北山宏光、6年ぶり主演舞台に「僕が今、出せるものを全て注ぎ込む」 舞台「醉いどれ天使」【インタビュー】
名匠・黒澤明と三船敏郎が初めてタッグを組んだ伝説の映画『醉いどれ天使』の2025年舞台版が11月7日に開幕する。本作は、戦後の混沌(こんとん)とした時代に生きる人々の葛藤を生き生きと描いた物語。映画が公開された1948年に、映画版とほぼ同じキャストとスタッフが集結し、舞台作品として上演されたものの、その後は長らく舞台台本が眠っていた。近年偶然にそれが発見され、2021年に舞台化。今回は、主演に北山宏光を迎え、新たに戦後の人々が命を燃やすように生きる姿を描き出す。北山に6年ぶりの主演舞台となる本作への意気込みや役作りについてなどを聞いた。

北山宏光【ヘアメーク:大島智恵美/スタイリング:柴田圭】 (C)エンタメOVO
-出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
(出演が決まり)この歴史ある作品を自分が演じることの不思議さと歴史を背負う責任とプレッシャー、そしてこの令和の時代にこの作品を演じられるというワクワク感がありました。戦後の荒々しく、荒削りだけれど、ものすごく繊細な人間模様をこの令和の時代に落とし込んだときに、どういう作品になり、見た人がどう受け取ってくれるのかなととても楽しみでした。
-原作となる映画はすでにご覧になっているそうですが、率直な感想は?
この作品に出演が決まって見させていただいたのですが、戦後の何もなくなった時代に、悲しむことにすら疲れ切っていても生きていかなくてはいけないという登場人物たちの人間模様が印象的でした。生きることへのエネルギーを感じる作品でした。
-6年ぶりの主演舞台になりますね。
もう6年も経ったんだという気持ちです。この6年の間にはコロナ禍もあったし、時代の変化もあったし、環境も変わったので、僕自身は1年目のような気持ちで挑みたいと思います。僕は舞台に立つことがやっぱり好きなんです。それに、コロナ禍もあってステージに立って生でお見せするということはすごく尊いものだと改めて感じました。こうしてお客さまの前でお芝居ができることに大きな価値を感じていますし、見る人に何を与えられるのかワクワクしています。黒澤明さんが作り上げた作品で、舞台では21年にも上演していましたので、そこに僕が並ぶと考えたらもちろんプレッシャーもあります。ただ、僕が演じることで、そしてこの時代に上演することで、同じものでもまた違う視点で見ることができるのかなと思うので、どのように料理されていくのか楽しみです。
-主演をするにあたって、北山さんが心がけていることはありますか。
いい意味で、みんなが働きやすい環境を作ることだと思います。その日の気分や疲れたという個人的なことは見せずに、とにかくみんなが現場に行きたいと思える空気を作っていきたいです。
-そのためにもやはり共演者の皆さんとのコミュニケーションが大事になるのでしょうか。
もちろんそう思います。楽しい稽古場にするためにも、コミュニケーションはとっていきたいです。これまでもいろいろな方々とご一緒させていただきましたが、やっぱり座長は楽しそうに、かつストイックに芝居に向き合う真面目さがないといけないなと思います。
-北山さんのコミュニケーションをうまくとるための秘訣(ひけつ)は?
相手に興味を持つことです。「これはどうやっているのかな」とか「ご飯食べているのかな」とか、なんでもいいのですが、興味を持つことで会話が生まれてくる。とっつきにくいと思われたくないので、あくまでも自然体で、ナチュラルに相手と向き合ってコミュニケーションをとろうと思っています。
-今回、北山さんは闇市を支配するやくざの松永を演じます。松永に共感できる部分はありますか。
今のところ似ていないとは思いますが、男としては理解できます。すごく素直で全部を吐き出してしまう人なのですが、もしかしたら僕が同じ時代を生きていたら同じように吐き出すタイプだったのかなとも思います。松永は本当はもう少し柔らかく会話した方が良いなと思うところも突っ張ってしまうところがあって。そうした松永の弱さと虚勢を張る強さは、男性はみんな持っているところなのかもしれません。自分の心の中にそうした二つの感情を見つけて、それをうまく引き出してつなげられれば良いなと思います。
-先ほどこの時代に上演することでまた違う視点で見られるとおっしゃっていましたが、この作品を今、上演する意味をどう考えていますか。
まず、この時代にこの作品を上演するということ自体が面白いと思います。黒澤さんの作品をタイムスリップしたかのように持ってきて、この作品の中でキャストたちが生きているというのが僕にとっては魅力です。僕はこの作品から生きていくことに対しての苦悩を感じましたが、この作品を今の時代にお客さんに投げることできっといろいろなことを感じていただけると思いますし、咀嚼(そしゃく)の仕方もそれぞれ変わってくると思います。その時代ごとにいろいろな悩みを抱えて生きていると思いますが、「生きること」への悩みは共通して持っていると思うので、共感していただけるところがある作品になるのではないかと思います。
-では、北山さんは舞台でお芝居する楽しさ、逆に難しさをどんなところに感じていますか。
生ものの舞台というのは尊いですよね。「生もの」というくらいなので、楽しさも難しさもその日によって違いますし、お客さまとの距離感もそのときによって違う。毎回違うというのが難しさでもあり、楽しいところなのかなと思います。
-ところで、本作は人間のエネルギーにあふれた作品ですが、北山さんの“エネルギー源”を教えてください。
ご飯です。昼過ぎには「今日の夜は何を食べよう」と考えて、そのために頑張ろうと思うくらいご飯が僕の中で大事です。「これが終わったらあれを食べられる」ではないですが、その日の喜びを設定して、そこに向かって頑張るということがあるくらいです。
-ちなみに、特に活力になるご飯は?
そんな変わったものはないですよ(笑)。人並みに焼肉だったり、すしだったり。でも、肉が多いかな。
-最後に公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
僕が今、出せるものを全て注ぎ込み、座組み一丸となって、見てくださる人の心が動く作品を作っていきたいと思います。2025年のこの時代にこれほどエネルギーのある作品を産み落とせることに誇りを持っているので、見に来てくださる方にはそれを受け取っていただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/嶋田真己)
舞台「醉いどれ天使」は、11月7日~23日に都内・明治座ほか、名古屋、大阪で上演。