テレワークを“経営戦略”に昇華させた建設会社 小柳建設が実証する生産性革命の実像

人手不足対策などを目的に国が普及を目指すテレワーク。ICT(情報通信技術)を活用して働く時間・場所の選択肢を広げる、この働き方の先進事例を総務省が選んで表彰する「テレワークトップランナー2025 総務大臣賞」に、生産性向上とBCP強化を目的にテレワークを導入し、全社員が「いつでも、どこでも」働ける環境を整備した新潟県の小柳建設株式会社の取り組みが選ばれた。テレワークは単なる働き方改革にとどまらず、経営理念の実現や事業目標の達成に直結する戦略的手段として機能している。その結果、建設業界の常識を覆すDXと働き方改革が進み、残業時間の劇的な減少や離職率4%を実現した。その原動力は、「仕組みで人を助ける」という考え方。小柳卓蔵社長に、取り組みの背景と手応えを聞いた。
▼「長く働く人が偉い」を変えた建設会社の価値観の転換
――建設現場では「職人の勘」に頼りがちで、手作業の多い職場環境が一般的と思われてきました。業務の見直しや働き方改革に踏み出したきっかけは何だったのですか。
私が入社した2008年当時、社内は非常に非効率でした。バックオフィス業務(経理、総務、労務などの事務全般)は紙中心で、人力で処理するものばかり。さらに、情報セキュリティの意識も乏しいまま、社内全体が旧来のやり方にとどまっていると感じていました。
「これでは皆がつらいだけだ」と思ったのが、見直しに踏み出す大きなきっかけでした。働く人がやりたい仕事に集中できるようにしたいと思い、雑務は極力簡素化し、年末調整やワークフローもアプリで完結するように整備しました。スマホで全てできる環境を作り、まずは「皆が楽に働ける環境」を整えるところから始めました。
――社内の意識改革を進める上で、どのような苦労がありましたか。
最も時間がかかったのは価値観の変換です。昔は「長く働いている人が偉い」という文化があり、残業をたくさんした人が評価される時代がありました。そこから「残業をしない人の方が評価され、給料も上がる」という方向へ価値観を変えていきました。
また、失敗すると個人が叱られるという「人」に焦点を当てる考え方が根強くありました。実際には「仕組み」が原因で、誰がやっても失敗する場面も多い。そこで「失敗は人ではなく仕組みの問題」という捉え方へと転換しました。
自社が何を一番大切にするのか、理念からすべてを見つめ直し、経営の軸として据えていった――こうした価値観の転換こそが、意識改革の中心でした。

▼現場改革を加速させたホロストラクションと残業時間の大幅削減
――DXで成果が出た具体例を教えてください。
デジタルの意味を明確にしたことが大きかったです。アナログが「ざっくり把握」することなら、デジタルは「数字で明確に示す」こと。例えば人事制度であれば、多くの中小企業は「どうしたら給料が上がるのか」が見えません。そこで給与体系や評価基準をすべて明文化し、誰もが把握できる状態にしました。デジタル化とは「見える化」そのもので、方向性がはっきりするだけで働き方が大きく変わります。
――全社員が時間と場所に縛られず働けるようモバイルワークの環境を整備し、建設現場の高度な遠隔共有を可能にする自社開発ツール「ホロストラクション」は高い評価を受けました。
国交省との実証実験では、発注者がオフィスにいながら完成検査を行いました。現場側が3D図面とスキャンデータを提示し、会議室に現場を連れてくるような形で確認できます。発注者は複数現場を抱え、人手不足の中で対応しています。移動に時間を取られない分、検査や打ち合わせが効率化できます。自社の技術部門も同様で、片道1時間の現場へ行かずに安全パトロールや会議ができるようになりました。
――残業時間は2018年の月平均7.2時間から2023年には1.4時間へ大きく減りました。
社内から「家族との時間が増えた」「資格の勉強ができるようになった」とポジティブな声が多く聞かれました。民間調査のホワイト企業ランキングでも1位をいただき、新卒採用も順調です。うちは「始業から終業まで全力で働く」文化で、残業がないからこそ生産性が高い。のんびり働いて給料をもらいたい人には合わない会社です。

▼「魔法の杖はない。無理だと思わず、一つずつ仕組みを改善すればいい」
――社員の学び直しを支援する制度について教えてください。
会社が永遠に続く保証はありません。だからこそ社員一人一人がどこでも通用する人材になってほしい。そのための教育制度や資格取得支援を整えています。環境が良くなると勉強しなくなる人もいますが、結局、「自分の人生を守るのは自分」。その武器を増やすため、学び続ける文化を根付かせています。
――離職率は驚異の4%です。
同業他社からは「そんなの無理だろ」と驚かれます。でも、できないと思って触れなければ一生できません。魔法の杖はなく、一つずつ仕組みを改善してきただけです。ただ、退職は悪ではなく、やりたいことがあるなら背中を押す会社でありたい。学びながら働ける環境を整え、「ここが好きだからいる」と思える会社をつくっています。
――日本マイクロソフトと組んで、Microsoft Azure・Microsoft 365・Copilotを中核に据えたクラウド体制を整備しました。これを踏まえ、地域でのDX推進に貢献しています。
当社は「Microsoft Base Niigata-Kamo」に認定されています。認定を受けて当社では、マイクロソフト製品を活用した業務改善のデモンストレーションや、ホロストラクションを含むクラウド・MR技術の体験会、セミナーなどを定期的に開催しています。地方企業が最新のテクノロジーに触れることで、自社の働き方改革やDX推進のヒントを得る場になっており、今後も技術導入の後押しにつなげていきたいと考えています。
【プロフィール】
小柳卓蔵(おやなぎ・たくぞう)/金融会社勤務から転じ、家業の小柳建設に2008年入社。管理部門、総務・人事部門などを担当。常務、専務を経て2014年社長に就任。2016年、日本マイクロソフトと共同で、建設業における計画・工事・検査の効率化を実現するホロストラクションをスタートさせた。クラウド化の徹底や自社サービス開発が成果につながり、国土交通白書掲載や各種受賞など多くの評価を得ている。
他のテレワークトップランナー選定団体をご紹介します
キャップクラウド株式会社
【企業情報】
中小企業向けのクラウドソリューション事業と地域創生事業を展開。ITツールと柔軟な働き方の仕組みを組み合わせ、企業や地域の発展に寄与している。所在地は東京、従業員数は58人。
【主な取組例】
労働力人口が減少する中で、魅力ある企業として選ばれるため「多様な働き方」を実現できるよう、テレワークを全社的に推進。業務内容を遂行できればテレワーク可能とし、子育て・介護・通院の有無や勤務場所などの条件を問わず働ける環境を整備している。テレワーク対象者の67%が概ね週4日以上のテレワークを実施し、在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイルワークなど多様な働き方を選択できる体制を構築。
株式会社ジェニオ
【企業情報】
地域に根ざしたITサービスやシステム開発を手がけ、自治体や地域企業との連携を強みに事業を展開。所在地は兵庫、従業員数は26人。
【主な取組例】
サテライトオフィス開設を契機にテレワークを導入し、地域密着型事業の創出へとつなげた。地域課題を理解する人材の不足や、各拠点の状況把握の難しさといった課題を、オンラインによる連携強化で克服し、主力であるシステム開発にも好影響をもたらしている。特に「三好ナビ」アプリでは、現地の声を反映した機能強化により、テレワーク導入前後でダウンロード数が約5倍に増加する成果を上げた。また、サテライトオフィスでの活動を通じて、社員一人一人が自らの技術や知識が地域活性化に直接貢献していることを実感し、高いモチベーションと継続的な成長を支えている。
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