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「デモクラシーの現場から」立ちはだかる安倍政権継承

 臨時国会は召集から約1カ月が経過した。衆参両院の各党代表質問や予算委員会では、日本学術会議の会員候補任命拒否問題を中心に舌戦が繰り広げられた。菅義偉首相は守りの答弁に徹したが、時折、答弁には「本音」が垣間見えた。

 

抑制と周到さ

 

 「お答えを控えさせていただく」。任命拒否問題を巡り、菅首相は具体的な拒否理由の説明を避け、そう繰り返すのが目立った。感情を抑え、同じ発言を重ねるのは官房長官当時、追及をそらす際に多用した手法だ。

 野党からは「壊れたレコード」(立憲民主党の枝野幸男代表)といった首相の棒読み答弁をやゆする声が飛んだ。代表質問では激しいやじに「ちょっと静かにしてもらえますか」といら立つ場面も見えたが、首相は野党の挑発には乗らなかった。

 ただ珍しく心情を吐露するような発言もあった。

 学術会議の在り方を巡る議論で、自民党の大塚拓氏が11月2日の衆院予算委員会で「事実上のブラックボックス」と言い切ると、首相は任命拒否の決断について「正直言って、かなり悩んだ」と漏らした上で、学術会議の改革を目指す意義を強調した。首相自らが掲げる既得権益の打破と学術会議問題を関連付けたい思惑があったのだろう。 「悩んだ」というワーディングは、政治判断に至る過程で熟慮したような印象を生む。学術会議や大阪都構想など多岐にわたるテーマの答弁でも決まり文句のように使いだしたところに、首相のしたたかさが見て取れる。

 苦手とされる外交・安全保障分野では思わぬ発言がいくつか飛び出した。

 「仮定の質問にはお答えは差し控えるが、まあ良い機会だなというふうには思います」。首相は11月5日の参院予算委で、来夏の東京五輪・パラリンピックに合わせ北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が訪日した場合の日朝首脳会談開催の可能性を問われ、無表情ながらわずかに語気を強めた。

 橋本聖子五輪相は金氏の招待について国際オリンピック委員会(IOC)や東京都などが調整、判断すると説明。「政府としてということはない」とその場を繕ったが、閣僚席に座る茂木敏充外相が目を見張る表情を見せた。

 くしくも首相は11月10日、韓国の情報機関、国家情報院の朴智元院長と官邸で会談。朴氏がその場で、来夏の東京五輪の際に南北と日米の首脳が会談し、拉致や北朝鮮の核問題の解決策を巡り議論するとの文在寅大統領の提案を説明した、と韓国紙の朝鮮日報が報じた。

 首相は官房長官時代、拉致問題担当も兼ね思い入れも深い。所信表明演説でも「前提条件なしの会談」を呼びかけた。閣僚経験者は「五輪外交は政権にもプラスになる。周到な首相が金氏との会談を狙わないはずがない」と指摘する。

 

波紋

 

 敵基地攻撃能力の保有を念頭に、安倍晋三首相(当時)が発表した安全保障政策に関する談話を巡る菅首相の答弁には波紋が広がった。

 安倍氏が9月に公表した「首相の談話」に関し、菅首相は11月4日の衆院予算委で「閣議決定を経ていない。原則として効力が後の内閣に及ぶものではないが、私の内閣でも談話を踏まえて議論は進め、あるべき方策は考えたい」と語った。

 談話は、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画断念を踏まえ、相手領域内で弾道ミサイルを阻止する敵基地攻撃能力の保有を念頭に作成されたものだ。

 安倍氏は談話が次の内閣を「縛ることにはならない」と語っていた。だが談話には今年末までにミサイル阻止に関するあるべき方策を示すことが盛り込まれており、菅首相への事実上の「申し送り」「宿題」というのが衆目の一致するところだった。

 安倍政権の「継承」を掲げる首相だが、外交・安全保障政策の「安全保障」分野について消極姿勢が際立つ。自民党総裁選の共同記者会見時も敵基地攻撃能力について「最終的には与党の議論を見据え対応したい」と言及するにとどめた。

 背景には次期衆院選を見据え、連立を組む公明党との選挙協力を優先させたい思惑が透ける。安全保障関連法成立など安倍政権の安保政策に根強い反対論がある公明党支持母体の創価学会と太いパイプを持つ首相は「動くに動けない」(周辺)状況にあるのだろう。安倍氏も「選挙との関係なら仕方ない」と矛を収めているという。

 だが、談話を軽視することは安倍氏を支持する保守派をないがしろにすることになりかねない。

 

渦巻く怨嗟

 

 10月25日夜、安倍氏が会長を務める保守系グループ「創生日本」のメンバーらは都内のホテルで、安倍氏を招き7年8カ月の激務をねぎらった。

 これに先立つ、10月19日には麻生太郎副総理兼財務相が安倍氏夫妻を私邸に招き約4時間にわたり夕食を共にした。麻生氏は安倍氏の健啖(けんたん)ぶりに驚きを隠せなかったという。

 安倍氏は持病の潰瘍性大腸炎の新しい治療が効果を発揮し、活動を本格化させている。11月1~3日には地元・山口県入りし、屋外での小規模集会14回に加え、地元企業回りをこなし復調をアピールした。

 安倍氏の周囲からは「再々登板もあり得る」と期待の声が膨らむ一方、菅氏と親しい与党幹部は安倍氏を囲む会合に「安倍さんも迷惑しているだろう」(党ベテラン)と眉をひそめる。首相にとって安倍氏が「煙たい存在にならなければいいが」(閣僚経験者)と気をもむ声も漏れる。

 「仕事師内閣」を掲げ、新型コロナウイルス対策や携帯電話料金の引き下げなど実績作りを急ぐ首相だが、政界には怨嗟(えんさ)が常に渦巻く。常に意識せざるを得ない安倍政権という大きなハードルが眼前に立ちはだかる中で、首相はどのような思いを巡らせながら政権運営を進めていこうとするのか。目が離せない状況が続きそうだ。

(共同通信政治部次長 倉本 義孝)

 

(KyodoWeekly11月23日号から転載)

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