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オンラインセミナー 「川がつなぐ国と国―ブラマプトラ川から見る国際機関業務の現場―」を開催

国際河川をめぐる多国間協力は紛争予防の一助となるか

2025年6月27日
公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団

 
セミナーで使用されたスライドより(C)田中幸夫

 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(所在地:東京都港区、理事長:中山幹康、略称:日本GIF)は、2025年5月29日(木)午前10時から、Zoomを利用したオンライン形式にて、ワシントン在住の世界銀行上級水資源管理専門官の田中幸夫氏を講師にお招きし、「川がつなぐ国と国―ブラマプトラ川から見る国際機関業務の現場―」と題したセミナーを開催しました。

開催趣旨
 国際協力への懐疑や援助機関への風当たりが強まる昨今、現場で築かれる「見えないインフラ」、すなわち国際協力基盤に光を当てることが重要であると考えられます。本セミナーでは、世界銀行上級水資源管理専門官の田中幸夫氏に、ブラマプトラ川流域(インド・アッサム州、ブータン、バングラデシュ)で進行中の大規模プロジェクトを題材に、「国境を越える水」の管理が平和と包摂的成長を支えるメカニズムを、現場目線で掘り下げて解説いただきました。
 洪水予警報モデルの共同開発、上流・下流の利害調整、州政府と中央政府のねじれ、さらにはアジア開発銀行との役割分担――複雑なステークホルダーを束ねる際、世界銀行は「中立の触媒」としてどのように合意形成を進めるのでしょうか。セミナーでは、データ共有の合意文書づくりや資金インセンティブ(リバブル・プラネット・ファンド)の設計、技術協力に伴う人材育成まで、平時から紛争の芽を摘む、国対国の相互関係を築くための活動について話を伺いました。加えて、海への物流動脈となる内水面航路整備をめぐり「下流国が上流国を動かす」逆転現象が協力の呼び水となる実例も取り上げられ、従来イメージとは異なる国際河川交渉のダイナミズムが浮き彫りになりました。

講演要旨
1. 国際河川問題の概要
・国際河川とは、流域が複数の国にまたがる河川を指す。世界には300以上の国際河川があり、150か国以上が共有している。国際河川流域は世界の陸地面積と人口の約半分を占め、国境を越える水資源の管理は国際関係において極めて重要
・日本の農業水利で用いられる「上流優位」「古田(こでん)優先」の原則は、国際河川でも見られるが、国家間の力関係などが影響し、一義的に適用されるとは限らない
・1997年に、国際河川における協力や紛争対応を目的とする「UN Watercourses Convention(国際水路の非航行的利用に関する条約)」が採択されたが、多くの上流国は未批准
・南アジアでも国際河川は外交・安全保障において重要である。地域覇権国のインドは、ガンジス川のファラッカ堰やインダス水協定などで影響力を持つ
・世界銀行は、技術や政策に関するグローバルな知見、信頼性、広範なネットワーク、資金調達能力に加え、多様なステークホルダー間の調整機能を活用して支援にあたっている

2. ブラマプトラ川の特徴と課題、プロジェクト概要
・ブラマプトラ川は中国を水源とし、インド(アッサム州)・バングラデシュを経てベンガル湾に注ぐ
・アッサム州では、多数の支川を含め、ブラマプトラ川の豊富な流量が洪水や河岸浸食で大きな被害をもたらし、州の主要産業の紅茶の生産にも影響が及んでいる
・世界銀行の「アッサム統合河川流域管理プログラム(AIRBMP)」は、主にブラマプトラ川の支川を対象としている
・世界銀行は、本川の整備を実施しているアジア開発銀行(ADB)と進捗を連携管理、ブータン、バングラデシュとの連携も模索

3. ブラマプトラ川をめぐる地域・国際機関の協力
・2022~2024年には、ブータン・インド(アッサム州)・バングラデシュでの相互訪問や、河川形態・洪水予測・内陸水運に関する技術ワークショップ、ガンジスカワイルカ保護を目的とした地域プラットフォームの設立など、多様な地域協力活動が展開されている
・政府や開発パートナー(DPs)による投資として、インド政府はブータンの水文観測所建設やバングラデシュでの河川浚渫事業に資金を提供しているが、データアクセスに課題もある

4. 地域間協力事業の現在地と教訓、国際機関の果たす役割
・今後は、日本を含む世界銀行出資国が拠出するリバブル・プラネット・ファンド(LPF)を活用し、三国連携プロジェクトを2026年1月開始予定のAIRBMPフェーズ2に組み込む見通し
・アッサム州政府およびインド中央政府双方から実施の合意は得られている。ブータンおよびバングラデシュ両国とは大枠で合意しているが、後者は政情不安により今後の進展に予断を許さない状況
・南アジア(特にインド)では国際河川問題に触れることがタブーとされるきらいがあるが、それぞれの流域国にメリットがある場合はその限りではない
・内陸水運は、経済成長・脱炭素に貢献し、上下流でゼロサム的な競合関係が発生しにくいため、相互利益を見出しやすい
・ブラマプトラ川の洪水予警報の協力は、水文情報が必要な「下流の大国(インド)」と、インフラ整備が必要な「上流の小国(ブータン)」という珍しいケースだが、ガンジス流域のインド・ネパール関係にも適用可能な示唆を含んでいる
・こうした地域協力を推進するには、国際機関の触媒的役割に加え、地域協力のための資金メカニズムの整備が不可欠
・国際河川をめぐる流域国間の協力は、互恵的な相互依存関係の構築に寄与し、結果的に国家間紛争予防の一助となる

 講演後の質疑応答では、国際河川での協力において気候変動は脅威かそれとも協力を促進する機会か、ユーフラテス川におけるトルコとイラクの水資源をめぐる国家間の対立、ブラマプトラ川の洪水および河岸侵食は今後減少か増加か等、多様な視点から議論が行われました。
 セミナー終了後のアンケートによると、「ブラマプトラ川をめぐる地域・国際機関の協力」や「地域間協力事業の現在地と教訓、国際機関の果たす役割」「国際河川問題の概要」のパートへの関心が高かったことがわかりました。この他にも多くの質問や意見が寄せられ、ブラマプトラ川をめぐる国際機関業務の今後の行方への高い関心が見て取れました。

セミナー概要
主  催: 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(日本GIF)
日  時: 2025年5月29日(木)10:00~11:30
名  称: オンラインセミナー「川がつなぐ国と国―ブラマプトラ川から見る国際機関業務の現場―」
開催形式: Zoomを利用したオンライン形式(ウェビナー)
講  演  者: 田中幸夫(世界銀行上級水資源管理専門官)
司  会  者: 中山幹康(日本GIF理事長)
参  加  費: 無料
動  画: https://gif.or.jp/seminar_youtube/wb-2/

講師略歴
田中幸夫

田中幸夫
世界銀行水グローバルプラクティス上級水資源専門官。博士(農学)。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程中退、日本学術振興会特別研究員(2006~07年)、東京大学助教・特任講師(2007~12年)、国際協力機構(2012~17年)を経て、2017年より現職。発展途上国における持続可能な水資源管理・利用をテーマに、これまでアジア・中東・アフリカ30か国以上の水資源・灌漑・洪水対策プロジェクトに従事。研究または業務で携わった国際河川はメコン、ガンジス、ブラマプトラ、ティグリス・ユーフラテス、ナイル、ドナウなど。

セミナーで使用されたスライドより(C)田中幸夫

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