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国民目線の電子化を―本末転倒にならないために

 菅義偉新首相の看板政策となったデジタル庁設置は、長く政策課題となってきた行政電子化の推進力になるのだろうか。縦割り行政打破とセットになっていることからみると、行政電子化の最大の障害は各省の省益対立にあると考えているようだ。

 電子化はそうした利害調整がなくとも、時間はかかることだろう。すぐに結果の出ない政策を看板に掲げたことに菅首相の強い意思が垣間見える。それは、思うように動かない官僚組織への根強い不信感だろう。政策の方向性に反対の官僚は「異動してもらう」とちゅうちょなく言い切ることにもそれが表れている。

 ただ官僚組織には政策立案を助けるシンクタンクの機能と、政策の執行機能との二つがある。前者を捨て去ったらこの国の政策立案能力は大きく損なわれる。だから、縦割り打破の問題と行政電子化とは切り離して考える方がよい。

 行政の電子化に限れば、問題は省益に関わる対立ではなく、電子化に必要な業務の標準化のコストである。たとえば手続き書類の書式の統一性を図るために、それぞれの固有の様式を改めることが必要になる。それは、行政事務や統計データの連続性を損なう危険がある。そうした問題をクリアしていくには時間がかかる。

 それだけではなく、電子化が国民目線に立つかどうかが注意点である。電子データによる処理は迅速で確実なものとなるだろう。しかし、鳴り物入りで導入された新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER―SYS)の利用率は極めて低い。要求される入力項目が多く、手間がかかるからだという。同じことが行政手続きを行う国民の負担になる危険は回避したい。補助金申請の電子手続きが混乱し、実用性に疑問が生じたのはつい先日のことである。

 また、統合されたシステムに蓄積されたデータが安全に管理されることが保証されるためには技術的に高度な工夫が必要だろう。システムの安定性も必要となる。10月1日に発生した東京証券取引所のシステム障害の発生だけでなく、地震や水害などの大規模災害や停電に備えた安定的な仕組みが作られなければならない。

 それが短期日に実現することは難しい。功を急いで穴だらけのシステムを作らない慎重さが求められる。平井卓也デジタル改革担当相は「小さく生んで大きく育てる」と説明している。デジタル化の対象範囲をはじめから広げないのは賢明な判断だろう。しかし、安全性や安定性、国民の利便性は十全に当初から保証されることが不可欠である。

 官房長官として不都合な真実はふたをし続けてきた経歴があるから、姑息(こそく)な電子化の成果を並べ立てて、省益を打破したと実績を誇るかもしれない。そんな本末転倒の結末は見たくない。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly10月12日号から転載)

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