政治
政治・経済・国際の解説・分析記事

果たして吉と出るか凶と出るか 安倍政権の内閣改造

 「まるで小泉内閣」(中堅議員)と言わしめるほど、第4次安倍晋三再改造内閣では小泉進次郎環境相に注目が集まっている。行く先々でマスコミが待ち構え、一挙手一投足が報じられる。確かに小泉氏を抜てきしたことで内閣支持率は55%まで上昇し、一定の効果は認められる。また、改憲論議や消費増税に備えた人員配置も見て取れる。だが、安倍首相が「安定と挑戦の内閣」と銘打った今回の内閣改造・自民党役員人事が、果たして吉と出るか凶と出るかは予断を許さない。

 

示されない「ポスト安倍」

 

 高い水準が維持されてきた安倍内閣の支持率だが、いずれの世論調査でも「支持する理由」の中でずば抜けて多いのは「他に適当な人がいない」である。つまり、安倍首相以外に現実的な選択肢がないことが、安倍内閣の安定性に大きく寄与してきた。そしてその選択肢を示してこなかったのが、ほかならぬ安倍首相本人である。

 今回の人事では、岸田文雄氏が幹事長に起用されるのではないか、との臆測が飛んだ。本人も強い意欲を見せたとされる。もしも実現していたならば、岸田氏はポスト安倍レースで一歩抜きん出ていた。だが、最終的に岸田氏は政調会長に留任となり、安倍首相は後継者のお墨付きを与えなかった。

 それどころか、河野太郎や茂木敏充、加藤勝信の各氏らを要職に就け、手柄次第で有力なポスト安倍候補になり得ることを示唆した。それはかつて中曽根康弘首相が安倍晋太郎、竹下登、宮沢喜一の各氏を競わせながら政権の安定を図った手法と似る。それなりの成果を誇示できれば、小泉氏も有力なポスト安倍候補に躍り出る。

 党内反主流派として、すでにのろしを上げているのが石破茂元幹事長である。石破氏は昨年の総裁選で党員票の45%を獲得し、その後も何かにつけて安倍首相を批判してきた。だが、今回も石破氏に入閣の誘いがなかったどころか、石破派からの起用はゼロに終わった。まさに有力な選択肢の芽を摘み取るためである。

 とりわけ新元号「令和」の発表を行って以来、菅義偉官房長官をポスト安倍の有力候補だと見る者もいる。しかし、菅氏に近い議員によれば、そのような野心はみじんもなく、むしろ世代交代を進めたい意向だという。もしも安倍首相が菅氏に野心のにおいをかぎ取っていれば、今回の人事で官房長官を外していたはずである。

 安倍首相の自民党総裁としての任期は残すところ2年であり、本来であれば、レームダック(死に体)化がちらほら見受けられても不思議ではない。だが、今回の人事においても、安倍首相に代わり得る現実的な選択肢が示されなかったことから、まだまだ求心力は維持される。

 

足もと固め

 

 今回の改造では13人もの議員が初入閣を果たした。安倍首相に近い議員が少なからず入閣したことから、野党は“お友だち一掃内閣”などと揶揄(やゆ)する。

 しかし、首相が気心の知れた議員を起用することは、あながち悪いことではない。閣僚ポストが主流派に過度に偏重していたかつての自民党に比べれば、まだマシかもしれない。

 問題はむしろ「なぜ」「大丈夫か」と首をかしげたくなる大臣たちである。就任会見を見ていた所管省の役人たちは、さぞや冷や汗をかいたことであろう。だが、そうした大臣たちの起用は所属派閥の領袖(りょうしゅう)からの強い依頼による。安倍首相としては、党内の不満を最小化し、今後、各派の最大限の協力を得るため、政治的妥協を図ったといえる。良くも悪くも、永田町は貸し借りで動く世界である。

 安倍首相の総裁としての残存任期を考えれば、内閣をすべて“お友だち”で満たすこともあり得た。だが、拉致問題や北方領土問題で進展が見られない以上、安倍首相はせめて憲法改正をレガシー(政治的遺産)として残したいようである。記者会見でも「必ず成し遂げる」と意気込んだが、そのためにはできるだけ多くの派閥の協力が不可欠となる。

 むしろ、多少の副作用があったとしても、自民党が憲法改正に向けて一致団結して取り組む方がはるかに重要だと判断された。温厚で調整に長けている鈴木俊一氏を総務会長に、また安倍首相が兄のように慕う細田博之氏を党憲法改正推進本部長に、さらに対野党交渉の経験を積んできた佐藤勉氏を衆院憲法審査会長に充てたのも、このためである。

 こうした冒険ともいえる人事に、「野党やマスコミからたたかれることを覚悟しての人事はまさに“挑戦”だ」(閣僚経験者)との皮肉もあるが、「それだけ総理は必死なのだろう」(若手議員)と理解する者も多い。一国の総理大臣にそれだけの覚悟があるならば、憲法改正は実現に向けて大きく動きだすかもしれない。

 

わが世の春の経産省

 

 第2次内閣が発足してからの7年近く、安倍首相が経済産業省を重宝してきたことは、よく知られている。かつては財務官僚が政権の中枢にどっぷり入り込んでいたが、今では蚊帳の外に置かれることが多い。とはいえ、安倍首相の盟友である麻生太郎氏が財務省に君臨しているため、彼らが寝刃(ねたば)を合わすことも難しい。

 安倍首相ならずとも、最も危惧されているのは米中貿易戦争や、中東情勢などによる世界経済の減速と、消費増税による景気の腰折れである。もしも日経平均株価が2万円を割り込むようなことでもあれば、内閣支持率は激減しかねず、改憲論議は夢のまた夢となる。野党は「景気が悪化すれば政府を徹底的に追及できる」と手ぐすねを引いて待っている。

 そもそも財務省は財政健全化を最大の目標に置いているし、実体経済を理解していないともいわれてきた。一方の経産省の予算規模は決して大きくないが、いかにして経済を活性化させるか、いかにして経済規模を大きくするかの方策を熟知しているという。そして今回の人事によって、政権運営における経産省の存在はさらに大きくなった。

 経産省出身で首相政務秘書官を務める今井尚哉氏が、政権内で重要な役割を果たしてきたことは、衆目の一致するところである。その結果、首相官邸と経産省とのパイプも随分と太くなった。だが、今回の内閣改造では「ついに黒子が舞台に上がった」(中堅議員)と比喩されるように、極めて異例ながら、政策企画担当の首相補佐官を兼務することになった。また、経済再生担当相に、やはり通産省OBの西村康稔氏が起用され、経済財政運営の司令塔役も担う。

 だが、最も注目すべきは、安倍首相の盟友であり、また商工族のドンでもある甘利明氏が自民党税制調査会長に充てられたことである。これまで税調会長には宮沢洋一氏や野田毅氏など大蔵省OBが就き、いわば財務省の牙城であったが、安倍首相の鶴の一声で激変がもたらされた。内閣においても党においても、経産省はわが世の春を謳歌(おうか)しているが、問題はその期待に応えられるかどうかである。

 

吉凶は年末に判明

 

 臨時国会は10月初旬に召集され、会期は2カ月間くらいになりそうである。正副大臣・政務官は官邸の厳しい“身体検査”を通過しているはずであるが、週刊誌に何らかのスキャンダルが暴かれたり、失言・放言が飛び出したりすれば、野党は臨時国会でがぜん勢いづく。すでに「突っ込みどころ満載」(野党国対関係者)と追及の準備を進めている。

 一方、今、政権関係者が頭を痛めているのは、10月27日に行われる参院埼玉補選である。野党からは前知事が立候補を表明したが、自民党候補は、現時点ではまだ決まっていない。自民党が候補者を擁立して惨敗でもすれば、“衣替え”したばかりの政権にとって大きな痛手となるし、不戦敗ならば世論から厳しい批判を受ける。まさに前門の虎後門の狼といったところである。

 しかし、たとえスキャンダルが報じられたり、政権批判が噴出したりしても、ラグビーワールドカップや皇室行事で風化されていく可能性が高い。これまでも政権のマイナス材料は、他の国民的関心事によって“時効”となることが多かった。今回は“進次郎効果”によっても、内閣支持率の下降は最小限で食い止められるかもしれない。

 来年のことを言えば鬼が笑うというが、今年も残すところ約100日である。もしも年末の支持率が50%以上であれば、今回の内閣改造・党役員人事はひとまずの成功を収めたといえ、来年は安倍首相の悲願成就に向けて動きだすだろう。逆に40%を大きく下回るようなことがあれば、視界不良となる。

 先進民主主義国のリーダーは、当然のことながら国民世論に敏感である。もしも支持率がひどく低迷すれば、身内の与党からも退陣論が出はじめる。しかし、おみくじと異なり、支持率を決めるのは国民である。新内閣の吉凶を正しく判断するためにも、まずは熱しやすく冷めやすい国民性をあらため、政治を冷静に見ることが必要だとの指摘は正鵠(せいこく)を射ているのではないか。

[筆者]

政治行政アナリスト

本田 雅俊(ほんだ・まさとし)

 

(KyodoWeekly9月30日号から転載)

PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ