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「緊急誌上座談会」新型コロナで変わる授業 「著作権のカベ」崩す法改正

 新型コロナウイルス感染拡大により、5月4日、緊急事態宣言の延長が決まった。多くの学校で休校措置の延長が決まり、学習の遅れが懸念される中、注目を集めているのがオンライン授業だ。ところが、そこに著作権法の意外な制約があることはあまり知られていない。そのカベを一部取り払う法改正が急きょ施行された。新制度の仕組みや意義、課題などについて関係者に語り合ってもらった。

 

 ―新型コロナウイルスが新学期を直撃しています。都内の公立小中学校では休校を、5月末まで延ばすと、小池百合子都知事が発表しています。

 A(都立高校教師)「学校というところは、よくも悪くも学習指導要領に基づいた年間スケジュールがガチガチに決まっていて、消化すべきカリキュラムをこなすために、もともと時間割を削る余地は少ない。この想定外の遅れは本当に頭が痛いよ」

 B(全国紙記者)「そうでなくても大学入試は2020年度から共通テストが導入されるなど、大きな変革期にあって受験生の心理的な負担は大きいはず。学校にとっては、コロナ禍の長期化に備えて生徒たちをどのように指導、サポートしていくべきか、試練の1年となるのでは」

 

オンライン授業に脚光

 

 ―そこで脚光を浴びているのがオンライン授業です。教師が行う授業をリアルタイムで配信したり、授業を録画して保存しておいたりすれば、児童・生徒は家庭にいながら受講できます。

 C(著作権の管理団体役員)「オンライン授業が新型コロナで困っている教師や生徒たちに有効なのは認めるけれど、授業に他人の著作物が含まれる場合、著作権のルールのことも少しは考えてほしいな」

  「どういうこと?」

  「授業で使う著作物は、いちいち権利者に断らなくても、先生が複製してプリント配布できる。でも従来の法律は、あくまで紙に限定したルールだ。インターネットで配信することを法律用語で公衆送信というけれど、これは権利者のOKがないとできない。市場への影響が大きいからね。話題のオンライン授業は通常は公衆送信に当たるので、原則、個別に申請して許諾を得る手続きが必要なんだ」

  「そういえば私がパソコンの授業で、ある英字紙のコラムを題材に選んで生徒たちの端末に送信しようとしたら、教頭から、それは新聞社の許諾が必要だし有料になると言われて断念したことがあった」

 ―そこで、授業目的であれば著作物をネット配信する際に、個別の申請が不要になる代わりに補償金の支払いを学校設置者(都道府県や市区町村、学校法人など)に義務付けるという法改正が2018年にありました。

  「教育のICT(情報通信技術)化を推進するうえで、忙しい先生たちが著作物ごとに都度、申請などしていられない。そういう権利処理にかかる学校側の負担を軽くする狙いだ。制度設計に3年の準備期間が設けられていて、21年5月までの施行が予定されていた」

 

補償金制度で救済

 

  「補償金というと一般の人には聞き慣れないけど、授業でのプリント配布のみであれば限定的だった著作権者の不利益が、ネット配信だとかなり大きくなってしまうことに対する救済措置と考えてほしい」

  「教育の補償金制度は諸外国にもあるし、日本でも似たような制度がデジタル方式の録音機器などにもあるよ」

  「それなら教務の同僚から聞いたことがある。多少コストはかかっても、デジタルに対応した手続きの簡単な利用メニューがほしいとね。うちの学校は比較的パソコンの配備が進んでいることもあって、早く改正法が実施されればいいのにと同僚はこぼしていた」

  「そこへ、このコロナ騒動が起きた。新学期の学習への影響が甚大になるにつれ、全国の大学などからもオンライン授業の環境を整えるために、補償金制度を早期実施するよう文化庁に要請があった。永田町方面の強い働きかけもあって、われわれ権利者団体も条件付きで新制度の見切り発車を了承したんだ」

 

改正法は4月28日施行

 

 ―補償金の徴収や権利者への分配に当たる管理団体「授業目的公衆送信補償金等管理協会」(略称SARTRAS)が文化庁に対し、必要な手続きをとりました。改正法は4月28日から施行されました。

  「20年度に限り補償金をゼロとする代わりに、21年度からの有償化に向けてきちんとレールを敷こう、調整が難航していた項目はひとまず棚上げして、子どもたちのため今できることを急いでやろうと関係者が手を携えたというわけだね」

  「それはとても助かるし、歓迎すべきことだけど、具体的にわれわれ教員はどういうことができるようになるの?」

  「これまでは対面授業で、先生や生徒が著作物をコピーしてプリント配布することはできた。これからは同じ対面授業でも、先生が著作物をサーバーに置いて、生徒がそれを自分のパソコンで見られるようになる。あるいは先生が別室から1人、カメラに向かって授業をし、それを休校中の生徒が同時に、または好きな時にパソコンで見て学ぶ、なんてこともできるらしい」

  「対面授業で使う著作物を、離れた別の教室に同時中継して映すようなオンライン授業は従来ルールでもできた。今回は時間や場所を問わず、かなり自由度が増したといえる。先生が著作物を含む教材をメールで送り、生徒が家庭のパソコンで予習・復習する、なんてこともできるようになるよ」

 

現場の理解には不安

 

 ―そうはいっても、現場の先生たちがどこまで理解できるか、不安視する声もあります。

  「そう。誤解されては困るのだけれど、授業目的なら著作物をなんでも使い放題にネット送信できるわけじゃないよ。長編の小説や、十数ページにもわたる雑誌の特集記事を、たとえ授業目的であっても、まるごと全部なんていうのはダメ」

  「逆に新聞記事は記事の全文を使ってもらわないと、正確に伝わらない可能性があるね。俳句や短歌など短い著作物も、作品としてその全部を使わないと意味がないよ」

  「なるほど。美術の授業でも題材の絵画を送信するのに、一部というわけにはいかない。一方、大学の専門課程などでは学術論文の全体を読まないと役に立たない、といったケースもあり得るんじゃないかな」

  「ちなみに教科書の本文や図表なども著作物という扱いだから、その一部を送信することはできる。ただ、計算ドリルや漢字練習帳など、もともと1人ずつ購入してもらって使うものは、対象外だよ。なんでも無償で送信されたら、そういう教材会社は軒並みつぶれてしまう」

 

ICT教育の功罪

 

 ―パソコンで予習・復習という話が出ましたが、パソコンの普及度は学校によって、かなりばらつきがあるようです。

  「全国の小中学校の教科用パソコンの普及率は約17%、およそ6人に1台(2019年3月時点)という状況だ。教育のICT化推進によって学びの質を高めようと、政府は2023年度には1人1台を実現させるべく予算を積んではいるけど、コロナで今日明日の授業ができないというときに、随分気の長い話に聞こえてしまう」

 「しかもその間、生徒や児童が家庭のパソコンで予習・復習をするとなると、各家庭のICT環境も気になる。本来、機会均等であるべき教育が家庭の事情でばらついてしまい、学力格差が一層大きくなりかねない心配があるな」

  「いずれにせよ教育のICT化の流れは止まらないし、授業のかたちは大きく変わるだろう。計らずもコロナがそれを早めた格好だけど、われわれは今後の教育の在り方を見つめ直すいい契機とすべきなのでは」

  「若い人には学びを通じてより多くの優れた著作物に接してほしい。オンライン授業という目下の懸案を通じて、誰もが納得できる権利処理の仕組みを、教育機関や権利者、国が知恵を出し合い、早期に整えたい。コロナ禍の先に、そんな明るい未来を期待したい」

(構成・著作権法35条研究会)

 

(KyodoWeekly5月18日号から転載)

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