「風のたより~地域経済」鋳物工場に見学客殺到

筆者と談笑する能作社長(右)

 富山県高岡市は人口17万人、鋳物のまちとしても知られる。 中心街を歩くと、至る所でシャッターを閉めた店舗を見かける。かつて商都としてにぎわっていたのがウソのようだ。

 ところが、私は、ある数字に驚いた。鋳物メーカー、「能作(のうさく)」の工場の見学者数だ。その数は、年間12万人だ。最多の17万人瑞龍寺に次ぎ、市内2位の観光地となった。

 この工場は2017年に建てられたばかりだ。社長の能作克治は、福井県出身である。もともとは新聞社のカメラマンだった。大阪に赴任していた際、鋳物メーカー「能作」の一人娘と知り合い、結婚した。

 1984年に婿養子になり、鋳物職人へ転職した。従業員数は、能作が入社したころは8人だったが、現在は150人ほどに急拡大している。年商16億円だ。

 能作には、忘れられない光景がある。親子連れが工場見学のため訪れた。母親は作業していた能作の存在を気に留めず、息子にこう言った。「勉強しないとあんな仕事になるんだよ」

 それを息子に言うための工場見学だったのか。その言葉を聞いて、能作は唇をかんだ。

 「伝統産業はこんなに低くみられているのか。子どもたちがすばらしいと思うような仕事にしたい」。能作はひたすら腕を磨いた。そのうち、ある思いが募った。「お客さまの顔を見たい」

 それが大きく花開いたのは、食器だ。きっかけは、販売員の言葉だった。「食器を作ってくれませんか」

 能作は慎重に戦略を練った。まず素材を何にするか。そこで選んだのは、スズ100パーセントだ。

 試作品が完成したものの、形にすると曲がってしまう。当初はそれを克服しようとしたが、なかなかうまくいかない。

 四苦八苦していた能作に対して、あるデザイナーが「曲がるなら、曲げて使えばいいじゃないですか」とアドバイスした。能作は目からうろこが落ちた思いで、「曲がる器」の商品化に踏み切る。

 「金属は硬いものだ」という常識にとらわれない「曲がる器」の誕生である。これが大ヒット商品となる。

 消費者にとっては、自分の手で力を加えて、自由自在に形を変えることができる点が魅力となった。「能作」ではスズそのものの生地の美しさを生かした製品を作っている。ビアカップ、シャンパングラス、タンブラー、杯などである。しゃれたイメージで、消費者に浸透していく。

 能作は、「伝統は変えてはいけないものだという認識が、そもそも大きな間違いなのです」と話す。

 その上で、地元高岡にこだわる。「私は高岡の地で、育ててもらった。高岡の人に愛され、地域に誇れるものづくりをしなければならない」

 能作を取材し、筆者は地方発の企業の奮闘こそが結局、地方創生の最大の力になると考えている。(敬称略)

(ジャーナリスト 出町 譲)

 

(KyodoWeekly10月19日号から転載)

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