経済のグローバル化は加速の一途をたどっている。世界一の経済大国である米国の経済政策や政治体制の変更は、日本企業にとって大きな事業リスクだ。だからこそ、米国の政策決定過程において重要な役割を担う「シンクタンク」から情報を収集・分析することは“先見の明”をもたらし、適切な経営判断につながると考えられる。
本稿(上)=9月2日号=で米政権を支えるシンクタンクの概要を紹介したが、(下)ではシンクタンクを通じた情報収集・分析に関連する当社の取り組みについて紹介させていただきたい。
対日経済政策の分析
米国の首都ワシントンには、日本企業の事務所が多く存在し、ワシントン日本商工会への登録企業は100を超える。現地事務所は米政権の政策情報収集・分析活動を中心に、行政府や立法府への政策提言活動の機能を担うことが一般的だ。
政府や行政に近い人物と関係の構築をするほか、シンクタンク主催の講演会・勉強会への参加、米国現地ロビイストの雇用などを通じて、諸政策の動向把握に努めている。
また、入手した情報をレポートや電話・テレビ会議を通じて、日本本社の経営層に対して高頻度で報告する。各社の活動形態はさまざまだが、米国事務所を通じて、自社のビジネスに影響を及ぼす対日政策情報を迅速に入手・分析して、積極的に経営判断に活用している点は共通する。
米シンクタンクと協力
こうした背景の中、社会的課題をテーマにしたPR活動、パブリック・アフェアーズ(PA)の専門部署を有する当社は、トランプ政権の対日経済政策情報の分析に注力している。
ワシントンに事務所がない日本企業の経営活動を支えるために、対日政策情報源として「全米アジア研究所(The National Bureau of Asian Research、NBR)」と正式な協力関係を保持している。NBRはワシントンとシアトルに拠点があり、米国とアジア諸国の政治・経済・安全保障などを専門とする非営利・無党派のシンクタンクだ。貿易、エネルギー、知的財産権、健康・医療・福祉など幅広い分野に見識を持つ。
NBRとは、先方のアジア外交専門家・研究者と当社のPA専門家が、対日政策に関する協議をラウンドテーブルを通じて行っている。研究者たちとの意見交換を通じて知見を高めるとともに、分析結果をクライアントである日本企業と共有して、コンサルティング活動に役立てている。
これまでに、北米自由貿易協定(NAFTA)を見直した新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の動向や、米国の懸念する中国国営企業の知的財産侵害、日米貿易交渉の経緯と動向、米中貿易摩擦がもたらす日本企業への影響や展望などを議論している。
GAFA、5Gもテーマに
今後は、米中貿易協議の行方をはじめ「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コム)に対するデジタル課税や「第5世代(5G)移動通信システム」を取り巻く日本企業への影響などをテーマにする予定である。
このように、米国現地拠点を持たない日本企業への“テーラーメード型情報分析サービス”を確立し、情報支援を行うことが当社の大きなミッションであると考えている。
ラウンドテーブルで協議した概要を「ワシントン政策分析レポート」という形式でまとめ、当社公式ウェブサイトで紹介している。興味のある方はサイトを通じてお問い合わせいただきたい。
未来のリスクを回避
経営環境を左右する「海外の政策情報」は、企業の経営幹部はもとより、経営企画部、渉外部、広報部など幅広い部署における共通の関心事だ。
海外情勢・政策が自社に及ぼすリスクを、現地事務所やシンクタンク経由の情報を分析することで事前に察知し、対応策を講じることは、グローバル化した市場環境において極めて重要なことだ。
未来を予測することは容易ではない。しかし、今後もシンクタンクや現地からのさまざまな情報を分析することで、日本企業の経営のお役に立ちたいと考えている。
[筆者略歴]
電通パブリックリレーションズ
関口 響(せきぐち ひびき)
コーポレートコミュニケーション戦略局パブリックアフェアーズ戦略部兼企業広報戦略研究所主任研究員。企業の広報戦略やパブリックアフェアーズ活動に関するコンサルティングを担当
(KyodoWeekly9月16日号から転載)