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デジタル化迫られる行政と民間 新法で巻き返しへ

 キャッシュレス決済は進まず、マイナンバーカードも思うように普及しない。デジタルビジネスは、グーグルやアップルなどの米巨大IT企業「GAFA」に牛耳られ、日本はデジタルで後進国になりつつある。巻き返しを図りたい日本は「デジタル手続法」を成立させ、デジタルを前提とした社会へとかじを切った。昨年末に施行されたこの法律は、デジタルに二の足を踏む日本の社会を大きく変えると期待されている。

 

3原則

 

 デジタル手続法はピンとこなくても、「デジタル・ファースト」には聞き覚えがあるだろう。

 2019年4月の衆院内閣委員会で、平井卓也IT・科学技術担当相(当時)が政府として初めてタブレット端末で答弁したことが話題となった。審議しているデジタル手続法案に対する、答弁だったことは象徴的であり、まさにこれからの「デジタルを前提とした社会」をほうふつとさせる出来事だった。

 この法律では三つの基本原則が定められ、それぞれデジタル・ファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップと呼ばれている。

 デジタル・ファーストとは、行政手続きやサービスを一貫してデジタルで完結させる原則で、これまでデジタル化を阻害してきた添付書類、納付手続き、交付物などの壁を取り払い、すべてがデジタルで完結できるよう、手続きや業務の在り方そのものを見直していく。

 ワンスオンリーとは、一度提出した情報は再提出不要とする原則で、民間企業が何度も同じ情報を提出する必要がなくなる。すでにマイナンバーの情報連携で添付書類が省略されており、このような手法を広げていく。

 コネクテッド・ワンストップとは、引っ越しに伴う住所変更や死亡に伴う手続きなど行政と民間が関連する各種手続きにおいて、手続きを1カ所(ワンストップ)で完結させる原則で、民間企業も行政機関と密な連携が求められる。

 政府はこれまでも電子化・オンライン化を進めてきたが、このデジタル手続法では「技術を利用する」ことから「技術を活用して行政を変えていく」という大きな方針転換を行った。

 また、国民の利便性・行政運営の簡素化などにとどまっていた従来の目的を大きく拡張し、「社会経済活動をさらに円滑化し、国民経済を健全に発展させる」と社会全体を対象にデジタル化を促進する方向へとかじを切った。

 つまり、この法律は社会全体のデジタル変革を促すものであり、行政と民間企業を大きく変えようとしている。

 デジタル手続法の構造(図表)を見ると「デジタル化の基本原則」と「デジタル化推進の基盤整備」の二つの重要な部分がある。「デジタル化の基本原則」は前述した原則のほか、原則の実効性を担保するために情報システム整備計画を国に義務付けるものとなっている。

 また、民間手続きのデジタル化推進についても規定され、行政手続きと同時に行われる民間手続きについてはデジタルで一括して(ワンストップで)実施できるよう、民間も行政と連携するように努力義務が課せられた。

 「デジタル化推進の基盤整備」では四つの重要施策を実施するための法改正が行われた。国外転出者へのデジタル対応、本人確認情報の長期保存、マイナンバーカードの利用拡大と普及、マイナンバーの利用事務と情報連携の拡大である。

 国外転出者へのデジタル対応は、国外転出者に対して電子証明書を発行し、マイナンバーカードを交付するもので、年金の現況届などの手続きを国外からオンラインで可能とし、インターネットによる在外投票も想定している。

 本人確認情報の長期保存は、住民票除票・戸籍付票除票の保存期間を150年とするもので、所有者不明土地の所有者探索、休眠預金や自動車廃車などにおける本人の同一性証明に活用される。

 マイナンバーカードについては、暗証番号を入力しない認証方法を認める法改正を行ったが、これはマイナンバーカードの健康保険証化を想定したものである。政府の計画では2021年3月から健康保険証としての利用を開始し、22年度にはほとんどの国民がマイナンバーカードを保有する状況を想定している。

 マイナンバー利用事務として罹災(りさい)証明書の交付事務と新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく予防接種を追加、情報連携対象事務として母子健康法による保健指導などの事務を追加し、マイナンバーをこれまで以上に活用していく方向だ。

 このデジタル手続法は「デジタル・ガバメント実行計画」推進の一環であり、添付書類撤廃やワンストップサービスなども同時に推進される。そしてこの実行計画を基に、各省庁がデジタル・ガバメント中長期計画を策定・実行している。

 

コスト削減

 

 さらに、別の動きとして始まった規制改革推進会議の「行政手続きコストの削減」や、マイナンバーカード普及・マイナンバー利活用の施策も実行計画に盛り込まれている。デジタル手続法はこれらの施策とも連携しながら、行政手続きのみならず民間企業のデジタル化をも推し進める。

 例えば、「行政手続きコストの削減」では事業者の行政手続きコストを20年3月までに20%以上削減するという目標を掲げ、具体的に社会保険、国税・地方税、補助金、就労証明、入札・契約などの手続き電子化が動きだしている。

 今後も20年4月以降開始の事業年度から、大企業を対象に社会保険の手続きで14種類の電子化が義務化され、国税・地方税の手続きでは法人税や消費税などの申告で電子化が義務付けられる。

 さらに、21年1月提出分から国税における法定調書の電子的提出義務の基準が「1千枚以上」から「100枚以上」に引き下げられ、地方税における給与支払報告書や公的年金等支払報告書の電子的提出義務の基準も同じかたちで引き下げられる。

 このようにデジタル手続法が民間企業のデジタル化を推進する理由は、いくら行政手続きの電子化を進めても、民間から受け取った情報が電子化されていないと、行政側の業務プロセスをデジタル前提で改革できないからだ。

 民間企業もデジタル化への対応が迫られるが、それが行政のデジタル改革を促すという意識を持ちたい。このように民間と行政がデジタルで社会変革を起こすという意識を共有できれば、わが国の社会経済のデジタル化は一気に進むだろう。

[筆者略歴]

富士通総研経済研究所 主席研究員 

榎並 利博(えなみ としひろ)

東京大文学部考古学科卒業、1981年富士通株式会社入社。中央大学非常勤講師、早稲田大公共政策研究所客員研究員などを経て、2010年より富士通総研経済研究所

 

(KyodoWeekly1月20日号から転載)

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