福井から吹く風

韓国人学生の就職説明会の様子(福井新聞社提供)

 アジアからの新しい風は実際に、どう地域と融合しつつあるのか。東京でネット記事を読んだり、買い物をする外国人観光客を眺めていたりするだけでは分からない。福井の県紙、福井新聞社の斬新な取り組みを知って、つくづくそう思った。

 同社がユニークな取り組みをしていることは、これまでにも聞きかじっていた。地域の特色を明確にしつつ、国内外の潮流も見据えているのだ。3年前には「全国で使える電子マネーサービスと独自の地域サービスを一体で提供する」と銘打ったカードを福井銀行と共にスタートさせている。背景には、人口減少の中で、地域力を向上させるため「社員一人一人が汗を流す」という新聞社の方針があるという。「全国トップの社長輩出率」という進取に富む風土も後押ししているのかもしれない。

 福井が直面するのは、「良い人材を確保できない」という企業の悩みに加え、訪日外国客数が全国最下位クラスという現実だ。4年後に迫る北陸新幹線延伸を、誘客や地域力向上の好機にするためには今、取り組まなければならない課題である。

 問題解決の先駆者は、福井の漁村にいた。人手がなく困り果てた民宿が、紹介された韓国人学生を雇用。その高い日本語能力と人柄が、窮状を救った。この民宿は昨秋、2人の韓国人の若者を採用した。

 学生を民宿に紹介したのは、韓国に特化した誘客事業や人材紹介などを手掛けるベンチャー企業「アジアフューチャー」(福岡市)。韓国では高校や大学で日本語を勉強し、高い言語能力を持ちながらも就職口がなく、日本での就職を希望する学生が多い。彼らの採用は、誘客や企業の知名度アップにもつながる―年間700万人に上る韓国人訪日客を引きつけるノウハウも持つ同社の話には、説得力があった。

 福井新聞は昨年7月にはこの企業と資本業務提携を結んだ。取り組みを評価する地元銀行の協力を得て9月、地元の経営者や採用担当者ら約40人を集め「韓国人学生採用について」のセミナーを開いた。11月には福井新聞社本社で、韓国から学生約30人を迎え、10社が就職説明会を開いた。

 「印象深かったのは、学生たちのピンと伸びた背筋でした」と説明会担当者の1人は言う。日本語と英語ができる言語能力の高さは予想通りだったが、学生たちの礼儀正しさ、信頼感を与える人柄に目を見張った。今春、3人の韓国人の若者が、福井で社会人生活をスタートさせる。

 事業は始まったばかりだが、短期間で進められるのは、地元企業からの厚い信頼が新聞社にあるからに他ならないだろう。新聞が地元企業の情報源とし、活用されていることも改めて分かったという。

 私に新鮮だったのは、大半の企業が韓国人学生の採用に「全く抵抗がない」と反応したことだ。優秀な人材を確保したいという切羽詰まった事情が心理的な国境を低くし、政治とは別の次元での隣国との歴史が新たに始まっている。県外、海外に打って出るビジネスモデルを構築したい―福井新聞の中長期計画でもある。「グローバルに考え、足元から行動せよ」。久しぶりにこの言葉を思い出した。

共同通信記者 舟越 美夏

 

(KyodoWeekly1月7日号から転載)


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