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【週末映画コラム】異色ホラーを2本 デミ・ムーアがそこまでやるか…『サブスタンス』/現代性を持った古典の映画化『ノスフェラトゥ』

『ノスフェラトゥ』(5月16日公開)

(C)2024 Focus Features LLC. All rights reserved.

 1838年。不動産業者のトーマス・ハッター(ニコラス・ホルト)は、自身の城を売却しようとしているオルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)のもとへ向かう。

 トーマスの不在中、彼の新妻エレン(リリー=ローズ・デップ)は夫の友人宅で過ごすが、ある時から、夜な夜な夢の中に現れる得体の知れない男の幻覚と恐怖に悩まされるようになる。そして時を同じくして、トーマスやエレンが滞在する街に、さまざまな災いが起こり始める。

 『ライトハウス』(19)『ノースマン 導かれし復讐者』(22)の鬼才ロバート・エガース監督が、吸血鬼映画の原点といわれ、自身も多大な影響を受けたというサイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)に、独自の視点を取り入れて描いたゴシックロマンスホラー。

 ウィレム・デフォー、アーロン・テイラー=ジョンソンらが共演。第97回アカデミー賞で撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門にノミネートされた。

 史上初の本格的な吸血鬼映画であるF・W・ムルナウ監督の『吸血鬼ノスフェラトゥ』は、1897年に発表されたブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』をベースにしているが、版権問題が絡んだため、ドラキュラ伯爵の名はオルロックとなり、吸血鬼の呼び名はノスフェラトゥとなった。この映画もそれを踏襲している。

 劇中、ノスフェラトゥのもたらした大量のネズミがドイツの港町にペスト菌をまき散らす様子が映るが、これは吸血鬼がウィルスの恐怖のメタファーであることの証し。その意味では、オリジナルの『吸血鬼ノスフェラトゥ』がスペイン風邪の流行後に公開され、この映画がコロナ禍収束後に公開されたのは象徴的であり、吸血鬼映画の普遍性を示している。

 またこの映画は、スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』(75)やリドリー・スコット監督の『デュエリスト/決闘者』(77)のように、シーンによっては照明機材を使わず、自然光やろうそくやたいまつの炎だけを頼りに撮影されたという。そのためバロック絵画を思わせるような映像美が創出された。

 エガース監督が「これこそ私が現代の観客のために掘り起こしたかった吸血鬼」「ドラキュラをおとぎ話に反映させた作品」と語るように、現代性を持った古典の映画化として見るべき価値がある。オリジナルとの最大の違いは音と色を得たことだろう。

(田中雄二)

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