「特集」ゲームチェンジの行方 Q&A 高市政権の物価高対策「選挙後」に仕切り直し
衆院の解散を受け、高市早苗首相が取り組むべき物価高対策は、選挙戦の政治空白をはさんでの仕切り直しとなる。多くの党が掲げる消費税の減税や廃止は争点としてはかすむ一方、もともと超党派で議論するはずだった給付付き税額控除の制度設計は事実上、棚上げとなった。「責任ある積極財政」の先行きを危ぶむ市場は不安のサインを強め、早くも「選挙後」に目を凝らしている。注視すべき課題を中心に、経済問題に詳しいライターの秤氏にQ&A形式でポイントを整理してもらった。

Q 唐突感の否めない解散・総選挙となりました。政治空白は避けられず、急ぐべき経済政策の実行が遅れてしまうのではないでしょうか。
A 解散を正式に表明した1月19日の記者会見で高市首相は「経済運営に空白をつくらない万全の体制を整えた上での解散だ」と説明しました。暫定予算の計上などを急ぎ、高校授業料や給食の無償化の2026年4月開始を目指すとしています。
「むしろ選挙で国民の信を得ることができたら、その後の政策実現のスピードを加速できる」と、いわば「急がば回れ」を選択した真意を語っています。
Q 少なくとも政権発足後、「最優先課題」として掲げた物価高対策を急いでほしいですね。
A 本来は物価上昇を上回る賃上げが必要な経済情勢ですが、それには一定の時間がかかるため、即効性の高い政策を矢継ぎ早に打ち出しました。2025年度補正予算は一般会計で18兆円を計上、この内ほぼ半分の8兆9千億円を生活の支援や物価高対策メニューに充てています。
ガソリン暫定税率は昨年末に廃止され、1リットルあたり25・1円の上乗せ分がなくなりました。暖房費がかさむ冬期(1~3月)の電気・ガス料金の補助に5296億円を充て、一般的な家庭で合計7300円程度の負担軽減となります。
Q おこめ券などの商品券はどのように実施されますか。
A 地方自治体が自由に使える「重点支援地方交付金」に2兆円を計上。この内おこめ券や電子クーポン券の配布など食料品の価格高騰への対策に4千億円を充てています。物価高対策の子育て応援手当(仮称)として、高校生までの子ども1人当たり2万円も支給します。
おこめ券はやや物価高対策の宣伝色を帯びて、話題が先行した面は否めません。国民1人当たり3千円程度なので、配布コストを考慮すれば、実際にはデジタル商品券のような形式を選ぶ自治体が多そうです。
Q 物価高対策として、制度設計が始まるはずだった給付付き税額控除はどうなりますか。
A 選挙戦で各党が再び消費税の減税や廃止を訴えており、いわば「平時モード」の検討課題だった給付付き税額控除は宙に浮いてしまった格好です。中道改革連合の安住淳幹事長は「高市首相自身が(議論を)断ち切るのではないか」と批判しました。
もともと消費税減税に代わる負担軽減策として自民党、日本維新の会、旧公明党、旧立憲民主党の各党に賛同する声があり、協議の場が検討されてきた側面があります。高市首相は選挙後、「国民会議」の設置の考えは変えていませんが、開催できたとしても、消費税減税の財源探しやスケジュールなどに議題が拡散しそうです。
Q そもそも給付付き税額控除とは、どのような制度ですか。
A 給付付き税額控除とは、所得税から一部を差し引く税額控除と現金を渡す給付を組み合わせた制度です。高所得層には減税効果を及ぼし、納税額が少なく所得減税の恩恵が及びにくい中低所得層には給付で補うという、いわば「減税+給付」のセットで、物価高による家計の負担をサポートする発想です。
例えば10万円の給付付き税額控除なら、本来の納税額が15万円の人は納税額が5万円で済みます。納税額が5万円の人なら税額はゼロで、控除しきれず使い残した差額5万円の現金を受け取れます。納税額がゼロの人なら10万円の現金給付を受けられる計算です。

Q 物価高の打撃を受ける中、低所得層を柔軟に支援する政策効果を期待できますね。
A 日本は海外に比べ、低所得世帯での社会保険料負担が相対的に重いとされるだけに、食料品をはじめとする物価高騰の今こそ、有意義な制度設計が望まれていました。
一方、消費税は所得によらず同じ税率が適用されるため、低所得者の税負担が相対的に重くなる「逆進性」の問題があります。高所得者は低所得者よりも消費額が大きいため、一律で減税すると高所得者ほど減税の恩恵を受けやすくなってしまいます。
Q 中道は食料品に限り期限を定めず消費税ゼロを打ち出しました。こうした手法なら逆進性を緩和できるのではないですか。
A 高市首相はそもそも消費税減税について、これまで「選択肢として排除しないが、物価高対策としては即効性に乏しい」としていました。消費税は「景気や人口構成の変化に左右されにくく安定した税収を見込め、社会保障の財源として重要」だとする自民党の立場に配慮した形です。
高市政権発足後のガソリンなど旧暫定税率廃止や高校無償化などに必要な財源は合わせて2兆2千億円。これに対し、歳出削減などで確保できたのはせいぜい1兆4千億円です。そこへ消費税を食料品限定でゼロとすれば、5兆円規模の税収減が重なり、財源の手当てはさらに厳しくなります。「消費税に手を付ける」代償がいかに大きいかが分かります。
Q それなのに結局また、消費税減税に議論が先祖返りしてしまった印象です。
A 高市首相は軽減税率が適用されている飲料、食料について2年間に限り消費税を課さない、としました。「自民党と日本維新の会の連立政権合意書に書いた政策であり、私自身の悲願でもある」と言い切りましたが、党の方針との一貫性を問われると、国民を十分に納得させるのは難しいでしょう。
Q さらなる財政悪化の予感から、円安、債券安(金利高)が進んでいます。不安を募らせる市場のサインに見えます。
A 昨年9月に1ドル=147円前後だった円相場は本稿執筆時点(1月23日)で158円前後の円安ドル高になっています。国内債券市場では長期金利が上昇(債券価格は下落)し、指標となる新発10年物国債の利回りは2・2%台と、27年ぶりの高水準を付けました。
積極財政⇨国債の発行⇨円の信認低下⇨日本国債売り・円安が進行⇨輸入品が値上がりという連想です。低失業率もあり、物価高対策の財政出動が巡り巡って次のインフレを招いている一面があるとも言えます。
Q 選挙戦突入で、2026年度当初予算の年度内成立が難しくなっていますが、「責任ある積極財政」はどの程度、意識されているのでしょうか。
A 2026年度予算案は一般会計総額が過去最大の122兆3092億円となりました。ただ歳入の内、新規国債の発行額は29兆5840億円と、30兆円を下回ったほか、歳出を借金でどのぐらいまかなっているかを示す公債依存度は24・2%と、前年度当初から微減しました。
また国債の利払い費を除く政策経費を主に税収などでまかなえているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)は予算段階で黒字に転じたことから、「財政規律に配慮し、強い経済の実現と財政の持続的可能性を両立させる予算案」だと高市首相は説明しています。
Q 首相は財政の機動性に配慮し、PBの黒字化は複数年度の目標に緩めていました。
A その通りです。PBの単年度目標に縛られることを避け、今後は政府債務残高の名目GDP(国内総生産)比を重視する考えを示しています。コロナ禍の2020年に258%に達した政府債務のGDP比は25年見通しで230%に下がります。
潜在成長率が1・5%ほどに伸び、3%前後の名目成長が続けば債務残高のGDP比は見かけ上、下がり続けるでしょう。ただこれは単にインフレで分母(名目GDP)が膨らんだ影響もあり、ただちに財政の健全化が進んだとは言い切れません。
しかも足元の金利上昇で利払い費がかさめば国債費が増え、政策経費の機動性は削(そ)がれるでしょう。2026年度予算案の国債費は31兆円を超え、前年度当初比10・8%増です。財政の収支が主要国に比べ突出して悪い状況に変わりはありません。
Q 政府債務から政府の金融資産残高を差し引いた純債務残高のGDP比でみれば133%(24年、IMF調べ)と、日本はG7(先進7カ国)各国と比べても大差ないとの言説もあります。
A 日本の純債務残高がそれほど悪くないように見えるのは、年金積立金のせいでもあります。日本政府の運用機関(GPIF)が抱える年金積立金残高は258兆7千億円(2024年)。これが政府の金融資産を数字上大きく見せ、純債務残高が相対的に低く見えるカラクリです。
しかし、年金積立金は将来給付のために存在しているので、債務返済に自由に使えるわけではなく純債務残高のGDP比の議論には注意が必要です。

Q 選挙後に高市首相の経済政策「サナエノミクス」はどこへ向かうのでしょうか。
A 政治信条が近かった安倍晋三元首相の後継者といわれますが、過去の大幅な円高・デフレ期にアベノミクスが目指したマクロ拡大策が、現在の円安・インフレ期にそのまま通用するとは思えません。
高市首相の経済ブレーンには、アベノミクス時代の有識者が名を連ねていますが、政策の柔軟なチューニングを求められそうです。場当たり的な物価高対応に終わらせず、緩やかなインフレが定着する前提で、これと共存できるような強靱(きょうじん)な経済の体質改善を目指すべきでしょう。
Q 選挙後のポイントはズバリ、何ですか。
A 選挙結果や今後の政権の枠組みにもよりますが、高市首相が超党派での設置を目指した「国民会議」を、物価高対策としての給付付き税額控除だけではなく、社会保障全般の中長期的な展望を広く話し合う場として再起動してほしいです。
加速する少子高齢化のもとでの社会保障制度の維持こそが財政の最大の課題であるのは間違いなく、この枠組みを通じて世代間の利害を調整し責任を分かち合う、そんな議論を重ねることが政治の責任だと考えます。
Q まずは政権の安定基盤ありき、とも映る今回の総選挙では高市首相の強い個性や施政の考え方も問われそうです。
A 所得税が発生するラインを178万円まで引き上げた「年収の壁」問題、子ども向け給付金、ガソリン暫定税率の廃止など、受け入れた野党の要求はいずれも財政を悪化させる要素です。こうした〝妥協の構図〟が今後も続けば、政権の手足を縛り、選択肢を狭められてしまうとのストレスは強かったはずです。
しかしこれを少数与党の悲哀とするか、多党時代ならではの対話と協調の産物と前向きに評価すべきか。外交・安全保障問題なども含め、高市政権にどこまでの信任と裁量を与えるのか、まずは国民の審判を待ちましょう。
(Kyodo Weekly 2026年2月2日号より転載)
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