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「幸せな人生を歩み続けることを目指す」 チャレンジ機会やチャンスは公平に 日総工産の特例子会社「日総ぴゅあ」の取り組み

菓子箱の作業をしているCS社員

菓子箱の作業をしているCS社員

 「人の幸せは四つ。愛され、ほめられ、役に立ち、必要とされること。働くことで少なくとも三つ、手に入る」――。これは、日本理化学工業(川崎市)の大山泰弘元会長の言葉だ。大山氏の知り合いの僧侶に教えてもらったという。同社は、チョークをはじめとする文房具・事務用品の製造販売を手がける企業で、知的障がい者の雇用に力を入れていることでも知られる。

 同じ神奈川県内で、総合人材サービスを手がけるNISSOホールディングス(プライム上場9332)のグループの中核会社である日総工産(横浜市)の特例子会社「日総ぴゅあ」(横浜市、遠藤太嘉志社長)も、障がい者雇用に積極的だ。同社では働く障がい者を「チャレンジドスタッフ(CS社員)」と呼ぶ。遠藤社長はCS社員について「社会で自立することがゴールではなく、そこから幸せな人生を歩み続けることが本来の目指すべき姿ではないか」と語った。

 行動指針の一つに「チャレンジ機会やチャンスは公平に」を掲げる日総ぴゅあ。CS社員が働く事業所や業務委託元の企業を取材するとともに、現場のCS社員の声も交え、「人の幸せとは何か」を考えながら、同社の取り組みを紹介したい。

取材に応じる遠藤社長

▼社外にキャリアアップも

 日総ぴゅあは、親会社の日総工産の特例子会社として2007年に設立。特例子会社とは、障がい者雇用の促進と安定を図るため、企業が特別の配慮する子会社のこと。日総ぴゅあで働く障がい者の人数などが一定要件を満たせば、特例で親会社の日総工産に雇用したとものとみなされ、障がい者の法定雇用率として算定できる。

 事業所は、横浜市内の新横浜、仲町台(都筑区)、幸浦(金沢区)の3カ所。今回は、仲町台事業所のほか、業務受託元である、物流・運送・倉庫業の阿部興業株式会社の構内にある幸浦事業所、スポーツ用品製造の日本シャフト株式会社の構内にある職場を訪れることができた。

 日総ぴゅあの特徴の一つは、一般的な特例子会社と違って、先ほどの阿部興業、日本シャフトといった外部の企業から、直接業務を受託している点だ。

 遠藤社長は「今年5月、受託元の幸浦事業所で働いていたCS社員が、受託元である阿部興業様に正社員として転籍をすることができました。私たちは会社として意欲と成長を促すキャリアアップの仕組みを整備しており、そのCS社員も、『社外キャリアアップ』を活用し、フォークリフトの作業員として元気に働いています」と笑顔で語った。

事業所(仲町台)でボールペンを正確に組み立てる様子

▼「ほめられる仕掛け」

 日総ぴゅあの全社員は212人で、うち障がい者は186人(2025年4月時点)。障がいの内訳は、知的障がいが全体の85%と最も多く、年齢は20代の方が56%、30代が32%と比較的若い人が多い職場となっている。男女比では、72%が男性。

CS社員の担当業務は、菓子箱・日用雑貨の組み立てや検品、荷物の仕分け作業、野球用バットなどの製造にあたるほか、経理書類のデータ化や、PCキッティング、アノテーション作業という、膨大なデータの中から人工知能(AI)に学習させるデータを選別する作業など、障がい者の適性に応じてさまざまだ。

 勤続年数については10年以上が30%、5年から10年までが27%と、「勤続年数10年以上の方が多く、職場の定着率はかなりいいのではないか」(遠藤社長)という。

 要因としては、多岐にわたる業務の割り振りについては、各人の障がいの特性に合わせ、配慮しながら進めるとともに、日総ぴゅあの社内の共通理解として、次の四つを申し合わせていることが挙げられるだろう。

 ▽「決めつけない」→既成概念でできる、できないを決めつけない▽「チャレンジ機会やチャンスは公平に」→特性や(障がいの)重さに応じた多様なチャレンジ機会やチャンス▽「諦めない」→根拠なき妥協はせず、根気よく指導を継続する▽「追求する」→現実論にとらわれ過ぎずに、常に理想を追求する

 これらの四つの行動指針を基本に、CS社員の育成と定着に向けたさまざまな取り組みを社内に構築している。遠藤社長は「率直に申せば、彼ら彼女たちは、それまでの人生の中で、あまり他人にほめられてこなかった人が多いという印象を受けます。ですので、社内の中では、ほめられる仕掛けなどを用意しています」と指摘した。

 同社では、ジョブコーチや職場生活相談員などの資格を持つ職場指導員がCS社員たちを個別にフォローし、ささいな変化を見逃さないことを前提に、①CS社員が定のスキルや要件を満たすことで、リーダーに昇進することができる制度、②CS社員の目標達成時や、著しい成長、率先した活動を表彰する賞揚制度、③それぞれの業務で一定水準をクリアしたCS社員人を対象にマイスターとして社内認定制度-などを展開している。

 2024年度では、業務の改善提案が52件あり、5人のCS社員をマイスター認定している。また、賞揚制度では、月ごと、半期ごと、年間の各タイミングで、多くのCS社員に表彰状を出し、それらが事業所の壁に張ってあった。事業所内の「ほめる・ほめられる」という仕掛けが奏功し、CS社員たちのモチベーションアップにつながっているようだ。

 遠藤社長は「われわれの取り組みに興味を持っていただける企業さんもあり、障がい者雇用について、セミナーなどを開いてほしいという要望もいただいています」と話す。

歯ブラシの点検を行うCS社員

▼「完成するとうれしい」

 阿部興業では、日総ぴゅあのCS社員らが、物流倉庫内での荷物のピッキング作業や、物流用資材の洗浄・仕分け、このほか、構内の一角に作られたスペースで、菓子箱の組み立てに従事していた。菓子箱の組み立て現場に入ると、職場指導員が見守る中、CS社員約20人が大きな声で一斉に「こんにちは」とあいさつをしてくれた。

 菓子箱用の厚手の平面の紙が、CS社員の流れ作業の下、立体的になっていく。現場のグループリーダーの近藤英史さんは「できあがった菓子箱を、しっかり検品するなどして、本当に丁寧に作ってくれています」と話した。

 この作業所で仕上がった菓子箱を、一時的に保管し、阿部興業がクライアントの菓子メーカーに運送するというビジネスモデルだ。

 阿部興業の渡辺寛栄常務取締役は「私どもの代表が、企業は社会貢献をしなければいけないという信念の持ち主で、日総ぴゅあさんに相談して、お願いをしたのが始まりでした。みなさん、実によくやってくれています」と語る。

幸浦事業所で菓子箱を作っている光景(阿部興業の社内)

 次にゴルフ用シャフトの製造・販売のほか、野球用バットなどの製造を手がける日本シャフトを訪問した。

 同社の一角に、軟式野球用のバットを製造するスペースが作られ、そこで、職場指導員のほか、約5人のCS社員が作業に当たっていた。約3年前から、ここで働いている20代の男性CS社員は、仕上がりの最終工程となる、バットのグリップのテープ巻き作業などを担当。男性は「最初はうまくテープが巻き付かなかったけれど、周りの人に教えてもらってから、できるようになった。完成するとうれしい。今後の課題はもっと早くテープを巻けることです」と元気に話してくれた。

日本シャフトで製造されている野球用バット

▼「成長する実感」

 幸浦の事業所の近くにある、物流センターが立ち並ぶ、ESR横浜幸浦ディストリビューションセンター1に移動。ここでは、阿部興業がセンター内のスペースを借りている。その一角でCS社員が菓子を箱詰めし、箱詰めされた菓子箱を自動マシーンで包装・梱包を行い、最終的に運送に適した形に荷造りをする。CS社員約20人が、衛生面に配慮した白色のユニフォームを着用し、段取り通り、作業に当たっていた。

 この職場で、業務の進捗管理をしている、CS社員の山口さん(25)という男性に話が聞けた。山口さんは昨年から、この現場で働き、「お菓子の種類が3種類あり、箱に入れるときに、間違えてはいけないというプレッシャーはあります」と話す。ただ、「進捗管理がうまくいったときは、この仕事にやりがいを感じます。そして、自分が少しずつ成長しているという実感があります」とした上で「もっと上を目指し、リーダーに挑戦したい」と述べ、今の仕事に満足していることを強調した。

インタビューに答える山口さん

 山口さんの趣味はカメラだ。休日は、大型客船など船の撮影をしに、横浜の港などに出かけている。昨年は家族と一緒に、大型客船でクルージングができたことを、とてもうれしそうに、船内で撮影した写真を見せながら紹介してくれた。「将来は、もっと大きな船で、家族とともに世界一周の旅に行きたい。それが夢ですね」と、笑顔で話す。

 遠藤社長は「正直なところ、日総ぴゅあ単体では、なかなか採算はとれていません。親会社である日総工産からの資金提供で経営が回っているというのが現状です」と、障がい者雇用による経営の難しさを指摘する。その上で遠藤社長は「日総ぴゅあが、外部の企業にもっともっと営業を展開し、業務委託の仕事を獲得し、CS社員の活躍の場を広げていきたい。その結果として単体でも稼げる会社になり、社員に還元できるよう精いっぱいがんばりたい」と意気込みを語った。

左から遠藤社長、山口さん、近藤さん

  • 菓子箱の作業をしているCS社員

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