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太陽光パネルのカバーガラスから希少元素を抽出するプロセスを開発

2030年代後半に迎える太陽光パネル大量処分における課題にいち早く貢献

ポイント

・ 水熱処理でガラス粉末からアンチモン含有成分を抽出する条件を明確化

・ 開発した工程を太陽光パネルのカバーガラスに適用、約8割のアンチモンを抽出

・ 太陽光パネルのカバーガラスからのアンチモンの回収・再資源化につながると期待

 

 

概 要 

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)マルチマテリアル研究部門 三村憲一 研究グループ長、若林隆太郎 主任研究員、大橋文彦 技術担当主幹、材料基盤研究部門 赤井智子 研究部門付は、中部電力株式会社とともに、太陽光パネルのカバーガラスに含まれる希少元素アンチモン(Sb)を抽出するための温和なプロセスを開発しました。

 

太陽光パネルの構成品の一つであるカバーガラスは、多くの場合アンチモンを添加することで透明性を高めています。太陽光パネルの多くが耐用年数を迎える2030年代後半にはカバーガラスを大量に処理しなければならなくなることから、カバーガラスからアンチモンを効率的に分離・回収する技術の開発が求められています。

 

本研究では、ガラスが結晶化する過程でアンチモンが結晶構造内に取り込まれない現象を利用して、ガラスの溶出と結晶化がなされる最低限の温度領域で水熱処理する手法によってアンチモン含有成分の抽出が可能であることを見いだしました。このプロセスを経た後のガラス粉末における蛍光X線(XRF)分析から、約8割のアンチモンが抽出されていることを確認しました。これにより、カバーガラスからのアンチモンの分離・回収に向けた技術開発が進むことが期待されます。

 

この研究成果の詳細は、2025年10月30日~31日に開催される中部電力株式会社のテクノフェア2025で展示されます。

 

下線部は【用語解説】参照

 

※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。

正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250929/pr20250929.html )をご覧ください。

 

開発の社会的背景

高い透明性が求められる太陽光パネルのカバーガラスには、製造過程で気泡が生じるのを防ぐために、酸化アンチモン(Sb2O3)が使われています。太陽電池モジュールの大規模な設置をはじめとする発電設備への投資が2010年頃から飛躍的に拡大してきました。それらに用いられる太陽光パネルの耐用年数はおおむね20~30年とされています*1。そのため、2030年代後半には寿命を迎えた太陽光パネルとともに、その受光面側を構成するカバーガラスを大量に処分しなければならなくなると予測されています。その際、希少元素であるアンチモンの分離・回収技術の実用化が求められます。

 

これまでカバーガラスからアンチモンを分離する方法は報告されていますが*2、広く実用化するまでには至っていません。カバーガラスからアンチモンを省エネルギー条件下で分離・回収する技術を提供できれば、政府が推進している資源循環型社会の構築にも貢献できると期待されます。

 

研究の経緯

本研究では、太陽光パネルに使用されているカバーガラスの再資源化につながる要素技術を確立することを目標としています。省エネルギーで効率的にアンチモンを抽出し、分離・回収を達成するための手法として、水熱処理技術に着目しました。さまざまな水熱処理条件により処理された廃ガラス試料について各種分析を行い、より効率的なアンチモン含有成分の抽出条件を探索しました。

 

研究の内容

使用済み太陽光パネルからカバーガラスを外して粉砕し、粉末状としました。得られた粉末を密閉容器で水と混ぜて攪拌しながら、一般的な圧力容器の標準設計温度以下で1時間から6時間の水熱処理を行いました。水熱処理後に得られたスラリーは遠心分離により液相と沈殿物(粉末)に分離しました。得られた粉末について、XRF分析によるアンチモン抽出率の算出(各試料のシリカ(SiO2)に対するSb2O3含有率により定義)とX線回折(XRD)法による生成物の同定を行いました。XRF分析によるアンチモン抽出率の算出結果から、処理時間に伴い抽出率が上昇する傾向を示し、6時間処理後には約8割に達することがわかりました(表1)。また、XRD測定の結果より、水熱処理後の試料において、ガラスの主成分であるケイ素を含む結晶に帰属可能な回折線が確認されたことから、これらの条件における水熱処理を経て結晶化されていることが確認されました(図1)。これらの回折線は処理時間の経過とともに強度が増大し、半値幅も狭くなることから結晶の成長が確認されました。

 

1 水熱処理後に得られた粉末のXRF分析の結果

 

未処理ガラス粉末

1時間処理

6時間処理

Sb2O3(wt%)

0.186

0.059

0.027

Sb抽出率(%)

69

86

 

 

このように、廃ガラス粉末に対して水熱処理を行うと、まずガラスからアンチモンを含む成分が液相中に溶出すると考えられます。その後、ガラスの結晶化に伴い、溶出したアンチモンは結晶に取り込まれず液相中にとどまり続け、これによりアンチモンの抽出が可能になると考察しています。

 

以上のことから、今回提示した水熱処理を用いた廃ガラスの処理方法は、太陽光パネルのカバーガラスを粉砕後に水と混合させて一般的な圧力容器の標準設計温度以下で加熱するという、工業的に十分実現可能な温和な条件下でアンチモン含有成分を効率的に抽出可能なプロセスといえます。

 

今後の予定

今後は社会実装に向け、抽出メカニズムのさらなる理解によるアンチモン含有成分抽出の高効率化と反応スケールの大型化を行います。また、抽出したアンチモン含有成分からのアンチモンの分離・回収・リサイクル技術の開発ならびに、得られる結晶化ガラス粉末の有効活用を目指します。

 

用語解説

希少元素

地球上に存在する量が非常に少ない元素。

 

アンチモン

重金属の一種であり、国内需要のほぼ全量を輸入に依存するため供給リスクが高く、再資源化技術の確立が課題となっている。

 

水熱処理

100 ℃以上かつ1気圧以上の高温高圧状態にある熱水環境で化学処理を行うこと。

 

蛍光X線(XRF)分析法

試料表面にX線を照射し、発生する特性X線の波長やエネルギーを調べて試料に含まれる元素を分析する手法。

 

スラリー

微粒子を溶液中に高分散させた溶液。

 

X線回折(XRD)法

結晶中の原子面にX線を照射したときに起こる回折現象を利用して、試料の結晶構造を解析する手法。

 

参考文献

*1:太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第三版)(環境省)より

*2:藤森 崇, 田井中 直人, 高岡 昌輝, 結晶シリコン系太陽電池パネル中元素に対するハロゲン化揮発の適用, 廃棄物資源循環学会研究発表会講演集, 第28回廃棄物資源循環学会研究発表会, pp.309-310(2017)

DOI: https://doi.org/10.14912/jsmcwm.28.0_309

 

 

プレスリリースURL

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250929/pr20250929.html

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