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子育て・定住支援を進める東京・奥多摩町 変革期を迎え、おむつギフトカードの提供も

師岡伸公・奥多摩町長(町役場の屋上にて)

 東京の最北西端に位置する奥多摩町。都全体の約10分の1に相当する広大な面積の奥多摩町は、全域が秩父多摩甲斐国立公園に含まれ、日本百名山の一つ雲取山や、東京を貫流する多摩川源流のある自然豊かな町だ。

 約9割が森林に覆われる町の総人口は現在、約4400人。他の中山間地域と同様に、人口減少や少子高齢化、財源対策などの課題を抱える中、未来に向けた「まちづくり」「教育づくり」「観光資産づくり」に取り組んでいる。

 「安心して子どもを生み育てられるまち」を目指す奥多摩町は、2008年から全国の自治体に先駆けて、子どもの成長をサポートする福祉サービスや定住支援により、若者世代の定住に積極的に取り組んできた。

 定住支援では、若者が安い家賃で借りられる町営住宅の提供や、住宅の購入やリフォームへの補助金と利子補給の助成も行っている。また、子育て支援では、世帯で1人目の子どもから保育料を全額助成する「保育園保育料助成事業」、小・中学校給食費の全額を助成する「学校給食費助成事業」、高校生の通学をサポートするため、ガソリン代やタクシー代の一部費用を助成する「高校生等通学費支援事業」など幅広い世代に向けた支援を行っている。奥多摩町独自の事業も多く、年齢に応じたさまざまなサポートが受けられるのが特徴だ。

 師岡伸公(もろおか のぶまさ)奥多摩町長に、町の子育てや定住支援の現状と今後の展望について聞いた。

▼全国に先駆けて始めた子育て、定住支援

 「人口推計によると、全国的に人口減少は進んでいきます。奥多摩町でも人口の減少は止められないが、減少のカーブを緩やかにできないかと考え、さまざまな事業への取り組みを始めました。

 人口が減少していく中で、高齢化率が上がり、若者がいなくなるということは、高齢者を支える人材もいなくなる。高齢化率が数年前から、50%を超えている状況で、50歳以下の働ける世代と、お子さんの減少により、地域の活力がなくなってしまいます。また、学校の存続にもかかってきますので、若者世代の方に、移住・定住対策に力を入れてきました」

 「各種補助金の創出、若者世帯を対象にした賃貸住宅や町営住宅も計画的に建設し、家賃を低く設定。移住後には、住宅を見つけて定住していただくようなサイクルを作ろうと事業を進めてきました。前の町長がこれらの土台を作ったことによって、転出の抑制が図れ、町外からの転入もあり、人口減少のカーブを少し緩やかにすることができている状況です。現在の小中学生の約半数は、これらの政策により定住された家庭のお子さんです」

 「子育て支援は、世帯の応援を目的に条例を制定。負担軽減をはじめとする8項目の支援事業から始め、見直しと拡充を毎年のように行ってきました。現在では、医療費、学校給食費、保育料、通学費の助成など、国や都の制度も合わせると15項目の子育て支援事業にまで広がっています。高校生の通学には、定期代全額補助や、ガソリン代やタクシー代の一部助成なども行っています」

▼保護者も役場も事務負担が少ない「奥多摩町乳幼児用おむつ助成事業」を開始

 奥多摩町は2025年度から「乳幼児用おむつ助成事業」を開始。子どもが生まれた世帯に、6万円相当の「えらべるおむつギフト(伊藤忠食品株式会社が提供)」を配布。保護者はインターネット上で、おむつやおしりふきなど、約100種類の商品から選んで、指定の場所で受け取ることができる便利な仕組み。有効期限は1年間で、12回(1回5千円相当)注文することができる。利用者からは「登録も注文も簡単で便利」「おむつはかさばるため、2~3日で届くのはとても助かる」「保護者の負担軽減につながる」といった声が寄せられている。布おむつを希望する世帯には、布おむつ等の購入費(上限6万円)を助成している。

ーーえらべるおむつギフトの助成を始めたきっかけは?

 「共働き世帯の子育てに対する負担をできるだけ軽減するために、おむつの購入に対する補助金を検討してきました。これまでは、受益者負担との考えもありましたが、時代の変遷もあり、さまざまな支援が必要だと感じました。

 ただ、こういった助成(償還払い制度)は一般的に、保護者がおむつを購入し、その費用を役場に申請後、口座に振り込むといった手続きが煩雑で、保護者も役場も事務負担がとても大きくなります。また奥多摩町には、ドラッグストアがなく、隣の市まで買い物に行く必要があり、そういった負担も軽減できないかと考えました。

 そこで、職員がえらべるおむつギフトカードの採用を検討し、今年度の事業に採択されました。えらべるおむつギフトカードは、保護者が申請書に必要事項を記入し役場に提出すると、保護者はインターネット上で、おむつやおしりふきなど、さまざまなメーカーの商品から選んで、指定の場所で受け取ることができる便利な仕組みです。

 今年4月にスタートした事業ですが、昨年度に生まれた9名のお子さんに配布。今年度は、3名に配布していますが、母子手帳をもらいに来た方もいらっしゃるので今後、何名か生まれる予定と聞いています。子どもが生まれると聞くだけでうれしくなりますし、こういった助成は、来年度以降も続けていきたいと思います」

奥多摩町が配布する「えらべるおむつギフト」カード(伊藤忠食品提供)

▼転換期を迎える子育て支援、新たな施策を考えていく

 「町が独自に進めてきた子育て支援事業は、国や東京都の制度が拡充されてきたこともあり、転換期を迎えていると考えています。例えば保育料や給食費の無償化など、他の自治体との差別化が難しくなってきました。

 さらに、人口の減少が全国的な課題となる中、移住や定住に力を入れる自治体が非常に増えています。この5~6年、奥多摩町が進めてきた施策が、近隣市町村をはじめ全国で始まっているため、移住・定住政策の差別化も難しくなってきました

 そのような中で、奥多摩町のお子さんに対する教育の重要性を改めて感じています。教育委員会でも、正しい言葉で話す・書くといった国語力の向上が課題との意見もありました。また私自身、約10年間の保育園での仕事を通じて、幼児教育がとても大切と感じています。人間力を上げ、自己肯定感を養う教育も、小さな町だからこそやっていけると思います」

 「奥多摩町は、各地で行われるお祭りが盛んです。進学や仕事で町の外に出た方も、お祭りの日に帰ってくることも多いです。また、伝統芸能の継承にも力を入れており、学校現場の教育に加えて、人間形成を育む貴重な環境だと考えています。地域の皆さんには、ぜひ参加していただいて、子どもたちを一緒に育てていただきたいです。

 今後は、子育て支援から、定住化対策、Uターン組をどのように大切にしていくか、Uターン組に奥多摩という存在をいつまでも忘れず、関わりを持ち続けていただきたい。JRの駅が5つもある奥多摩町の立地や自然環境などを引き続きアピールしていくとともに、ソフト面での充実を図るべく、新たな施策の検討をすぐに始める必要があると考えています」

▼未来に夢が持てる町づくりに向けて

 「奥多摩町では、えらべるおむつギフトカードをはじめ、子育て世代にさまざまな助成事業を行っています。それらの制度を利用することで、お金と時間にわずかでも余裕ができればと考えています。

 そして、そういったお金や時間を、ご自身や子どもたちのために活用し、ライフスタイルを豊かにするとともに、夢を持った子どもを育てていただいて、未来の希望につなげてほしいと考えています」

 奥多摩町では、子育て支援、定住支援のほか、官民連携による観光事業の強化に取り組み、特産品「わさび」の認知拡大やわさび農家の継承にも力を入れている。また、奥多摩町の歴史と伝統を育んできた高齢者への福祉政策も喫緊の課題で重要視しているという。未来に向けて歩みを続ける奥多摩町の今後の取り組みに注目だ。

〈もろおか・のぶまさ〉学校職員や保育園での勤務を経て、2007年、奥多摩町議会議員に当選。2020年5月の町長選挙で当選。現在2期目を迎える。71歳。

  • 師岡伸公・奥多摩町長(町役場の屋上にて)

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