「風のたより~地域経済」ICT社会とローカル経済

 職場で、外部講師を招くこととなった。悩ましいのは、その宿泊手配である。近年、東京都心のホテル予約は難しくなっている。手ごろなビジネスホテルを一泊1万円程度で予約しようとすると、早期の予約が必須だ。駅近で朝食付きの宿を探した。

 インターネットの宿泊予約サイトを検索すると、星野リゾートが運営する宿が見つかった。コンシェルジュによる近所の街歩きガイドもある。心地よさそうな雰囲気の宿で、価格も予算内に収まる。このホテルを予約しようと決めた。

 ところが予約に際し、クレジットカードによる事前決済が求められた。職場の会計処理の都合から、自分のカードを使うわけにはいかない。そこで、宿泊当日の現地払いの可否を尋ねようとホテルグループの予約センターに問い合わせると、事前決済と当日現金払いでは宿泊料金が異なるという返事が返ってきた。当該宿泊日の場合、差額は4000円だという。

 予算オーバーで、このホテルの予約を断念したが、ここに、人口減少時代のサービスの形を見た思いがした。

 需要に応じた変動価格システムを導入するとともに、予約センター設置やクレジットカード事前決済システムで省力化を図る。他方、宿ではよりホスピタリティーの高いサービス提供を行うべく人員を配置する。ヒトを介するきめ細かなサービスに高いコスト負担が求められていく時代にあって、業務のすみ分けと効率化が徹底している。

 政府は、情報通信技術(ICT)の利活用を通じた業務の効率化に加え、データ活用を通じた新たなつながりによる付加価値の創出を掲げる。では人口減少が進む地域の経済にとって、この流れは何をもたらすだろうか。

 集客や決済などの場面でICTを生かしたシステムは、利便性を高める。だがそこにはシステム利用料をはじめとするさまざまな費用負担が発生する。利用料やサービス内容の決定の場面では、技術や情報を持つ側が強い交渉力をもつ。そのため、外部のシステムを利用し続ける利用者は、その制約のもとで事業運営を考えなくてはならない。加えて、蓄積された情報データは、域外の事業者に利活用されていくこともある。カネも情報も地域の外に流出することにもなりかねない。

 だが、中には、ICTを上手に取りこみながら、地域の社会経済循環を支えるローカルな経済を創出する地域もある。こうした地域では、その土地にしかない資源や技能を大切にして、その価値に磨きをかけることで、対外的に強い交渉力を獲得している。さらに、地域の資源や技能を育む人々が集い、新たなものを生み出そうとする創造的なプラットフォームが形成されている。その連携と情報共有の場面で、ICTが力を発揮している。

 最近の星野リゾートの立地戦略を見ても、強烈な個性のある地域において、その土地の魅力を生かした宿を創出していると感じる。個性的な地域資源、高品質の人的サービス、そしてICTによる効率化の三つがそろうことが魅力ある事業展開につながるのだろう。

 個性的な地域資源とそれを育む魅力的な連携・交流の場を創出することが、地域の戦略になりうるのではないだろうか。

(東洋大学教授 沼尾 波子)

 

(KyodoWeekly6月24日号から転載)


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