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見当違いの処方箋―緊急性の高さ間違うな

 

 4月末の「退位礼正殿の儀」で、安倍晋三首相は歴史に残る大失言をした。国民を代表したあいさつで「天皇、皇后両陛下には末永くお健やかであらせられますことを願って已(や)みません」というところを「願っていません」と申し上げたと疑われているからだ。単純に漢字が読めなかったためらしい。口ごもって聞き取りにくいし、戦前なら不敬罪で総辞職ものの失言でも、この残念な首相の残念な所業は繰り返されており、改めて追及する気にもならない。

 しかし、話すべき内容がきちっと理解されていれば、こんな言い間違いをするわけはない。誰かが書いたものをよく考えもせずに読み上げるだけだから、実のない言葉になる。

 ポイントを外し、論点をすり替えるのは安倍首相の得意技だが、これまではそれが意図的な対応と考えていた。しかし、もしかすると前後の文脈などを読み取り、聞き取る能力に欠けているのかもしれない。掲げた政策目標と政策手段のずれも、そう考えれば納得できる。

 そんな思いを強くしたのは、5月連休明けに成立した幼児教育・保育の無償化を本年10月から実施する改正子ども・子育て支援法である。

 無償化は子育て世代の世帯にはうれしいニュースかもしれない。しかし、これが本当に第一義的に着手すべきことなのか。「保育園落ちた日本死ね」との言葉が衝撃を与えてから3年がたつ。その最大の問題は待機児童の存在であり、保育サービスを求める親たちの希望がかなえられないほど貧困な施設の整備状態であり、受け入れ可能な能力の決定的不足であった。

 無償化はこの問題にどのような解決の道筋をつけるというのか。2019年3月の朝日新聞の独自調査では、特に3歳児の認可保育園落選率が約3割であり、最も高いところでは8割前後と報告されている。

 3年たっても状況が改善されているとは言えない中で、なぜ無償化に踏み切ったのか。保育費の負担が重くてサービスが受けられないということが原因ではない。保育施設が足りず、それを運営するために必要な人材が足りないことの方が、優先的に解決すべき問題である。

 もともと低所得者層に対しては一定の補助がある。無償化による恩恵が大きいのは、所得の高い階層にすぎない。この階層が保守政権の基盤だから、選挙対策になる人気取り策が選択されたのだろう。

 しかし、税金を使うのであれば、保育園などの施設拡充・運営費用を直接補助し、保育士の育成と賃金引き上げに直接届く政策措置が優先されるべきだろう。緊急性の高いニーズに届く政策が求められている。その方向性は明確だから、この針路については「願っていません」などと言い間違えないでほしい。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly5月27日号から転載)


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