新型コロナウイルスワクチン抗体価の高い人の腸内環境の特長が明らかに、ワクチン効果の個人差解明にも寄与
「神奈川県産官学共同 新型コロナウイルス抗体価社会調査プロジェクト」最終報告
地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)が中心となり、地方独立行政法人 神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター、公立大学法人 神奈川県立保健福祉大学、株式会社メタジェン、株式会社 明治、明治ホールディングス株式会社にて進めている共同研究において、新たに腸内環境の解析を行い、抗体価との関連を明らかにしました。一連の研究成果は、2025年10月25日に国際学術誌Gut Microbes Reportsに掲載されました(https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/29933935.2025.2568927)。
本プロジェクトでは、今後発生する可能性がある新たなパンデミックへの対策に向けた科学的知見を得る目的で、新型コロナウイルス抗体保有者の生活習慣や腸内環境を解析する共同研究を2022年より実施しています(共同研究開始時のプレスリリースhttps://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2022/1104_01/index.html)。これまでに、ヨーグルトを毎日食べている人は、毎日は食べていない人に比べて新型コロナウイルスワクチン抗体価※1が高く、新型コロナウイルスに反応する免疫細胞(T細胞)の割合も多いことが分かっています(中間報告時のプレスリリース https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2023/1130_01/index.html)。
【研究成果の概要】
①食習慣とワクチン抗体価との関係を調べたところ、ヨーグルトを毎日食べている人の新型コロナウイル
スワクチン抗体価が高いことが分かりました。
②便中の腸内細菌ならびに代謝物質を網羅的に調べたところ、特定の腸内細菌(Lactobacillus属、
Blautia 属などの細菌)や代謝物質(リンゴ酸、乳酸、コハク酸)と新型コロナウイルスワクチン抗体価
の間に相関関係があることが分かりました。
③血中の新型コロナウイルスワクチン抗体価が高い人ほど、便中にも多く新型コロナウイルス抗体が含ま
れていることが分かりました。
今回の研究により、新型コロナウイルスワクチン抗体価が高い人の腸内環境の特長を明らかにしました。
【研究成果の活用】
本プロジェクトでの研究成果を起点に、新型コロナウイルスをはじめとする新興ウイルス感染症に対する新たな予防習慣の提唱を目指してまいります。
※1:ワクチン抗体価とは、ワクチン接種などによりつくられる抗体が血中に含まれる量です。ワクチン抗体価が高いほど、感染した場合の重症化を防ぐことができるといわれています。
論文内容
【タイトル】
Associations between food consumption with T cell activation and antibody responses
following SARS-CoV-2 mRNA vaccination(SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後のT細胞活性化および抗体応答と食品摂取との関連性)
【著者】
Hiroki Negishi1, Gaku Nakato2 3, Rie Kadowaki4, Hiroki Kono1, Mami Minakata5, Ayumi Ichikawa5, Takayuki Toshimitsu5, Seiya Makino1, Hiroshi Kano1, Sho Nakamura6 7, Hiroto Narimatsu6 7, Shinji Fukuda*2 3 4 8 9
*責任著者
著者所属(研究当時)
1 明治ホールディングス株式会社 ウェルネスサイエンスラボ
2 神奈川県立産業技術総合研究所 腸内環境デザイングループ
3 順天堂大学大学院医学研究科 腸内細菌療法リサーチセンター
4 株式会社メタジェン
5 株式会社 明治 研究本部
6 神奈川県立保健福祉大学 ヘルスイノベーション研究科
7 神奈川県立がんセンター臨床研究所 がん予防・情報学部
8 慶應義塾大学先端生命科学研究所
9 筑波大学医学医療系トランスボーダー医学研究センター
【方法】
対象者の血中の新型コロナウイルスワクチン抗体価ならびに食習慣を調査し、その関係を解析しました。さらに追跡調査として参加者の便中の新型コロナウイルス抗体、腸内細菌、代謝物質を測定し、これらの関係を網羅的に解析しました。
【結果と考察】
・食習慣と免疫応答の関係を調べたところ、毎日ヨーグルトを摂取している人は新型コロナウイルスに反応する免疫細胞(T細胞)の割合が多く、さらに本免疫細胞の割合は血中の新型コロナウイルスワクチン抗体価(IgG※2)と有意な正の相関を示しました。
・血中の新型コロナウイルスワクチン抗体価(IgG)と、便中の新型コロナウイルス抗体の量(IgG、IgA※3)が正の相関を示しました。
・便中のLactobacillus属、Blautia属などの細菌が便中ならびに血中の新型コロナウイルス抗体(IgG)と正の相関を示しました。
・便中に含まれるリンゴ酸、乳酸、コハク酸が便中の新型コロナウイルス抗体の量(IgG)と正の相関を示しました。
血中の抗体価と便中の抗体量に相関が認められたことから、全身の免疫と腸の免疫の関連が示唆されるだけでなく、ワクチン接種後の抗体価の増加を採血することなく便から評価できる可能性が示唆されました。また、これまでに海外の研究で報告されている抗体価とBlautia属やコハク酸との関係※4,5が、日本国内における本研究でも示されたことから、これらの腸内細菌や代謝物質がワクチン接種による抗体価の上昇に重要な役割を果たしていることが示唆されました。
※2:IgG(免疫グロブリンG)とは、血液中に最も多く存在する抗体で、ウイルスや細菌などの病原体を攻撃・排除する免疫システムの中心的な役割を担っています。
※3:IgA(免疫グロブリンA)とは、唾液や腸管などの粘膜に多く存在する抗体で、体の「入り口」で病原体の侵入を防ぐ最前線の防御を担っています。
※4:He M et al. Front Immunol. 2022;13:954801.(2022)
※5:Seong H et al. Signal Transduct Target Ther. 2023;8(1):178.(2023)
【本プロジェクトの全体概要】
目的
新興ウイルスの新たな出現の可能性が示唆される中、免疫機能の維持やワクチンの接種などにより感染を防御・軽症化することが重要です。ワクチン接種後の抗体価には個人差があることが知られており、ワクチンを接種したにもかかわらず十分に抗体価が上がらない場合や、早期に抗体価が低下する場合もあります。そのメカニズムについて腸内細菌との関連も示唆されておりますが、その詳細は不明でした。
本研究では、食習慣や腸内環境が免疫細胞の応答やワクチン接種後の抗体価に関係しているのではないかという仮説を立て、新型コロナウイルスに対するワクチン接種と免疫細胞応答の関係性、また抗体価が上昇または維持しやすい人に特徴的な食習慣や腸内環境を明らかにすることを目的として研究を行いました。
研究期間と調査概要
2020年度:基盤となるコホート研究を実施(ベースライン調査)
2021年度:1年後の追跡調査
2022年度~25年度:新型コロナウイルス抗体価とPBMC※6や腸内環境を調査(本研究)
※6:PBMCとは、末梢血単核球(Peripheral Blood Mononuclear Cells)の略称です。PBMCには、T細胞(CD4+細胞/CD8+細胞)、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞、樹状細胞などの免疫細胞が含まれます。
研究参加者
・地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(神奈川県海老名市、理事長:北森 武彦)
・地方独立行政法人 神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(神奈川県横浜市、総長:古瀬 純司)
・公立大学法人 神奈川県立保健福祉大学(神奈川県横須賀市、理事長:大谷 泰夫)
・株式会社メタジェン(本社:山形県鶴岡市、代表取締役社長CEO:福田 真嗣)
・株式会社 明治(本社:東京都中央区、代表取締役社長:八尾 文二郎)
・明治ホールディングス株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長 CEO:松田 克也)














