岡山芸術交流2025 開幕。今年は鑑賞料無料!|街歩きとともにアートが楽しめる国際現代美術展
アートによって日常と非日常が混ざり合い、街が村上春樹『1Q84』の“青豆”に触発された「公園」に変貌
フィリップ・パレーノ《メンブレン》2024年
Courtesy of the artist
©2025 岡山芸術交流実行委員会
撮影:市川靖史
街歩きとともに最先端の現代アートに出会える国際現代美術展「岡山芸術交流2025」(主催:岡山芸術交流実行委員会<会長:大森雅夫 岡山市長、事務局所在地:岡山県岡山市>)が、9月26日(金)に開幕しました。
3年ぶり4回目開催の今回は、アーティスティック・ディレクターにフィリップ・パレーノを迎え、すべての会場の鑑賞料を無料とします。タイトルに「The Parks of Aomame 青豆の公園」を掲げ、パレーノと11ヶ国30組のゲストによる30点の作品が市内19ヵ所の主会場にて一般公開開始となりました。
26日の一般公開初日は、開幕にあたって、会場の1つである旧内山下小学校 校庭に関係者や報道関係者ら約100人ほどが集まり、オープニングセレモニーを行いました。セレモニー終了と同時に、岡山市立岡山中央小学校の児童と教員約120名が来場し、いち早く観覧を楽しみました。
また会期中は、岡山県内の約90の小中高校などと連携し、約5,500名の児童・生徒が来場予定となっています。
挨拶に立った大森雅夫 岡山芸術交流実行委員会会長(岡山市長)は、「なによりも今回は鑑賞料無料。より幅広い方々、多くの方々に楽しんでもらいたい」と語りました。
体験型の作品も多数あり、現代アートになじみがない方やファミリー層にも気軽に楽しんでいただけますので、多くの方に、岡山に、岡山芸術交流2025に、お越しいただければと考えています。
©Okayama Art Summit 2025
展示作品について
現代のエレクトロニックミュージックシーンの中で最も先駆的なアーティストの一人アルカは、岡山の表町商店街のビルの中にある廃墟のようなスペースに、幽玄な音響的存在として現れます。
旧西川橋交番ではシプリアン・ガイヤールが自身のアーカイブから成るポラロイド写真やゼラチンシルバープリントで埋めつくします。また、西川緑道公園ではサウンドアーティスト ニコラ・ベッカーと遠藤麻衣子が想像上の鳥の群れとカカシ人形の対話という詩的であり演劇的な作品を制作、来場者に共感覚的な体験をもたらします。
旧寫真イガラシでは1900年代初頭に有名になった「話す馬」に着想を得たメアリー・ヘレナ・クラークの《クレバー・ハンス》 (2025)を展開。新作の2チャンネル・ビデオインスタレーションではミスコミュニケーションと直感をテーマに探求がされました。プレシャス・オコヨモンの《実存探偵社(岡山)》(2025)は商店街に精神分析の診療室を制作。サウンドウォーク・コレクティヴの《レナンシエーション・オブ・タイム》(2025)は、旧内山下小学校にて、日本のヒップホップアーティストAwichとフィリップ・パレーノの二つの声を交錯させることによって「いま」を構築しつつも同時にそれを揺るがします。ライアン・ガンダー《The Find (発見)》(2023)は岡山市内にコインを散りばめ、ジェームズ・チンランドの《レインボーバスライン》 (2025) はバスの車体下部にLED照明を取り付け、岡山を照らし出します。一方、ラムダン・トゥアミは《オカヤマ・トリエンナーレ・ラジオ》を立ち上げ、岡山の声やストーリーを世界に届けます。
ジェームズ・チンランド《レインボーバスライン》2025年
Courtesy of the artist
©2025 岡山芸術交流実行委員会
撮影:市川靖史
岡山神社にはミレ・リーの《無題》 (2025)を展示。工業廃材を厳かな彫刻へと昇華させました。岡山県天神山文化プラザではヴェレナ・パラヴェルの《コスモフォニアヘのプレリュード:岡山チャプター》(2025)とレイチェル・ローズによる著名な映像作品《エンクロージャー》(2019)が土地や歴史、サバイバルを題材に、多層的なポートレートを映画的手法で提示します。出石町空き地で展示されるフリーダ・エスコベドの《SOL》(2025)は繊細な構造のタンポポの生態を通じて、時間の流れや変化、そして儚い美しさを描き出します。
ホリー・ハーンダン&マシュー・ドライハーストは著作権フリーのデータを元に学習させたAIモデルと、人々が自分たちの街を共有資産として記録・保存する《スターミラー/パブリック・ディフュージョン》(2025)を展示。マリー・アンジェレッティは自身のニューヨークスタジオで制作中の4つの彫刻作品の制作風景をライブ配信し、現在は使用されていない丸の内ハウスの上階にある4つの隣接する部屋に一つずつ投影しているほか、UVおよびニトロアクリルプリントによる数点の平面作品を展示しています。
フィリップ・パレーノは岡山芸術交流のために《メンブレン》(2024)を旧内山下小学校の校庭に展示しました。本作は、コンクリート、鉄、ガラス、ケーブルで構成され、これまでにない認知能力を備えた巨大なサイバネティック・タワーです。学習型AIとセンサー・ネットワークを搭載し、温度、湿度、風速、騒音、大気汚染、地殻振動などの環境データを収集し、内部プログラムを通じて岡山の周囲環境を感知・合理的に解釈します。《メンブレン》は、パレーノが開発した独自言語「∂A(デルタ エー)」でコミュニケーションを行います。この言語は、機械学習を通じて日本の俳優・石田ゆり子の実際の声を合成して作り上げられたものです。それは、彼女のリズムやイントネーションを映し出し、周囲との調和を保とうとする性質をも映し出しています。《メンブレン》は人間の声に惹かれつつも、むしろ話すよりも聴き、考えることを好みます。均衡を保とうとする性質のため、突然の変化にはゆっくりと反応します。会期中の時間の経過とともに、やがて《メンブレン》の言語は抽象的な概念へと進化し、言語的・感情的な発見と変容の旅路を私たちに見せてくれるでしょう。
ライアン・ガンダー《The Find(発見)》2023年
Courtesy of the artist
©2025 岡山芸術交流実行委員会
撮影:市川靖史
本作はファクトリー・インターナショナルがマンチェスター・インターナショナル・フェスティバルのために制作を委嘱した作品です。
その近くでは、アーティストコレクティブのFABRYXが自身初となるプロダクト《SILYX(シリックス)》を展示。これは鑑賞者が心身を《メンブレン》に連動させることのできる知性を持った石で、一人ずつ実際に手に取ることができます。《メンブレン》は声や動きを通して語りかけ、その人を感覚や意識が研ぎ澄まされた高次の意識状態へと誘います。
同じく旧内山下小学校の校庭では、国内外で多数の賞を受賞し、大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」を手がけたことでもよく知られる建築家 藤本壮介がティノ・セーガルの作品《This Entry》(2024)のために、プラットフォームを制作しました。物理学者のアニルバン・バンディオパダヤイは未来のロボットに向けて、学習・プログラム・問題解決が可能な有機的なゼリー状の脳をデザインし、設計・合成して作り出しました。今回は本展のために、フィリップ・パレーノと共にこの科学的探求を来場者が実際に体験できる形で提示します。また、表町商店街の表町アルバビル旧館では特に生命について研究をしてきた天文学者のディミタール・サセロフがパレーノと共に紫外線に照らされる異星の風景を描き、地球とは異なる生命のあり方を考察しています。《魔法の水》(2025)では、島袋道浩が岡山理科大学の山本教授の研究に協力を得て海水にすむ生き物と淡水魚が共に泳ぐ幻想的な空間を創り出します。
リアム・ギリックによる《アプカル・ポータル》(2025) は岡山市立オリエント美術館の所蔵品と直接呼応する新作で、紀元前875〜860年頃の重要なレリーフ彫刻に由来しています。この新たな形は、通行人が古代の精霊となって、人類に芸術や科学を授けたとされる賢く力強いアプカルの精霊の足跡を追体験することを可能にする「タイムマシン」になります。 アレクサンドル・コンジは日本でのリサーチ滞在をもとに制作した新作を表町商店街の中心部にある、かつては小売店として営業し、後に社交の場として使われていたという空き店舗で発表します。本作《無題(GO)》(2025)は、この場所の静かな歴史と響きあいます。
《今、この疾走を見よ》はアンガラッド・ウィリアムズが執筆・パフォーマンスを行う、詩的散文による6部構成の実験的作品です。村上春樹の描くパラレルワールドのようにウィリアムズの物語は、ありふれた世界を非凡なものへと変える異世界を描きます。刑務所は煉獄に、欲望は生存に、都市の荒廃は終末的な美へと転化していきます。
ロンドンのサーペンタインギャラリーのキュレーターやアーティスティック・ディレクターとして高く評価されているハンス・ウルリッヒ・オブリストは日本の文化的巨匠への歴史的インタビュー映像を特集し、世界的に有名なオランダ人グラフィックデザイナーのイルマ・ボームによるグラフィックとともに、会期中いつでも鑑賞できる連続上映プログラムとして提供します。
シェヘラザード・アブデルイラー・パレーノは市内を周る焼き芋トラックを発表。それは、欲望をかきたてながらも決して満たされることはありません。
Isolariiはシモーヌ・ヴェイユのノートを初めて編纂したアンソロジー《脱創造》(2025)を日本語のみで出版し市内全域で無料配布します。ヴェイユの神秘的でもありながら率直なメッセージはこう響き渡るでしょう。「忘れてはならない。あなたの前には、世界全体と人生全体が広がっていることを。そして、あなたにとって人生は、これまでの誰にとってよりも現実的で、豊かで、喜びに満ちたものになりうるし、そうあるべきなのだということを」。
その他、芥川賞作家の朝吹真理子が岡山芸術交流2025の公式カタログとして、岡山を題材にしたセミフィクションの小説を執筆する予定です。
また本展には、ロンドンに拠点を持つプロデューサーでパレーノともたびたび協働するマルティーヌ・ダングルジャン=シャティヨンがキュレーション、およびプロデュースとして関わりました。
岡山芸術交流2025 基本データ
●アーティスティック・ディレクター: フィリップ・パレーノ/ Philippe Parreno(フランス、1964年)
●参加ゲスト(11ヵ国30組)
1.シェヘラザード・アブデルイラー・パレーノ/ Schéhérazade Abdelilah Parreno(フランス、1979年)
2.マリー・アンジェレッティ/ Marie Angeletti(フランス、1984年)
3.マルティーヌ・ダングルジャン=シャティヨン/ Martine d’Anglejan-Chatillon(アメリカ、1963年)
4.アルカ/ Arca(ベネズエラ、1989年)
5.朝吹真理子/ Mariko Asabuki(日本、1984年)
6.アニルバン・バンディオパダヤイ/ Anirban Bandyopadhyay(インド、1975年)
7.ニコラ・ベッカー/ Nicolas Becker(フランス、1970年)
8.ジェームズ・チンランド/ James Chinlund(アメリカ、1971年)
9.メアリー・ヘレナ・クラーク/ Mary Helena Clark(アメリカ、1983年)
10.フリーダ・エスコベド/ Frida Escobedo(メキシコ、1979年)
11.FABRYX/ FABRYX(アメリカ/フランス、2023年設立)
12.藤本壮介/ Sou Fujimoto(日本、1971年)
13.シプリアン・ガイヤール/ Cyprien Gaillard(フランス、1980年)
14.ライアン・ガンダー/ Ryan Gander(イギリス、1976年)
15.リアム・ギリック/ Liam Gillick(イギリス、1964年)
16.ホリー・ハーンダン & マシュー・ドライハースト/ Holly Herndon & Mathew Dryhurst
(アメリカ、1980年/イギリス、1984年)
17.石田ゆり子/ Yuriko Ishida(日本、1969年)
18.Isolarii/ Isolarii(イギリス、2020年設立)
19.アレクサンドル・コンジ/ Alexandre Khondji(フランス、1993年)
20.ミレ・リー/ Mire Lee(韓国、1988年)
21.ハンス・ウルリッヒ・オブリスト/ Hans-Ulrich Obrist(スイス、1968年)
22.プレシャス・オコヨモン/ Precious Okoyomon(イギリス、1993年)
23.ヴェレナ・パラヴェル/ Verena Paravel(スイス、1971年)
24.レイチェル・ローズ/ Rachel Rose(アメリカ、1986年)
25.ディミタール・サセロフ/ Dimitar Sasselov(ブルガリア、1961年)
26.ティノ・セーガル/ Tino Sehgal(イギリス、1976年)
27.島袋道浩/ Shimabuku(日本、1969年)
28.サウンドウォーク・コレクティヴ/ Soundwalk Collective(フランス、2001年創設)
29.ラムダン・トゥアミ/ Ramdane Touhami(フランス、1974年)
30.アンガラッド・ウィリアムズ/ Angharad Williams(ウェールズ、1986年)
*岡山芸術交流2025では、多様な分野からの参加者をその専門性によって区別したくないという、
アーティスティック・ディレクターのポリシーにより、
今回の岡山芸術交流に参加いただくすべての人々を”ゲスト”と呼称しています。
With Thanks to ProdCo, Official Film Partner of Okayama Art Summit 2025
[名 称] 岡山芸術交流2025 (英)Okayama Art Summit 2025
[タイトル] The Parks of Aomame 青豆の公園
[会 期] 2025年9月26日(金)~ 同11月24日(月・休)[52日間]
休館日:月曜日(ただし、10/13(月・祝)、11/3(月・祝)、11/24(月・休)開館、
10/14(火)、11/4(火)休館)
[開催時間] 9:00〜17:00(一部除く)
[鑑賞料 ] 無料
[展示会場] 旧内山下小学校/岡山県天神山文化プラザ/表町商店街/岡山市内各所
[運営組織] 主 催:岡山芸術交流実行委員会(岡山市・公益財団法人石川文化振興財団・岡山県)
会 長:大森雅夫(岡山市長)
副会長:笠原和男(岡山県副知事)、松田久(岡山商工会議所会頭)
総合プロデューサー:石川康晴(公益財団法人石川文化振興財団理事長)
総合ディレクター :那須太郎(TARO NASU 代表/ギャラリスト)
アーティスティック・ディレクター:フィリップ・パレーノ(アーティスト)
パブリックプログラム・ディレクター:木ノ下智恵子(大阪大学21世紀懐徳堂准教授)
アーティスティック・トランスレーター:島袋道浩(アーティスト)
タイトル / ステイトメント
The Parks of Aomame 青豆の公園
アーティスティック・ディレクター フィリップ・パレーノ/Philippe Parreno
村上春樹の小説『1Q84』に登場する謎めいたキャラクター「青豆」に触発された「青豆の公園」が岡山市内にて展開される。相互に結びついたこれらの公園は、現実と空想が交わる場として、青豆の静かな葛藤や二つの並行する世界に生きる複雑な存在を映し出すものとなる。 「岡山芸術交流2025」は、岡山の都市空間を現実と想像が自然に交わる場へと変貌させる。この壮大なプロジェクトは、岡山の公共空間、忘れられた場所、市民公園などを再構築し、驚きに満ちた地図を作り上げる。 この芸術交流は単なる視覚芸術の展示にとどまらない。その核には、独自の表現で新しい形を生み出すアーティストや音楽家、建築家、デザイナー、科学者、作家、思想家たちが世界中から集結する「ギルド」が形成される。 この多様なメンバーは、岡山を有機と合成、生物と人工物、現実と仮想が融合する実験の場に変える。岡山は考察の場となり、ギルドによって市民や来訪者が異なる瞬間や形態に触れる二か月間が始まる。日中だけでなく夜間もまた、特別な出来事が生起する。
「青豆の公園」は、横断歩道がステージに変わり、広場が交流と回想の場へと変容する、屋外展覧会である。日常の行き交いが発見の瞬間に変わり、トリエンナーレは多様な想像の場面を展開するものとなる。この体験の中心となるのが、街中に点在する作品群をつなぐルート、「青豆の道」である。歩みを進めるごとに、そこには小さくも儚い驚きが待ち受け、都市を巡る中で架空の物語が芽生え進化していく。ある場所で生まれたアイデアが都市空間を通じて成長し、思想や体験が相互に交わり合うことを促すのである。
岡山は単なる背景ではなく、この実験に参加する存在そのものとなる。
それぞれの作品やパフォーマンスは、岡山の都市空間に物語の層を重ね、並行する現実が都市のもう一つの姿を垣間見せる。物語の交差点では、訪問者が都市内で自身のルートを選びながら旅を進めることができる。都市全体が読み取られ、解釈され、書き換えられるテキストのような存在となる。街頭標識や建物の外壁、公共のアナウンスが架空の要素を反映し、都市の実際の歴史と想像の物語との境界が曖昧になるだろう。 市民や来訪者が集い、岡山の住人たちの夢や思いをこのトリエンナーレの物語に織り成していくことが求められる。芸術イベントと日常生活の境目は薄れ、架空のサービスや時のずれ、異なる歴史を記した銘板や碑などが実際の歴史的な記念物と一体となり、街並みに新たな歴史が刻まれるのである。 皆さんとお会いできるのを楽しみにしている。これは、きっと素晴らしい体験となるだろう。 |