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衆参同日選見送りの裏事情 2年後見据えた安倍氏の思惑

 

 与党が衆院で3分の2以上の議席を持ち、任期も2年以上残されているにもかかわらず、5月から6月にかけ、永田町では衆参同日選論がくすぶった。「8月4日は仏滅だから、投票日は7月28日だろう」などと、まことしやかにささやかれた。結果的に「参院選単独でも与党は勝てる」「老後2千万円報告書問題を抱えての同日選は危険」などの理由で衆院の解散は見送られたとされる。しかし、解散の選択肢が安倍晋三首相の「頭の片隅」から完全に“消去”されたのは、2年後の総裁4選のためだったのではないか。

 

模索された6月解散

 

 しばしば自民党で同日選論が唱えられるのは、1980年と86年の過去2回の選挙で自民党が大勝したことが影響している。参院選単独では支援組織はフル回転しにくく、無党派層にまで食い込めないが、同日選ではすさまじい相乗効果が発揮される。衆院の中選挙区制の時代であったとはいえ、今もこの「神話」が残っている。

 現在、報道機関の各社の内閣支持率は、45%前後の高水準で推移し、野党は自民党を脅かす存在ではない。だが、6年前の参院選で自民党が大勝した反動から、今夏の参院選では10議席近く減らす、との調査もあった。そのため、参院自民党を助け、また参院における改憲勢力を保つための同日選論が浮上したという。

 もっとも、安倍首相がこだわったのは、「解散の大義」だといわれている。確かに過去2回の衆院選では消費増税の先送りが「大義」とされ、自民党に大勝をもたらした。だが、アベノミクスの効果を疑問視する声はとりわけ地方で強いものの、「リーマン・ショック級の出来事」は起きておらず、その手は使えなくなった。

 外交も立派な「大義」になる。「拉致問題か日露交渉で進展があれば、解散に打って出るのではないか」(閣僚経験者)と見られてきた。しかし、「前提条件をつけない」と譲歩してみても、北朝鮮は安倍政権に扉を閉ざしたままであるし、ロシアもゼロ回答を続けている。

 そこで逆手に取られたのが、野党が〈季節の風物詩〉のように会期末に提出する内閣不信任案である。菅義偉官房長官は5月17日の記者会見で「野党が内閣不信任案を提出した場合、衆院解散の大義になり得る」と明言した。野党に揺さぶりをかける狙いもあったが、この発言により、同日選論の信ぴょう性は急速に高まった。

 逆に同日選論を一気に下火にしたのは、「老後2千万円報告書問題」である。これは金融庁の金融審議会のワーキング・グループがまとめたものにすぎないが「『100年安心の年金』は破綻している」(野党)との主張に結びつき、微風ながら安倍政権に逆風が吹き始めた。安倍首相の脳裏には、12年前の「消えた年金問題」がよみがえったに違いない。

 安倍首相の総裁としての任期は再来年9月までであり、衆院の任期はその10月までである。普通に考えれば、安倍首相は在任中に再び解散に踏み切らなくてもいいはずである。むしろ衆院選の賭けに出て負ければ、悲願の憲法改正が夢のまた夢になるだけでなく、自らの退陣を早めることになりかねない。

 しかし、安倍首相が在任中にもう一度、衆院選に挑むと見られているのは、安倍首相やその周辺が総裁4選、あるいは総裁任期の延長をもくろんでいるからである。もちろんその目的は在任記録の更新や権力の維持ではない。「総理の掲げる憲法改正や日露平和条約の締結には少なくとも3年はかかる」(党三役経験者)からである。

 

〝余韻〟は半年程度

 

 今回の同日選論の背景にも、こうした思惑があったと見てよい。もしもふがいない野党を横目に安倍首相が国政選挙での連勝記録を更新すれば、「安倍の次も安倍」「安倍総裁4選」との声が一時的に出はじめるかもしれない。

 だが、そうした声が党内の多数派を形成し、再来年の党大会での党則改正につながるわけではない。86年の同日選で自民党が大勝したことを受け、中曽根康弘首相(当時)の総裁任期は特例で1年延長されたが、そもそも同日選は総裁任期が満了するわずか約2カ月前に行われた。つまり、同日選、とりわけ衆院選大勝の余韻が強く残る中で、論功行賞として総裁任期延長の特例が認められ、すぐに党則が改正されたのである。

 しかし、もしも今回、同日選が行われ、仮に自民党が大勝したとしても、遠く1年半後の党大会まで安倍首相への感謝が持続するとは考えにくい。現在の永田町の住民たちに古き良き義理や人情を期待することは難しいのである。政治の世界における〝余韻〟はせいぜいで半年程度にすぎない。

 安倍首相にしても、「敵失」ではなく、何らかの成果と継続課題を高らかに掲げて衆院選を戦い、堂々と総裁4選の道を開きたいはずである。だが、外交にしても内政にしても、現在はそのような成果は見当たらない。そのため、「同日選の見送りは、安倍首相の先を読んだ合理的な選択だった」(中堅議員)との指摘は説得力を有する。

 今年6月19日に行われた党首討論で、安倍首相は「同日選は一貫して頭の片隅にもなかった」と言い切ったが、この言葉を信じる者は皆無に等しい。そもそも「総理大臣はカレンダーとにらめっこをしながら、いつも解散のことを考えている」(元首相秘書)ものである。今回、安倍首相やその周辺が同日選を有力な選択肢の一つとして検討してきたことは確かである。

 もっとも、過去には首相が解散を決断しながら、党内の反対で〈伝家の宝刀〉が抜けなかった例がある。だが、安倍首相の場合、自らの判断で同日選を見送ったのであって、解散権を封じ込められたわけではなかった。そのため、マスコミ各社は「同日選断念」との表現は使わなかったし、使えなかった。

 それどころか、解散風が吹きはじめても、自民党内でこれに真っ向から異議を唱える声は不思議なほど聞かれなかった。最近は政権への〈物言い〉で存在感を示している石破茂元幹事長でさえ、「もしも同日選をするのであれば、国民に理由を丁寧に説明すべきだ」と述べるにとどまった。

 

「誰も文句言えない」

 

 今回、同日選は見送られたが、首相周辺が打ち上げた観測気球によって明らかになったことがある。それは、自民党では依然として〈安倍1強〉の状況が盤石なことである。「今回の同日選論でも、官邸の求心力と支配力がいかに強いかが証明された。情けないことに、誰も文句を言えなかった」(若手議員)のである。

 安倍首相が大きな政治課題である憲法改正や日露平和条約の締結を実現したいのであれば、これからの2年以内に必ず衆院選が行われる。そして今回の同日選論に対する党内の「無抵抗ぶり」を見れば、内閣支持率が一定以上維持されている限り、安倍首相はいつでも解散権を行使することができるといえる。

 来る参院選を乗り切れば、安倍首相はさまざまな布石を打ってくるはずである。徐々に成果が示されることもあるかもしれない。そしてそれらの賛否や評価を決めるのは、他ならぬ国民であるが、現在進行形の参院選を見るかぎり、多くの国民は「政治的無関心」によって安倍内閣を後押ししているように見えなくもない。

(政治行政アナリスト 本田 雅俊)

 

 (KyodoWeekly7月15日号から転載)

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