のん『この世界の片隅に』は「末長くご覧いただきたい作品」片渕須直監督「私たちが暮らしている時代は昭和20年8月15日に始まった」終戦80年上映に込めた思い【インタビュー】
-これまでは「戦争の時代をいかに生き抜いたか」という物語と受け止めていましたが、終戦後の第一日目を意図したビジュアルと聞くと、見方が変わってきますね。
片渕 だから、映画としてはこの後が結構長いんです。昭和20年8月15日が新しい時代の最初の日であるとして、その先はずっとある。今日の舞台あいさつで、のんちゃんに29歳のすずさんを演じてもらいましたが、それも、ここから始まったすずさんの9年目がどうなっているのか、知りたかったんです。
のん 映画の最後、すずさんは戦災孤児を引き取り、急にお母さんの顔になっていくんです。右手を失って大好きな絵が描けなくなり、終戦時の激しい感情を乗り越えたすずさんが、苦手な家事に追われながらも、ちゃんとお母さんになり、あの子を育てているのかな?と考える中で、すごくいい9年間を過ごせたのかも、と思いを馳せることができました。
片渕 あの子に手を焼きながらも、それなりに楽しそうな生き方していたようで、よかったです。
のん 映画では、戦災孤児を引き取った後のシーンはほんの少しだけだったので、その後を想像するのはとても楽しかったです。
片渕 のんちゃんだけでなく、皆さんの中にもすずさんが生きていると信じたいですね。
-今回は終戦の日に合わせたリバイバル上映ですが、同時に世界で戦争が続いている現状を意識しながら見ざるを得ない部分もあります。その点、どのように感じていますか。
片渕 今戦争が行われているのは、私たちにとって遠い国ですが、すずさんが暮らしていたのも、80年も昔の遠い世界です。でも、そんなすずさんが、この映画を通してまるで隣にいるように感じられると思うんです。『この世界の片隅に』の「片隅の外の世界」はどこまでも広がっている。そう思うと、遠い国の人たちのことも、隣にいるように感じることができるのではないでしょうか。この映画が、皆さんにとってそのきっかけになることを願っています。
のん 私も以前は、戦争に関する作品を漠然と「怖い。だから見たくない、聞きたくない」と避けてきました。でも、戦時下の日本を生きたすずさんを演じたことで、それが他人事でなく、自分が生きている土地で起こったことなんだとリアルに感じることができ、無視してはいけないと考えるようになりました。そんなふうに、この作品が当時の私のような方たちの心をほぐすきっかけになったらうれしいです。
-そのために、繰り返し上映する意味があるということですね。
片渕 そうですね。この機会に、今まで映画館でご覧になったことのない若い世代をはじめ、より幅広い方たちに足を運んでもらえたらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)

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