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米政権を支える頭脳集団 「シンクタンク」とは(上)

 米国のたび重なる制裁関税措置に対して、中国の激しい報復、高関税の応酬を招いた米中貿易摩擦。二つの経済大国間で築かれていたサプライチェーン(部品の調達・供給網)は揺るぎ、日本企業に大きな経済的影響を与えた。6月末の米中首脳会談で「一時休戦」に合意し、貿易協議の再開は決まったが、対立の構図は変わらず、先行きは楽観できない。

 

〝第5の権力〟

 

 こうした背景の中、米トランプ政権の次の動きを早期に予測し、日本企業に不利となる政策変更がある場合には、迅速に対応する必要性が高まっている。 注目すべきものが、米国の政策決定過程において重要な役割を担っている「シンクタンク」だ。公共政策の立案および社会課題の解決に向けた研究・提言を行うため、立法、行政、司法、メディアに続く“第5の権力”と呼ばれるほど、その存在感は大きい。

 たとえば米国の知的財産権を侵害しているとして、2018年に米国が中国を世界貿易機関(WTO)に提訴したが、この背景には米国最大のアジア研究を専門にしたシンクタンク「全米アジア研究所(NBR)」の提言があった。米政権がシンクタンクの声に耳を傾け、対中国政策を実行に移した例といえる。

 今回、2回にわたってお届けする本稿では、(上)で米政権を支えるシンクタンクの概要を紹介する。

 シンクタンクの定義はさまざまだが、ペンシルべニア大の定義では「政策立案者と一般市民が公共政策についてより良い意思決定を行うために、国内・国際問題の政策志向の調査・研究および助言を行うための機関であり、永続的な組織の形をとるもの」としている。

 米国では首都ワシントンだけで100以上、全米で1800以上の機関があり、著名な例でいえば、ブルッキングス研究所や戦略国際問題研究所(CSIS)、ヘリテージ財団などが挙げられる。

 いずれも長い歴史を持ち、資金規模・研究員数も大きい。米国シンクタンクは民主党系と共和党系に大別できるといわれているが、政府にひもづいてはいない。組織の独立性は高く、基本的に非営利を守る機関が多いのも特徴だ。

 

政策提言

 

 経済・貿易や安全保障、移民などさまざまな分野における研究・政策提言が行われており、米国の政府・政治家は、彼らの圧倒的な調査力・考察力・思考力を借りながら、世界の動向を把握し、自国に有利な政策活動に結びつけている。

 シンクタンクの主たる機能は政策提言だ。提言内容はさまざまな手法で発信されていく。たとえばブルッキングス研究所では連日、同研究所1階にあるセミナールームで討論会などが開催されている。またオン/オフラインで政策提言を定期発行しているシンクタンクも多い。

 さらに、議会議員に対して勉強会やニュースレターを通した情報提供も行っている。外交問題評議会(CFR)が定期刊行している外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」は、100年弱の歴史を持つ代表的な刊行物で、米国のオピニオンリーダーに長年大きな影響を与えている。

 

 人材の〝回転ドア〟

 

 また、ワシントンのシンクタンクは政府への人材輩出・受け入れ機関の役割を果たしている。米国は二大政党制ゆえ、政権移行が起きるたびに4千人規模の人材流動が生じる。そこでシンクタンクは、政府に政策研究員を供給するとともに、政府を去る政治任命者を受け入れる循環機能を持つ。

 この相互の人材の行き来は、通称〝回転ドア(Revolving Door)〟と呼ばれる。新政権にとっても、前政権で重要ポストの実務を担当していた元閣僚・元政府高官がシンクタンクにいることで、前政権の意向や経験を踏まえた助言を聞くことができる。

 たとえば7月、米シンクタンクのハドソン研究所はマクマスター前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を日本部長として迎え入れた。マクマスター氏は元陸軍中将で、トランプ政権の「国家安全保障戦略」の作成を主導した一人だ。

 まさにシンクタンクと政府人材の“回転ドア”を示す例だろう。つまり広い視野で捉えれば、政府高官とシンクタンクが連動して政策形成を担っており、政府と非政府のシンクタンク全体で、一つの政策コミュニティーを形成しているといえる。

 

大統領選とシンクタンク

 

 大統領選の準備期間にも、この構造は興味深く働く。政権入りを目指すシンクタンク研究員は、応援する候補が当選すれば政府高官に任命される可能性がおのずと高まることから、早くから有力候補に対して自らを積極的に売り込んでいく。

 実際、2008年にオバマ大統領が選出、政権入りした際、いくつかの要職は、ブルッキングス研究所出身者が就いている。

  ※  ※  ※  

 本稿(上)を通して米シンクタンクの概要をお届けした。次回(下)では、こうしたワシントンの特殊性を踏まえつつ、日本企業がどのように米シンクタンク発の対日政策情報を収集していくかについて、説明させていただきたい。

[筆者略歴]

電通パブリックリレーションズ

関口 響(せきぐち ひびき)

コーポレートコミュニケーション戦略局パブリックアフェアーズ戦略部兼企業広報戦略研究所主任研究員。企業の広報戦略やパブリックアフェアーズ活動に関するコンサルティングを担当

 

(KyodoWeekly9月2日号から転載)

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