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「デモクラシーの現場から」見えない菅政権の国家像

 菅義偉首相が誕生してから1カ月余りが経過した。

 「国民のために働く内閣」を掲げ、デジタル庁創設や行政手続きのはんこ使用廃止、携帯電話料金の引き下げといった目玉政策の実現に向け矢継ぎ早に指示を飛ばす。国民感情を意識したきめ細かい配慮と、自ら決めたことは何があろうと貫き通す強権的な意志を併せ持つ、したたかな姿が浮かび上がる。

 「振りかえる間もなく、早かったなあというのが私の率直な感じだ」。首相は10月16日、官邸で記者団から就任1カ月の感想を問われ、率直な思いを漏らした。「常に念頭に置いているのは、やるべきことをスピード感を持ってちゅうちょなく実行に移すことだ」と付言する表情には充実感が浮かぶ。

 地方出身の「たたき上げ」、新元号を発表した「令和おじさん」といったイメージが功を奏したのか、国民の期待感は世論調査にも表れている。

 共同通信社が10月17、18両日に実施した全国電話世論調査で、菅内閣の支持率は前回9月調査と比べ5・9ポイント下落したものの、60・5%だった。自民党支持層だけ見れば、支持率は84・9%と驚異的な数字を記録。ご祝儀相場は「続行中」(閣僚)と見る向きもある。

 

自負心

 

 集団的自衛権行使を容認する安全保障関連法、国家安全保障会議(NSC)新設といった外交・安全保障の理念を具現化する政策を推し進めた安倍晋三前首相に比べ、菅首相の政策には国民の利便性に対する配慮がにじむ。

 就任1カ月に当たり、首相は10月16日、記者団に携帯電話料金の引き下げを例に挙げながら「改革を進めて国民の皆さんに実感として味わっていただく」と強調した。改革を実現することが国民の利益につながるという自負心は、議員秘書や横浜市議時代から変わらないという見方がもっぱらだ。菅氏周辺は「ちょっと手を伸ばしたら、届くようなことをやるのがうまい。現場を知っているからだ」と語る。

 ただ、菅政権の国家像やビジョンを描いた政策が見えないのは明らかだ。

 経済政策を巡っては、未来投資会議を10月16日付で廃止。加藤勝信官房長官が議長を務める「成長戦略会議」を新設した。首相自らと関係が近い慶応大の竹中平蔵名誉教授や、デービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長ら有識者8人を起用した。

 「菅カラー」の打ち出しを進めるが、新たな会議の新設は「看板の掛け替え」(経済官庁幹部)でしかない。16日の初会合で首相は「有識者の皆さんからいただいたご意見も踏まえて、議長の官房長官を中心に議論を進めていただきたい」と指示した。 その言葉には首相主導による政策推進への意欲は感じられない。

 

「たたき上げ4人衆」

 

 首相の政権運営で独自色が垣間見えるのは党との融和姿勢だ。

 「国と連携して進めさせていただきたい。どうぞよろしくお願いします」。東京都の小池百合子知事は9月23日、首相を官邸に訪ね、頭を下げた。向かい合った首相は「私ども全く一緒ですから」と応じると、小池氏に促されグータッチを交わした。

 「和解」を演出した場に同席したのは自民党の林幹雄幹事長代理。官邸での面会の場合、首相の脇には官房長官や官房副長官といった官邸の住人が座るのが通例だ。

 首相の同席者が幹事長代理というところに二階俊博幹事長の大きな影が浮かぶ。実際、二階氏の仲介で首相と小池氏の面会は実現した。

 これに先立つ9月16日の衆院本会議での首相指名選挙後の与野党各会派へのあいさつ回り。ここでも国会内を移動する際、首相の後ろには森山裕国対委員長の姿があった。

 官房長官時代の菅氏や麻生太郎副総理兼財務相を従えていた安倍前首相の光景は、「官邸優位」の象徴だったが、菅首相の就任で様変わりした感は否めない。まさに「党から選ばれて官邸が成り立っている」(二階氏)のを印象付けた。自民党総裁選出馬の意向を固める際も、膝を突き合わせて相談したのも二階、森山、林の3氏。首相を含めた「たたき上げ4人衆」の動向は政権の鍵を握る。

 ただ、順調に滑り出したように見えた政権運営に暗い影が垂れ込めてきた。

 日本学術会議が推薦した会員候補のうち6人を任命拒否した問題が10月に入り発覚。各分野の学会や野党から学問の自由を脅かすと批判を浴びるが、首相は内閣記者会のインタビューなどで「法律に基づいて任命している」と強調。具体的な理由の説明を避け続けている。学術会議が軍事研究協力に歯止めをかけてきたとして、自民党内には会議の在り方を検討するプロジェクトチーム(PT)が設置され、首相の援護射撃に躍起となりつつある。

 任命拒否に関し首相は「何も問題ない」と周囲に語っており、むしろ年間約10億円の税金を投入する学術会議の在り方と行政改革を絡め国民に提起し、正面突破を図ろうとする「強権的」な意図すら感じる。野党は反発を強めており、10月26日召集の臨時国会は荒れ模様となるのは必至だ。

 首相は毎朝の散歩や、週末にホテルのジムで汗を流すなど体調管理には人一倍気を使っているとされる。ただ就任から1カ月が経過し「時折、疲れた様子」(関係者)を見せることもあるという。7年8カ月にわたり官房長官として長期政権を支え、政策の策定から実行に至るまで自らが関与してきた習性はなかなか抜けないのかもしれない。ストイックなまでに仕事に入れ込む一方で「耳の痛いことを言う人を周囲に置かない」(政府関係者)との評もある。

 自民党総裁に選出された9月14日の記者会見で「国民に何事も丁寧に説明する」と発言した経緯もある。初の本格論戦となる臨時国会で首相がどのような答弁をするのか。そこから首相の本当の姿が見えてきそうだ。

(共同通信政治部次長 倉本 義孝)

 

(KyodoWeekly10月26日号から転載)

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