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形骸化する行政評価とEBPM 〝根拠〟で政策を改善

 EBPMという言葉をご存じだろうか。限られた経営資源で、より効果的な取り組みを実施するために、政策の効果検証・見直しなどを通じて政策の高度化を図るという政府の取り組みのことだ。従来から類似の目的で取り組まれてきた「行政評価」が形骸化する中、実効性のあるEBPMが中央省庁や地方自治体で実践されるための課題を考察する。

 

 EBPM(Evidence-based Policy Making=“根拠”に基づく政策立案)の重要性は高まりを見せているが、「〝根拠〟に基づく政策立案に取り組む」という言葉に対して「これまで行政は〝根拠〟に基づかず政策を実施してきたのか」という反応がなされる場合がある。確かに海外事例や、先進事例を無条件に取り入れる場合や既存の取り組みを十分に検討せず継続する場合など客観的な〝根拠〟に基づかず政策立案される場面はある。

 しかし、行政の成果を定量的に測定し、よりよい政策への見直しを行う行政評価などさまざまな場面で、データなどの客観的な〝根拠〟は用いられてきた。行政が〝根拠〟に基づく政策立案に全く取り組んでこなかったわけではない。

 

EBPMの新規性

 

 それでは、EBPMはこれまでのデータなどの〝根拠〟の活用と何が異なっているのだろうか。EBPMの新規性は、ランダム化比較試験などの統計的手法を用いて因果関係が証明された政策効果(厳密な意味での政策効果=根拠)を重視している点にある。

 ランダム化比較試験とは、アルミホイルで覆った葉と覆っていない葉を日光に当て、光合成の有無を検証した理科室での実験(対照実験)のように、特定の条件のみを変更することでその条件が与える影響を検証する方法である。

 厳密な意味での政策効果(根拠)は、マイナスの政策効果を持つ取り組みや、政策効果のない取り組みの継続を予防する上でも重要である。

 従来の考え方では、就労支援事業の政策効果は、就労支援事業により就労した人数などで測定されてきたが、EBPMでは経済情勢の好転に伴う雇用環境改善の影響や、就労支援を受ける人ほど就労意欲が高いなどの要素を踏まえた厳密な政策効果(根拠)を重視する。

 行政の現場では利害関係者との調整のために一度開始した事業の廃止は困難となる場合が多いが、政策効果がないことを証明することは事業の廃止にも役立つであろう。

 中央省庁では内閣総理大臣を議長とする「官民データ活用推進戦略会議」の下に設置された「EBPM推進委員会」によって政府横断的なEBPMが推進され、地方自治体の中にはランダム化比較試験などに取り組む先進的な自治体も出てきている。

 中央省庁や多くの地方自治体が厳密な意味での政策効果(根拠)を重視するEBPMに取り組むことは、より効率的な行政活動につながるため望ましい。

 

普及に大きな課題

 

 しかし、EBPMが広く行政に普及するには大きな課題が存在する。1990年代半ばから2000年代前半に行政評価は広く導入されたが、少なくない場面で行政評価は形骸化している。要因の整理を実施せずに目標値の達成状況のみを○×で判断する場合など改善につながらないペーパーワーク評価が行われている。

 行政評価が形骸化した主たる要因は二つある。一つ目は、活用するための政策形成プロセスを整備せず手段としての評価のみを導入している点がある。評価結果を予算編成に反映する仕組みや評価結果に基づき事業を廃止する仕組みを整備しなければ、評価結果の活用は難しい。

 二つ目は、行政は誤りを犯さないという行政の無謬(むびゅう)性の存在がある。行政は誤りを犯さないという考えから行政評価に対して揚げ足を取るような無理解な批判が行われるために、無難な評価結果が形式的に作成される。

 これらはEBPMにも当てはまる。①具体的な活用方法を考慮せずランダム化比較試験などの手法のみを導入しても結果の活用は難しい。②政策効果がないことを示す抵抗から政策効果を高く見せるようにデータを意図的に操作する懸念がある。

 

実効性あるEBPMを

 

 わが国において、EBPMは黎明(れいめい)期にあり、今後多くの行政の現場に組み込まれていく必要があるが、行政評価と同じわだちを踏んではならない。形骸化させず政策の高度化に資するEBPMを実現するためには、行政評価が形骸化した要因に向き合う必要がある。

 形骸化した行政評価に屋上屋を架す形でEBPMを導入するのではなく、政策形成プロセスの見直しや行政の無謬性への対応を同時並行で実施することで実効性のあるEBPMを実現することが重要である。

[筆者略歴]

富士通総研コンサルティング本部

行政経営グループシニアコンサルタント

中村 圭(なかむら けい)

行政評価に関するコンサルティング業務・調査研究業務のほか自治体経営に関するコンサルティング業務に取り組む。専門は、計量分析・政策評価・自治体経営

 

(KyodoWeekly11月11日号から転載)

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