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【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(5)お兄ちゃんの隠しもん

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。

▼お兄ちゃんの隠しもん

 今から45年ほど前、大阪市内にある大和川のすぐ近くで幼年時代を過ごしていた玉秀斎でしたが、ある日突然、いつも仲良くしてくれるお兄ちゃんが隠したものがありました。

 「あれは一体、なんやろう?」

 そう思い始めると好奇心が止まらない。玉秀斎は、お兄ちゃんたちが帰るのを今か今かと待っていました。

 しばらくすると、お兄ちゃんたちが動き出しました。ある者は歩きで、ある者は走りながら、ある者は自転車に乗って、公園を離れていきます。

 「今や!」

 心臓はドクドクと音を鳴らし、血液が急速に流れ始めたのを感じた。

 「あそこに何かが隠されているんや!」

 すぐにでも駆け出したかったが、

 「いや、あかん。お兄ちゃんたちが、何かの拍子で帰ってくるかもしれん。待とう、あと少しだけ待たなあかん」

 小さな滑り台に身を隠し、その時を今か今かと待ったのでした。

 それからしばらくして、お兄ちゃんたちが帰ってこないことを確認すると、ついに玉秀斎は心を決めた。

 「よしっ! お兄ちゃんたちの宝物、あれが一体何なのか見たるで!」

 一歩、また一歩と歩き出した。

 だが、その道中の長いこと。頭にめぐる言葉の数々。

 「お兄ちゃんたちが帰ってきたら、どないしょう」

 何度もキョロキョロしながら進む。

 「見ているときに大人に見つかったら、どないしょう」

 そう考え始めると、急に怖くなってきた。

 時は正月明けの寒い冬。チョッキを羽織っただけの玉秀斎の足が、急に震え始めた。

 それでも歩みを止めることはできない。足を震わせながら、やっとの思いで到着したのは、公園の端っこにある掃除道具入れ。

 「心臓って、こんなに早く動くんや。心臓が早く動きすぎて、しんどいわ」

 ハァハァと、何もしていないのに息を切らした。

 冬の寒さで冷え切ったスチールの扉に手をかけ、引っ張ると、

 ガチャン!

 思いのほか、大きい音が響き渡った。

 「なんちゅう、大きな音が鳴るんや」

 思わず、周りを見たが、誰もいない。

 「良かったぁ…。それにしてもどこにあるんや」

 ほうき、ちりとり、ゴミ拾いトングの間を探しても、何もない。

 その時にハッと思い出した。

 「そうだ、お兄ちゃんは、しゃがんでた!」

 お兄ちゃんと同じように腰をかがめてみると、そこには10センチほどの空間があった。

 そして、その奥にあったのは…。

 さぁ、ここからこのお話、面白くなるのですが、この続きはまた次回。


■四代目・玉田玉秀斎

ロータリー交換留学生としてスウェーデンに留学中、異文化に触れたことをきっかけに日本文化に興味を持ち、帰国後に講談師としての道を歩み始める。英語による講談や音楽とのコラボレーション、観光地を題材にした講談など、伝統と現代の融合を図る一方、文楽や吉本新喜劇との共演、オーダーメイド講談も精力的に行っている。

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