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「陸海空の現場~農林水産」アメとムチとゴマスリと

 安倍晋三政権の農業政策には明確なサイクルがある。農業協同組合(JA)との対決も辞さない強硬な構造改革を進める「ムチ」の時期と、農村にやさしい「アメ」の時期だ。その転換点は常に国政選挙の前にある。

 今年も7月の参議院選挙を控えて、改革路線はすっかり後退した。「岩盤にドリルで穴を開ける」というような挑発的な発言は一切ない。選挙の争点となりそうな「食料・農業・農村基本計画」の策定に関する議論は先送りし、代わりに前面に出てきているのが農業土木事業など農村の有力者にとって甘い政策だ。

 根底にあるのは、いわゆる「1人区」対策だ。与党が大勝した前回2016年の参院選でさえ、岩手、山形、新潟、沖縄の4選挙区(無所属)と青森、宮城、福島、長野、山梨、三重、大分の7選挙区(民進党公認)で野党統一候補が勝利し、沖縄と福島では現職閣僚が落選した。影響力が低下したといわれる「農村票」だが、1人区では農業政策に対する批判票が当落の決め手になりうるのだ。

 安倍政権が苦い経験から学習し、痛みが伴う改革を避け、万全の選挙対策を打つのは当然だし、おそらく自民党以外の政党が政権を担っていても同じ事をやるだろう。「アメとムチ」の切り返しを「えげつない」と批判するか、「合理的」と受容するかは、有権者の判断だ。

 しかし、農業政策を理解するための第一級の資料である農業白書(食料・農業・農村の動向)まで選挙の影響を受けるとしたら残念なことだ。5月に閣議決定された18年度版は、白書の性格を端的に示す巻頭特集に「多発した自然災害からの復旧・復興」を置いた。

 昨年の自然災害による農林水産関係の被害額は5679億円に上り、東日本大震災のあった11年に次いで「過去10年で2番目に多かった」と強調し、「支援対策を迅速に決定」「復旧・復興は着実に進展」と評価した。台風や地震など7件の災害を一覧表にし、激甚災害指定に要した日数を赤い文字で記して「迅速」を強調するゴマスリぶりだ。

 対策としては「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化」の必要性を訴え、具体的には、ため池の改修、乳業施設の停電対策、農業用ハウスの補強などが紹介されている。もちろん、いずれも重要で、農家にとっては切実な課題だ。しかし白書に求められているのは、なぜ農業分野が災害に対して弱くなってしまったのかという根本に関わる問題提起だろう。

 来春には、農業政策の中期的な指針である「基本計画」の策定を控えている。今年はその議論を深める重要な時期であり、白書には前回15年に策定された基本計画の進捗(しんちょく)状況を点検できるような構成が期待された。国民と向き合わず、ひたすら政権の意をくむような白書は、信用を失っていくだろう。

農政ジャーナリスト

一ノ口 滴水(いちのくち てきすい)

 

(KyodoWeekly7月1日号から転載)

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