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五輪暗雲、開催可否判断に腐心

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、東京を含む11都府県に緊急事態宣言が発令され、今夏の東京五輪・パラリンピック開催に暗雲が漂い始めた。コロナ対応で後手批判を浴びる菅政権にとって、感染状況の推移と開催可否の判断に腐心する日々が続く。

 

証し

 

 「感染症対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進めていく」。菅義偉首相は1月18日、衆参両院本会議での施政方針演説で、東京大会開催への意欲を重ねて示した。

 政府は大会開催を「人類が新型コロナに打ち勝った証し」と位置づけ、大会組織委員会や都と足並みをそろえ準備を進めてきた。政府や組織委は昨年9月に設置した新型コロナ対策調整会議で、選手の入国制度の大枠を決定。観客の入国の可否を判断する方針だ。

 だが、東京都内の新規感染者数が一時、1日2千人を超える展開となり、政府は1月7日に4都県に緊急事態宣言を再発令した。13日には大阪など7府県を追加。感染抑止がままならない状況に、世論や与野党から不安の声が漏れる。

 共同通信社が1月9、10日に実施した全国電話世論調査では、五輪・パラリンピックの今年夏の開催は「中止するべきだ」が35・3%。「再延期するべきだ」の44・8%を含めると80・1%が見直しを求めた。

 年代別でみると、中止を求める声は若年層(30代以下)で23・2%。中年層(40~50代)が36・9%、高年層(60代以上)は42・5%となり、年代が上がるほど大会開催を懸念する割合が高い。ある自民党議員は「地元支持者から『五輪よりもコロナ対策に集中してくれ』という声が多く集まる」と語る。

 昨年3月に大会延期を決定した際、組織委の森喜朗会長は、当時の安倍晋三首相に2年の延期を提案したのに対し、安倍氏は自身の任期中の開催を念頭に「『神頼み』で1年としたい」と決断したという。その後、菅政権が誕生し状況は変わったが、2024年にはパリ五輪が控え、国際オリンピック委員会(IOC)は再延期に否定的だ。

 

センシティブ

 

 「開催しないということのお考えを聞いてみたいくらいだ」。自民党の二階俊博幹事長は1月5日の記者会見で、そう強調してみせた。「党として開催促進の決議をしてもいいくらいだ」とも述べ、大会を推進する政府を後押しするのを忘れなかった。

 二階氏や首相が五輪開催にこだわるのは、観客の動員が日本の経済再生につながるからだ。首相官邸では和泉洋人首相補佐官や杉田和博官房副長官が観客入りの大会を想定した計画を練ってきた。

 だが、感染力がより強いとされる変異種が英国などで発生したことを受け、昨年12月28日、条件付きで認めていた外国人の新規入国を一時停止。1月13日には緊急事態宣言の対象に7府県を追加したのに合わせ、例外的に認めていた中国・韓国など11カ国・地域とのビジネス関係者の往来も取りやめた。

 首相は「国民の皆さんの不安が高まっている現状を大変重く受け止めている」と理由を説明したが、身内の自民党から往来停止求める突き上げを受け、政策転換を余儀なくされたのが実情だ。

 官邸にも不安が拡大する。1月12日午前のマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏との電話会談で、同席した新浪剛史サントリーホールディングス社長は、首相が東京五輪について「必ずやりきる」と発言したと紹介した。だが、加藤勝信官房長官は翌13日の記者会見で「そうした表現は使われていない」と否定、混乱ぶりが露呈した。首相周辺は「五輪開催は官邸でいま最もセンシティブな問題の一つだ」と明かす。

 

増す不確実性

 

 一方、コロナウイルスの感染症対策を最優先に取り組む首相にとって、衆院議員の任期満了を10月に控え、衆院解散・総選挙を決断する時期は迫りつつある。

 1月4日の年頭記者会見で、首相は「いずれにしろ秋のどこかでは」と発言したが、その直後に官邸報道室を通じ「秋までのどこかでは」と訂正した。自民党内には「首相の本音が出た」(中堅議員)と見る向きがある。五輪での国民的な盛り上がりをてこに、衆院選で有権者の支持を得たいとの思惑も透ける。

 ただ、コロナ対応で後手に回った首相の足場は揺らいでいる。1月の共同通信の世論調査で、菅内閣の支持率が41・3%、不支持が42・8%となり、不支持が支持を初めて上回った。このまま低迷すれば「菅首相のままで衆院選を戦えない」(閣僚経験者)との声が強まる可能性をはらむ。

 2月7日には今回の緊急事態宣言の期限を迎えるが、解除できるかは予断を許さない。大会本番に向け運営リハーサルを行うテスト大会が3月上旬から再開され、同25日には福島県から聖火リレーがスタートする予定だ。首相は1月7日の記者会見で「1カ月後には必ず事態を改善させる」と決意を示したが、宣言延長や対象地域の追加となれば大会への影響は計り知れない。

 「家内がスマホを見て、私の悪口ばかりだったそうだ。菅さんよりも悪口を書かれていた。森内閣でもこんなにひどくなかった」

 森会長は1月12日、組織委職員への年頭あいさつで、五輪開催を不安視する見方が広がっている現状を踏まえ、そうぼやいた。

 コロナの感染拡大を阻止できなければ、五輪開催への懐疑論が高まる。閣僚からも「どちらに転ぶかは分からない」(河野太郎行政改革担当相)との発言が出た。大会が頓挫すれば、首相の求心力がそがれるのも必至だ。政府関係者は「五輪が中止になれば、政権運営が立ち行かなくなる」と吐露する。

 1964年10月、東京五輪は開催された。時の首相は所得倍増政策を通じ高度経済成長を推進した池田勇人氏。病で入院中だった池田氏は五輪閉会式翌日の10月25日に辞意表明し、自民党は11月、後継総裁に佐藤栄作氏を指名した。

 五輪と政治は密接に絡み合う。大会が実現した場合、菅首相がどのような立ち位置にいるのか。日本の政治は不確実性を増している。

(共同通信政治部次長 倉本 義孝)

 

(KyodoWeekly1月25日号から転載)

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