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力量問われる日本政治 コロナ感染拡大、未曽有の試練

 新型コロナウイルスの爆発的流行は政治にも未曽有の試練を課している。政府・与党は緊急事態宣言発令をはじめ未体験の緊急対応に追われた。野党も政府を批判しつつ協力するという、ジレンマの中で非常時のあるべき野党像の提示を迫られている。この試練を乗り切れるのか、日本政治の力量が問われている。

 

休眠状態

 

 コロナ禍で国際環境は一変しそうだ。ヒト・モノ・カネのグローバル化の流れが蛇行、停滞するのは避けられない。各国で準鎖国体制が敷かれてヒトの動きは国内に封じ込まれ、世界規模のサプライチェーン(部品の調達・供給網)は休眠状態。グローバル市場経済は、リーマン・ショックがかすむほどの深刻な状況に陥り、大恐慌後の1930年代、ブロック経済の時代を思い起こさせる。

 いずれ入国制限は緩和され経済活動も再開されるにせよ、コロナ禍のトラウマは一本調子のグローバル化に懐疑的な風潮を強めるだろう。こうした変化に伴い対外政策面では国際協調をめぐって背反する二つの課題が浮上してきた。

 一つは国際協調の回復に努めることであり、もう一つはその努力が実らなかった時に到来する対立の時代をしたたかに生き抜く策をめぐらすことだ。

 安倍政権は「国際協調の強化」と「自由貿易体制の維持」を対外経済政策の2本柱に掲げ、その旗振り役を自任してきた。この実を上げ、さらにコロナ問題で各国の分断に拍車がかかるのを阻止するために国際協調の再構築に汗をかくべきだ。

 4月24日にはG20観光相によるテレビ会議を開催し観光業の復興で連携を確認した。主要国(G7)協議、日欧との貿易協議など地道に国際社会が手を携える機会を積み重ねるのは遠回りのようで一番確実な道だ。

 ただ現状は厳しい。G7首脳はコロナ問題を話し合うためテレビ会談を開いたものの有効な対応策を打ち出せなかった。米国を筆頭に「自国第一主義」が一層強まり国際協調の機運がさらに下降する気配だ。中でも気がかりなのは米中関係の今後だ。

 米国は世界保健機関(WHO)を「中国寄り」と批判して資金拠出の停止を表明するなど、コロナ禍は米中対立の新たな火種となっている。以前から米中の経済摩擦は覇権争いの様相を呈していたが米中両国とも現政権の基盤が揺れ、強硬姿勢に傾斜しやすくなっている。

 その兆候は安保面で既に現れている。4月に入って中国が南シナ海に新行政区を設置し南沙(英語名スプラトリー)、西沙(同パラセル)両諸島の実効支配を強める動きが表面化、米国が警戒を強めている。河野太郎防衛相は、コロナ封じ込めで各国が協力しなければならない時期だけに「いつにも増して許されないだろう」と中国を批判した。

 二大国のはざまで、日本の選択肢は限定されている。特に安保面では日米同盟を基軸とする以上、中国とは潜在的なライバル関係にある。おまけに尖閣諸島問題という顕在的対立要因も抱えている。一方、経済面では中国との貿易額が米国を上回り対中関係の安定は不可欠。政治、経済、安保のトリレンマに陥ることなく地域の安定を維持するのは容易ではない。

 

インバウンド依存

 

 不透明な情勢の下では不安定要因を最小限に食い止める守りの外交戦略にならざるを得ない。外交の主軸である米国との関係強化、中国との関係改善と並行して、安保、経済の両面でアジア、欧州との連携を深め日本が米中対立の中で自律的に柔軟対応できる環境づくりを急ぐべきだ。

 安倍晋三首相が主唱し米国も同調した「自由で開かれたインド太平洋」戦略の深化はその一つの手立てとなるだろう。同時に新事態に対応した長期外交戦略の構築を進める必要がある。

 難しい外交局面に冷静に対処するためには国内世論の後押しが不可欠だ。国会論議などを通じて合意形成に努力する姿勢が政権、野党双方に求められる。

 国内に目を転じるとコロナ禍がえぐった傷跡は深く広い。世界の政治・経済・社会構造の揺らぎは、「世界経済の持続可能で包括的な成長」(2019年骨太の方針)という経済政策の大前提を直撃する。安倍政権の進めてきたインバウンド依存の景気浮揚のもろさも露呈した。

 非常措置として超大型の補正予算を組むのは当然としても、巨額の財政赤字はいずれ国民に重くのしかかってくる。日銀の金融政策が手詰まりになり、ただでさえ財政出動への依存が強まっていた。財政赤字が急増すれば政策の自由度は狭まる。

 コロナ禍で景気が急降下し「経済再生と財政健全化の好循環」という想定が崩れつつあるのも暗い影を落とす。懸案を先送りしてきた付けが切っ先となって政権の喉元に突きつけられているのだ。

 

安全網の再設計

 

 財政問題と裏表の関係にある社会保障政策をめぐっても問題点が噴出した。非正規雇用者が全雇用者のほぼ4割を占めている現状に雇用保険制度は即していない。一律10万円支給という急場しのぎに追い込まれたのも社会的安全網の目の粗さが招いた事態だ。

 コロナ禍を契機に想定外の事態が常態化することを前提として手厚い安全網の再設計に着手してはどうか。今問われているのは危機にあっても安心して暮らせる国だったのかという点だ。財政、社会保障の将来展望を練り直し、経済不安、生活不安を払拭(ふっしょく)するのは喫緊の課題だ。

 もちろん社会保障分野の柱である感染症対策は当面の最優先事項だ。新型インフルエンザ等対策特別措置法が12年に成立し対策閣僚会議、有識者会議が設置されていたのに態勢づくりは遅れていた。

 有識者会議のあるメンバーは、厚労省の医系技官のほとんどは感染症の専門家ではないなどと態勢の不備を指摘していた。国内のワクチンの研究、生産体制は弱体で外国頼みというのが現状だ。感染の水際対策、拡大防止対策、医療体制の強化は待ったなしだ。

 安倍政権はアベノミクスでロケットスタートを切った勢いで産業政策、労働政策、社会保障政策について官邸主導の組織を次々と設けてきた。しかし打ち上げ花火のように発足時は派手でも持続性に欠け、後世に残る成果は乏しい。

 半面、産業基盤の構造変化や労働市場の流動化対応など根気のいる課題への取り組みにはさほど熱心ではなく、特にデジタル情報化と地球環境問題という2大課題については諸外国に大きく後れを取っている。

 コロナ対応でもデジタル情報技術によるイノベーションが社会に浸透していれば感染者の把握、困窮者への救済策などもっと円滑に実現できたはずだ。

 コロナ禍を通じて医療分野をはじめ日本がさまざまな分野で世界標準から遅れ始めているという現実を突きつけられた。コロナ禍の衝撃でテレワーク、オンライン学習など働き方、学び方の変革は否応なく進む。業界の顔色をうかがいながら小手先の規制緩和策でお茶を濁すようなやり方では間に合わない。政治が大胆な制度刷新に向けて指導力を発揮する好機だ。

 統治機構について立法、行政の対応力も問われている。短絡的に憲法改正論議に結び付ける前に、現状の点検、分析、評価から始めるのが筋だ。都道府県知事の存在感が長短両面で際立った。中央と地方の補完関係の見直しにも目を向けてもらいたい。

 コロナ禍は、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の強制に象徴されるように、物理的インフラは無傷なのに社会インフラの土台である人と人のつながりを破壊する点に恐ろしさがある。人間関係は私的な分野だが、不安を解消し安心を担保するのは政治の基本的な役割だ。

 

自然災害の備えも

 

 感染拡大が終息に向かう見通しは立たず、暗いトンネルの中で手探りのように出口を目指す状態がまだまだ続く。終息後に視線を向けるのは早計だが、緊急対応の後にはコロナ禍で噴出した多様な課題に立ち向かわなければならない。パンデミック(世界的大流行)は今後も避けられないし自然災害への備えも急務だ。

 コロナ以前と以後、変容する世界の姿を見据え、人々の安心と希望を取り戻すため短期戦術と同時に長期戦略を走りながら模索するよう政界に期待する。

[筆者]

政治ジャーナリスト

吉田 文和(よしだ・ふみかず)

 

(KyodoWeekly5月25日号から転載)

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