政治
政治・経済・国際の解説・分析記事

きしみだした〝チーム安倍〟 永田町、早くも関心は100日後

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「緊急事態宣言」が、5月14日、大幅に解除された。まだまだ予断は許されず、経済の立て直しも喫緊の課題であるが、「6月に何となく収まる」(麻生太郎副総理兼財務相)といった見方が出始めるなど、永田町はすでに「コロナ後」に向けて動きだしつつある。安倍晋三首相の自民党総裁としての任期は来年9月までであるし、間もなく衆院の平均任期に差し掛かる時期だからであるが、まずは100日後の8月ないしは9月に行われるであろう内閣改造・党役員人事が最大の関心事になっている。

 

すきま風

 

 政権にとって最も重要な責務は危機管理であり、失敗すれば命取りとなる。村山富市政権は阪神淡路大震災で、麻生政権はリーマン・ショックで、また菅直人政権は東日本大震災で対応を誤り、結果的に総辞職を強いられた。逆に、時宜を得た政策を打ち出し、国民の団結を引き出して国家的な危機をうまく乗り切れば、支持率が急上昇することもある。

 現在のコロナ禍は間違いなく「戦後最大の危機」(安倍首相)である。にもかかわらず、安倍政権の打ち出す政策はいずれも国民の不評を買ってきた。「ツーリトル・ツーレイト(少なすぎ・遅すぎ)」とは30年前の湾岸危機の際、わが国が米国から叱咤(しった)された言葉であるが、今、これはそのまま国民から安倍政権への批判となっている。共同通信の直近の世論調査(8~10日)でも、政府の対応を「評価しない」は6割近くに達した。

 安倍首相肝いりの「布マスク」の配付は論外として、緊急事態宣言の全国への拡大にしても、全国民への一律10万円の現金給付にしても、必ずしも政策そのものが悪いわけではない。国民のニーズを的確に把握し、迅速に打ち出していれば、国民はそれなりに評価したはずである。だが、安倍首相の対応が後手に回っただけでなく、右往左往したことは国民の目に“ブレ”と映った。

 安倍政権が発足してからの7年近くを振り返ると、危機管理はそこそこ成功してきた。だが、それは安倍首相の力量ではなく、むしろ女房役の菅義偉官房長官を中心とするチームワークによるところが大きかった。菅長官の情報収集力と冷静な分析・判断に政権が救われてきたといってよい。「たたき上げの菅さんあっての安倍政権」(若手議員)との声は珍しくない。

 しかし、その安倍首相と菅長官の間にすきま風が吹き、不協和音が聞こえ始めた。永田町では「もはや官邸でも家庭内離婚だ」「仮面夫婦だ」と皮肉る者もいる。「『令和おじさん』として人気が出たことに総理が嫉妬した」「菅氏の野心を警戒している」「(菅氏に近い)菅原一秀氏や河井克行氏を入閣させたことで総理が迷惑した」、あるいは「菅氏の方が総理やその側近に愛想をつかしている」など、その理由には諸説ある。

 

官邸官僚の台頭

 

 さして意味のない91億円の「アベノマスク」の配付や安倍首相の「うちで踊ろう」のコラボ動画、緊急事態宣言の全国への拡大、さらに新型コロナ給付金の突然の内容変更は、安倍政権の迷走ぶりを印象付けた。普通であれば、近くにいる者が諫言や助言をするはずであるが、今や安倍首相は「裸の王様状態」(野党議員)だという。

 最大の原因は菅長官が遠ざけられ、その下で副長官を務めた加藤勝信氏や世耕弘成氏、西村康稔氏らが閣僚や党の要職に就いた結果、安倍首相の周りに嗅覚に優れた政治家がいなくなったことである。

 かつて首相は政務については政治家である正副官房長官と、事務については外務省や財務省、警察庁などからの出向者である秘書官たちと綿密に連携しながら処理したが、もはやその構造は成り立っていない。

 今では菅長官に代わり、“無血クーデター”で台頭した今井尚哉氏や和泉洋人氏、長谷川栄一氏の各首相補佐官らを中心とする“官邸官僚”が政権を牛耳っている。新聞に載る「首相の動静」を見ても、それは明らかである。彼らも霞が関の出身者ではあるが、もはや“親元(省庁)”に戻ることはないし、国家や国民ではなく、安倍首相との強い絆で結ばれ、運命を共にしている。

 とりわけ今井補佐官の影響力は絶大だという。今井氏は第1次安倍政権で首相の事務秘書官を務めた縁もあり、第2次政権では政務秘書官に就き、安倍首相の片腕となった。のみならず、昨年秋の内閣改造では初めての例ながら、秘書官在任のまま補佐官兼務となり、「影の総理」との異名をとる。歴史好きのベテラン議員は「まるで側用人のまま老中格となった柳沢吉保のようなものだ」と表現する。

 官邸官僚が民意と乖離(かいり)した政策を練り上げたり、強引な政権運営を行ったりするおごりは、内閣支持率が4割を下回らないことが一因だといってもよい。 いわば国民はなめられているのであるが、さらに突き詰めれば、安倍首相に代わる選択肢が見えてこないことも背景にある。内閣が支持されている理由は、依然として「ほかに適当な人がいない」が半数を占める。コロナ禍の状況下で検察官の定年延長法案が強行に採決されようとしていたのも、「安倍1強」が続いているからである。

 もとより側近政治がすべて否定されるべきではない。だが、自民党には「問題なのは、彼らは国民を見ず、ただ安倍首相に阿諛追従(あゆついしょう)し、いい子になっていることだ」(中堅議員)といった厳しい意見があるし、「まさに虎の威を借る君側(くんそく)の奸(かん)だ」(前述のベテラン議員)と切り捨てる者もいる。「布マスク」の配付も、「うちで踊ろう」のコラボ動画も、彼らの入れ知恵なのかもしれない。たとえそうでないとしても、“忠臣”ならば、せめて安倍首相をいさめるべきだったはずである。

 

注目人事は官房長官

 

 しかし、安倍首相は遠くない将来、人事で大きな決断を迫られる。自民党の役員任期は1年であるため、これから約100日後に内閣改造・役員人事が行われるはずである。

 自民党総裁としての安倍首相の任期は来年9月までであるため、続投がなければ最後の人事となるだろうし、人事次第では続投の芽が完全になくなるかもしれない。まさに“重大イベント”が待ち構えている。

 人事の最大の焦点は何といっても菅長官の処遇である。「コロナが終息すれば菅さんは辞めるのではないか」(別の若手議員)との予想もあるが、「途中交代はあり得ない」(全国紙デスク)といった見方もある。もしも途中交代しなければ、秋の人事で菅長官が留任するのか、党三役に入るのか、それとも無役になるのかで政権の運命は大きく変わる。

 菅氏は近い議員に「疲れた」と漏らしているというが、第2次政権発足以来の名官房長官を降ろせば、政権そのものが立ち行かなくなる可能性が高い。

 その一方、ただ安倍首相や官邸官僚の後始末を担い、記者会見をするためだけに官邸に置いておくのは「宝の持ち腐れ」(前述の中堅議員)であることも間違いない。

 ちなみに、安倍首相は側近の官邸官僚を代えることは、頭の片隅にもないようである。お坊ちゃん育ちで人のいい安倍首相は、第1次政権では世論や与党を敵に回してでも“お友だち”を重宝したが、今回は“お側衆”をことのほか大切にしている。

 安倍首相は菅氏を総務会長などに充て、後任に気心の知れた加藤厚労相を横滑りさせることを考えていたともいわれるが、新型コロナ対策で汚点を残したため、次に浮上しているのは盟友の甘利明氏やこの数カ月で名を上げてきた西村氏の起用だという。

 しかし、誰が官房長官に就こうが、菅氏を交代させた時点で、政権の終わりの始まりではないかとの見方が有力である。

 たかが官房長官人事などと軽く見る者もいる。だが、菅長官を交代させれば官邸の危機管理能力がさらに低下するだけでなく、「絶妙な権力バランスの上に成り立っていたチーム安倍が、瓦解(がかい)することになりかねない」(閣僚経験者)のである。今度の内閣改造・党役員人事は安倍政権の“最終章”を占う上でも目が離せない。

[筆者]

政治行政アナリスト・金城大学客員教授

本田 雅俊(ほんだ・まさとし)

 

(KyodoWeekly5月25日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ