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自信喪失に陥った強大な国 色あせたオバマ時代の「希望」

建国から241年が経過した米国が大きな変ぼうを遂げようとしている。トランプ政権は無論、その議論の中心に位置付けられるが、変化の原因ではなく、結果だ。開拓精神と希望、自信がみなぎっていた国は今、不安と不満に満ちあふれている。自信喪失の強大国・米国はどこへ向かうのだろうか。オバマ前大統領が登場したときの「希望」がこれほどまでに色あせたのはなぜなのだろうか。

米シカゴで、任期を締めくくる最後の国民向け演説を行うオバマ米大統領= 2017 年1 月10 日、米イリノイ州シカゴ

米シカゴで、任期を締めくくる最後の国民向け演説を行うオバマ米大統領= 2017 年1 月10 日、米イリノイ州シカゴ

 

「私たちは成し遂げた」

時計の針を2008年に戻したい。大統領選では「希望」「変革」を掲げた民主党候補オバマ上院議員が旋風を巻き起こし、人々は熱狂した。初の黒人米大統領誕生に自分は米国の歴史が塗り替えられた瞬間に立ち会っているんだと高揚感を覚えた人は少なくないはずだ。
その一方、米経済は同年9月のリーマン・ブラザースの経営破綻で景気が一気に後退し、大恐慌以来、「100年に1度」の苦境にあえいでいた。
オバマ氏は09年1月就任後、1カ月で過去最高の7870億㌦(78兆円)もの景気対策法を成立させ、ゼネラル・モーターズ(GM)など三大自動車メーカーの救済にも巨額を投じた。
その結果、一時は10%近くにまで達していた失業率は5%を切るまでに改善。景気回復のスピードは依然緩やかで市場に警戒感はあるものの、主要国の中では最も展望が開けている。「イエス・ ウィー・ディド」(私たちは成し遂げた)。今年1月中旬、退任を目前に控えたオバマ大統領(当時)は最後の演説で目頭を熱くしながらこう胸を張った。
オバマ氏自身、格差拡大に十分な歯止めをかけることができなかった後悔はある。米国の分断が指摘されているが、激しい政治対立も今に始まったことではない。クリントン、ブッシュ(子)両元大統領時代から民主、共和両党は「クリントン以外なら、ブッシュ以外なら誰でも」と再選阻止に全力を挙げた。オバマ氏とて例外ではなく、議会共和党の徹底抗戦で政権運営は思うようにいかなかった。ただ、この8年間で「希望」がこれほど沈み、人々が後ろ向きになることは想像をはるかに超えていた。

 

一致しない意識と実態
 
ピューリサーチセンターが昨年11月に実施した世論調査を見ると、主要課題について過去8年間で進展を遂げたと考える人はいずれも少数だった。「経済が改善した」との回答は38%に対し、「悪くなった」は43%。失業率があれほど低下したにもかかわらず、雇用機会も「改善」は35%にとどまり、「悪くなった」が9㌽上回った。
テロ対策、犯罪対策、移民制度、人種問題などすべての主要項目で改善したと考える人より、状況悪化を憂える人が圧倒的に多かった。
ボストン連続爆破テロ、カリフォルニア州での銃乱射事件などはあったものの、01年9月以来、米中枢同時テロのような大規模テロは米国内で起きていない。犯罪率は中長期的には劇的に改善。移民・人種問題は根深いが、女性や人種的少数派(マイノリティー)の社会進出は目覚ましい。人々の意識と実態は必ずしも一致せず、より情緒的なものや雰囲気に影響を受ける部分はあるだろう。だが、これほど実態とかけ離れていては、米国は永遠に悲観的な見方から逃れられないのではないかと勘ぐりたくなる。
トランプ氏は米社会にまん延している不安の代弁者となり得たからこそ、民主党候補クリントン氏との接戦を制することができた。
そして、トランプ氏は自身の政権自体が国民の不安と分断を増幅させている皮肉に直面している。大統領就任式から一夜明けた翌1月21日、全米約600の都市で三、四百万人がトランプ政権に抗議するためデモ行進に参加した。1週間後、移民やイスラム圏出身者の入国を制限する大統領令に反対する人々は全米中の空港に押し掛けた。

全米心理学協会が2月に発表した意識調査によれば、10 人に6人の米国人は現在の政治状況が「重大なストレス」と感じている。
トランプ氏はオバマケア(医療保険制度改革)の破棄を主張し、メキシコ国境への壁建設と不法移民の追い出しを誓い、既に取り締まり強化を実施している。オバマケア反対、移民に日ごろから不満を持つ人にとっては留飲を下げる思いかもしれない。
だが、多くは「自分は病気にかかったとき、保険で治療費をカバーできるのか」「米国でこのまま仕事が続けられるか」と心配の種は増えている。職務質問を恐れて1日中、家に引きこもっている難民や移民も多いという。
トランプ政権は2月23日、心と体の性が異なるトランスジェンダーに自分の希望するトイレの使用を認めたオバマ前政権の通達を破棄した。性的少数者(LGBT)は自分たちの権利が侵されるのではと恐怖におびえる日々である。
 

 

初対面でも政治の話題

トランプ政権発足後、顕著な変化は人々が政治について語ることをちゅうちょしなくなった点だ。ワシントンのような政治に関わる人が多い街でも、初対面の人にはいきなり政治の話はまずしないのがマナーだった。
先日、なじみのバーで知り合った証券取引委員会(SEC)の男性弁護士は米国先住民、黒人、アイルランドの血を受け継ぐまさに米国の多様性を具現化したような存在だ。面識のない私にいきなり「もうトランプの下で政府のために働く気になれなくなった。民間に転身しようと思う」と打ち明けられ、いささか面食らった。
一方、IT企業に勤めるS君は外国出身者にシリコンバレーが占拠されていると実態を嘆き、トランプ氏に1票を投じたと告白。トランプ政権で本当に良くなるのかと尋ねると「多分ね。でも分からない」と自信なさげだった。トランプ時代に入り、人々は政治について率直に語ることで少しでもストレスを解消しようとしているのかもしれない。
全米心理学協会のリン・バフカ氏は6割が政治に重大なストレスを感じている状況について「現在の政治ストレスは政党による線引きを超えた範囲で生じている。将来への不安に対してどういう考え方を持っているかで区別される」と指摘する。
大統領選でトランプ氏を支持した人は政権誕生を喜んでいるが、同時に懸念を抱く人も少なくないようだ。この不安な心理状況は米国民の心に漂い続けるのだろうか。ある心理学者は「明快な回答は誰も見つけられていない」と認める。
米国という国は強大だけに厄介だ。自信過剰が大儀なき戦争に国を導き、自国のみならず他国にも多大な犠牲を及ぼしてきた教訓は忘れてはならない。ただ、不安に支配され、他者を排除し、ひたすら内にこもる米国も世界に災禍をもたらすことはトランプ政権だけの問題ではない。
(共同通信ワシントン支局長  木下 英臣)

     × × ×
オバマ米大統領による最後の国民向け演説の要旨は次の通り。
一、民主主義の維持には相違を超えて結束することが重要だ。
一、この地(シカゴ)で、普通の人々が関与し結束した時にだけ変革が可能になると学んだ。大統領を8年間務めた後でもそう信じている。
一、トランプ次期政権への可能な限り円滑な移行を確約した。
一、全ての国民に経済的な機会を創出できなければ、不満や分断は深まるばかりだ。
一、米経済は成長を取り戻した。医療保険の未加入者もかつてなく少なくなった。
一、人種問題は改善しているが、米社会の不和の元となったままだ。移民の子どもたちを大切にしなければ、私たちの子どもたちの未来も損なうことになる。
一、真偽を問わず、自分に都合の良い情報だけを受け入れる傾向は民主主義を脅かす。気候変動問題を否定することは、次世代への裏切りであり、私たちの建国者らを導いた変革の精神への裏切りだ。
一、過去8年間、米本土でテロを成功させた外国組織はない。過激派組織「イスラム国」(IS)は壊滅されるだろう。
一、私たちが恐怖に屈したとき、民主主義は崩れる。民主主義は当然あるものと見なせば、必ずその存在が危うくなる。
一、米国が民主主義などの価値観を堅持する限り、国際社会でのロシアや中国の影響力は、米国に及ばない。
一、あなたたちが私をより優れた大統領にしてくれた。
一、大統領としての最後のお願いは、あなた自身に変革を可能にする力があると信じることだ。イエス・ウィー・ディド(私たちは成し遂げた)。イエス・ウィー・キャン(私たちはできる)。
     

(ワシントン共同)


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