この分類群は,葉の裏面が帯白色であり,花がより大きく,雄しべがより長く,花弁がふつう淡紅色であることにより,ヤブイバラから形態的に識別可能であった. したがって, この分類群を新種キリシマイバラR. kirishimensis Yahara & Taganeとして記載する.一方, 四国の分類群は, フジイバラR. fujisanensis (Makino) Makino subsp. fujisanensis に類似しているが,より広くより円形の小葉と,より大きな花により識別される.この分類群はMIG-seq データにもとづくSTRUCTURE解析および主成分分析により,その遺伝的構成はフジイバラと非常に類似していることが示されたが,最尤系統樹においてフジイバラから独立したクレードを形成した.これらの証拠に基づき,本分類群をフジイバラの新亜種シコクイバラR. fujisanensis subsp. shikokumontana Yahara & Se.Fujii として記載する.

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