政治
政治・経済・国際の解説・分析記事

ロードマップ不在―その場しのぎの目くらまし

 菅義偉首相は、10月26日の所信表明演説で、「行政の縦割り、既得権益、そして、あしき前例主義を打破し、規制改革を全力で進め」「国民のために働く内閣」として改革を実現することを宣言した。

 しかし、改めて「国民のために働く内閣」と言われると、今までは違ったのかと、突っ込みたくなる。

 それはともかく、所信表明の要点は、行政のデジタル化と、30年後に脱炭素社会を実現することであろう。

 デジタル化については、今後5年で行政サービスをデジタルベースにのせることが計画されている。それがデジタル化された社会への第一歩ということなのだろうが、その次のステップがどうなるかは、明示されなかった。

 それ以上に問題なのは、30年後という先を据えた脱炭素社会の実現について、何をどのように進めて、この目標を実現していくのかがまったく示されなかったことである。自称「せっかち」という新首相には似合わない、遠い目標設定である。デジタル化と同様に段階を踏んで目標に向かうロードマップがあって初めて、この宣言は意味を持つ。

 欧州諸国を中心に脱炭素社会への動きはかなり先を行っている。遅れたとはいえようやく国際標準の目標を掲げるなら、先例に学んで具体的な方策が示すこともできたはずだ。

 しかし、その方策のなかで、原子力発電の再稼働も選択肢だというのでは、政府の認識の甘さが露呈していると指摘せざるを得ない。

 原発に固執する電力会社の既得権益の主張こそ、新内閣の看板である前例や既得権を打破する対象として最もふさわしいから、脱原発も抜かりなく実行してもらいたいものだ。

 その上で、たとえば1年以内に再生可能エネルギーに関する無用な規制を撤廃して供給増加を図るとか、5年以内に既存石炭火力を半減するなどの具体的な工程表とそれを支える立法措置が必要になる。その準備は整っているだろうか。

 所信表明演説までに示された諸政策は、その相互の関係が不明確で、当面の感染症対策と経済再生などに関わる対症療法的なメニューだけであった。ビジョンが見えないという欠陥に対する自覚が、「脱炭素社会」という「総合的・俯瞰(ふかん)的」にみて異論の少ない言葉にたどり着かせたのだとすれば、そんなその場しのぎの目くらましは、国民をばかにしていることになる。

 もっとも、30年後にどうなっているのかについて責任をとる気はないのかもしれない。30年ほど前に国会で時の中曽根康弘首相が示した法解釈を、勝手になかったことにするのに何のためらいもない人たちの言葉だ。30年後にそんな政治が続いていないことを心から願わざるを得ない。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly11月9日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ