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安倍さんの〝早い夏休み〟 人事と解散時期で夜も眠れず?

 当初から延長の可能性は低かったとはいえ、「コロナ国会」は6月17日、150日間の会期を終えて閉幕した。安倍晋三首相が大好きなゴルフを楽しめるのはまだまだ先だし、河井克行・案里議員夫妻の逮捕でしばらくは頬かむりをするだろうが、国会での野党からのもろもろの追及を逃れられる解放感によって“心の夏休み”が始まった。だが、この夏休みが明ければ、総裁任期満了まで残り1年となる。2カ月後の内閣改造・党役員人事をどうすべきか、いつ衆院の解散に打って出るべきかといった悩みは、すでに安倍首相の頭の片隅などではなく、ど真ん中にある。

 

ゴングに救われた

 

 今年は東京五輪・パラリンピックがわが国にとっての最大のイベントになるはずであった。1月に召集された通常国会の施政方針演説でも、安倍首相は「半世紀ぶりにあの感動が再びやってくる」と胸を張った。オリパラで国威を発揚し、あわよくばその余勢を駆って衆院の解散に打って出るのではないかとも見られていた。

 だが、コロナ禍ですべてが吹き飛んだ。野党は引き続き「桜を見る会」をめぐる疑惑などを追及しようと手ぐすねを引いて待っていたが、2月以降はコロナ対策一色となった。2次にわたる補正予算には野党も賛成に回らざるを得なかったし、国会の議決を必要としない10兆円もの巨額予備費まで認められた。さらに、政府提出法案の成立率も93%に上った。

 コロナ禍で安倍首相の連続執務日数は147日に達した。「働いて当たり前」と思う者もいるだろうが、若く見える安倍首相も9月には66歳、心身ともに疲れないはずはない。この数ヵ月間、夜の会合も自粛してきたため、「家庭内野党」とも称される昭恵夫人と顔を突き合わせる時間がめっぽう増え、そこでも気苦労が多かったと想像される。

 本来、国家的危機に際してはリーダーの求心力は強まり、支持率も上昇しやすい。しかし、安倍首相はコロナ対策で失点を重ねただけでなく、黒川弘務検事長の定年延長と検察庁法改正でみそをつけ、国会閉会近くになって持続化給付金と「Go To キャンペーン」の事務委託問題でさらに批判を浴びた。

 河井夫妻をめぐる問題でも官邸の責任が厳しく問われるため、安倍首相は国会閉会を鶴首して待っていたことだろう。立憲民主党の枝野幸男代表は「ひきょう者、逃げるな」と安倍首相をののしったが、自民党の国対関係者は「どの問題も政権を倒す決定打ではないが、間違いなくボディーブローのように効いてくる。総理は閉会というゴングに救われた」と解説する。

 国会が閉会になっても、コロナ対策をはじめ、安倍首相の激務は続く。治療薬やワクチンの開発時期も気になるし、盟友のトランプ米大統領の再選の行方や、来年の東京オリパラ開催の見通しも気が気でない。

 しかし、安倍首相が最も頭を抱えるのは、赤点すれすれだった今年前半の成績をどうやって挽回できるか、どうやって求心力を回復できるかにほかならない。

 

大きな意味もつ9月支持率

 

 6月に入り、安倍首相は麻生太郎副総理兼財務相と2回にわたって2人だけの会談を持った。19日には菅義偉官房長官と自民党の甘利明税調会長を加えた4人で会食した。さしずめ夏休みの“過ごし方”を話し合ったのだろうが、その中に内閣改造と役員人事、そして衆院解散の話題が含まれていたことは衆目の一致するところである。

 内閣改造や衆院解散を行えるのは、政権にまだ体力があるからである。低下したとはいえ、一般社団法人共同通信社の最新の世論調査では内閣支持率は36・7%で、まだ“危険水域”に突入していない。

 主な低下要因は「長期政権にありがちな油断と慢心」(党三役経験者)だといえるが、依然として4割近くを維持できているのは、有力な「ポスト安倍」が見当たらないことが最大の理由である。裏を返せば、安倍首相は頑張り次第でまだ支持率を5割前後まで回復させられるのである。

 コロナ禍で落ち込んだ経済をいきなり回復させたり、日ロ関係や拉致問題で大きな前進を見せたりすれば、支持率は上昇するだろうが、可能性は限りなくゼロに近い。数少ない政権浮揚カードの1枚は人事であるが、もはや「人寄せパンダ」を使う手は通じない。「ウルトラCは元大阪府知事の橋下徹氏の入閣」(若手議員)といった突拍子もない観測もあるが、そのような奇策を弄(ろう)すれば、永田町は上を下への大騒ぎとなる。

 むしろ、期待を込め、「次が安倍さんにとって最後の人事。『これぞ安倍政権の集大成』という意気込みで、本当にやり遂げたいことを自分の言葉で堂々と語り、“恩返し”や“在庫処理”ではなく、真に適材適所の重厚な布陣を示せば支持率はかなり戻るのではないか」(閣僚経験者)といった見方も一部にはある。

 その一方、内閣改造・役員人事では党内の政治力学とポスト安倍にこれまで以上に配慮しなければならない。

 たとえば二階俊博幹事長や菅官房長官を交代させれば政権の屋台骨は大きく揺らぐ。だが、岸田文雄政調会長にさらなる活躍と露出の場を与えなければ、安倍首相が最も毛嫌いする石破茂元幹事長が次期総裁選で有利になりかねない。安倍首相にとってまさに痛しかゆしである。

 しかし、この複雑な連立方程式を見事に解き、内閣改造・役員人事後の9月の内閣支持率を5割前後まで回復させられれば、下りかけた幕は再び上がり、安倍首相は活路を見いだせるかもしれない。逆に、考え抜いた末の人事がまったく評価されなかったり、裏目に出たりすれば、安倍政権はいっきにレームダック(死に体)化し、すぐさま水面下で実質的な総裁選が始まる。

 

絞られてきた解散時期

 

 安倍首相は8月24日に大叔父の佐藤栄作元首相の連続在任記録を塗り替え、歴代最長となる。1次政権と合わせれば、すでに憲政史上最長の在任期間である。だが、「総理は決して在任期間の長さだけで満足していない。やはり安保改定や沖縄返還のような政治的レガシー(遺産)を残したいようだ」(官邸関係者)という。

 6月18日の記者会見でも安倍首相は「国民の信を問うべき時が来ればちゅうちょなく解散を断行する」とファイティングポーズを見せた。会見を見ていた前出の閣僚経験者は「安倍さんは憲法改正に挑むための衆院解散を決め込んでいる」と見る。

 森友学園問題や「桜を見る会」についての野党の追及が緩むなど、安倍首相がコロナ禍で救われた面があるのは間違いない。 しかし、国民投票法の改正がまだ緒にも就いていないなど、レガシー作りのための時間は大きく失われた。もともと改憲にはより多くの国民の後押しと時間が不可欠とされるが、どう考えても来年の9月までは間に合わない。

 安倍首相が自身の手で憲法改正を提起するには、何らかの特例によって首相の座にとどまらなければならず、そのためには“殊勲”が求められる。永田町ではそれは衆院選での大勝だと見られ、予想される解散時期はおおむね9月か11月、来年1月に絞られてきている。都議選やオリパラ、衆院の任期満了を踏まえると、来年2月以降の解散は考えにくい。新型コロナ対策特措法は来年1月で一応の区切りを迎える。

 もちろんそれぞれの選択肢にはメリットとデメリットがあるし、リスクもある。最終的にはコロナ禍や経済の動向、内閣支持率や野党結集の具合、オリパラ開催の行方、さらにトランプ大統領の再選の可能性まで、さまざまな要素が加味されて決定されるが、現時点では「あまりにも早期の解散は国民のひんしゅくを買う。3次補正を組んだ上での解散ではないか」(ベテラン秘書)との見方が強い。

 これまで安倍首相は衆院を2度解散して与党に大勝をもたらした。この夏、新たな人事と併せ、いつであれば“三匹目のドジョウ”を捕まえられるか、安倍首相は思案をめぐらす。もしも勘が的中してまたまた大勝すれば、首相続投の芽が出てくるし、おぼろげながら憲法改正も視野に入る。しかし、仮に与党が過半数を維持できたとしても、大幅な議席減であれば、「オリパラ花道論」は現実味を帯びる。

 シェークスピアの「真夏の夜の夢」はハッピーエンドであったが、安倍首相の夏はどのような終わりの始まりをもたらすのだろうか。これからも安倍首相は日々多忙とはいえ、今年の国会閉会期間はコロナ禍で大きく短縮された小中学生の夏休みよりもはるかに長く、熟慮できる時間はたっぷりある。1次政権の退陣後のように、この夏、まずはみずからの反省点を書きつづることから始めても悪くないかもしれない。

[筆者]

政治行政アナリスト・金城大学客員教授

本田 雅俊(ほんだ・まさとし)

 

(KyodoWeekly6月29日号から転載)

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