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「安倍氏の次も安倍氏」の現実味 流れを決する次期衆院選

 2月18日の衆院当選9回の同期会で林幹雄幹事長代理が「安倍4選」をぶち上げ、27日の講演で加藤勝信総務会長もその可能性に言及した。現行の党則では、自民党総裁は連続3期までしか務められず、安倍晋三首相の任期は再来年の9月までである。だが、統計不正問題が発覚しても、内閣支持率に陰りは見られない。そして「次の総理は誰か」と思いきや、早くも安倍首相の続投論が唱えられ始めたのである。「まさか」と疑う者もいるし、いくつものハードルが待ち構えるが、目を凝らせば周到な戦略が見えてくる。

 

 知事や市町村長が多選制限を嫌う一つの理由は、最後の任期に入ると影響力が著しく弱まるからである。後生大事とばかりに側近さえも〈次〉を見て、是々非々の立場に転じたりする。会社の社長も退任間近となれば、同様の境遇を味わう例が多い。

 だが、安倍首相の場合、総裁としての任期が残すところ2年半になるにもかかわらず、レームダック(死に体)の兆しは一向に見られない。周囲も首相の意向を〈忖度(そんたく)〉し続ける。野党は「統計不正は12年前の消えた年金問題の再来」とのろしを上げるが、依然として安定した内閣支持率が維持されている。

 安倍政権の基盤が安定している一因は、強固な保守層に守られていることである。たとえ国民全体の中では4割の支持率でも、保守層に限れば7、8割に跳ね上がる。

 この点ではトランプ米大統領の支持構造と酷似するが、日本ではリベラル勢力が著しく脆弱(ぜいじゃく)であるから、安倍首相の政権基盤の方がはるかに固い。

 麻生太郎副総理や菅義偉官房長官、二階俊博幹事長、甘利明選対委員長といった「チーム安倍」も健在で、強固な権力装置が補完されている。外されているのは石破茂元幹事長くらいで、自民党議員は多かれ少なかれ「全員野球」の一員としての役割が与えられている。

 中には「下がらない支持率はない。東京五輪が花道になるのではないか」(非主流派議員)といった希望的観測もあるが、決して多数ではない。のみならず、たとえ内心でそう思っていても、実際に言葉や行動に移す勇気を持っている議員は少ない。

 

錦の御旗

 

 6年前に政権に返り咲くと、安倍首相は大胆な金融政策と財政政策、成長戦略から成るアベノミクスを打ち出し、それは今も続いている。だが、首相の〈宿願〉は経済再生などではなく、「美しい国」「新しい国」をつくることに他ならない。

 一丁目一番地は何といっても憲法改正である。安倍首相は「何としても在任中に成し遂げたい」と意気込んできたが、「改憲4項目」を提案しても、国会での議論は始まってもいない。だから「安倍総理による改憲は無理ではないか」(中堅議員)との見方もある。

 ロシアとの平和条約締結にも、安倍首相は躍起になっている。プーチン大統領との会談はすでに25回を数え、6月の20カ国・地域(G20)首脳会合に合わせた来日も予定されている。だが、安倍首相は領土問題で大幅に譲歩しつつあっても、ロシア側の強硬姿勢は崩れていない。

 もう一つは、安倍首相が官房副長官時代から取り組んできた拉致問題の解決である。電撃的な米朝首脳会談の開催により、安倍首相はトランプ大統領を頼みの綱としているが、世界の嘲笑を浴びながらノーベル平和賞に推薦しても、まだまだ曙光(しょこう)は見えてこない。

 安倍首相の宿願はいずれも緒にも就いていない。しかし、いずれも安倍首相にしか取り組めない課題であるし、成就まで一定の年月を要する。憲法改正にしてもロシアとの平和条約締結にしても、少なくとも2、3年はかかる。

 だが、これらを〈錦の御旗〉として高らかに掲げ、解決に向けて懸命に取り組む姿勢を見せ続ける限り、自民党議員が正面切って「安倍おろし」に乗り出すのは難しい。宿願のハードルが高いからこそ、安倍首相のレームダック化が始まらないともいえる。

 

後継者不在

 

 首相を数年も務めれば、通常は有力な後継候補が浮上する。首相みずから後継者を育てる場合もある。中曽根康弘首相(当時)は安倍晋太郎、竹下登、宮沢喜一の各氏を後継候補として競わせたし、小泉純一郎首相(当時)は若い安倍晋三氏に経験を積ませた。

 しかし、安倍首相は加藤総務会長や河野太郎外相、稲田朋美元防衛相らを表舞台に引き上げることはあっても、後継候補として育てている者は、まだ見当たらない。リップサービスで岸田文雄政調会長を持ち上げるが、幹事長ポストは目の前にぶら下げたままである。

 本来、財務相や官房長官、幹事長などのポストは総理の座から至近の距離にある。しかし、現政権での顔ぶれを見れば、安倍首相の後継候補にはなり得ない。菅官房長官に野心があると見る者もいるが、「本人にその気持ちはまったくない」(菅氏周辺)。

 安倍首相の思惑とは裏腹に、虎視眈々(たんたん)と〈次〉を狙うのは石破元幹事長である。昨年9月の総裁選でも党員票の45%を獲得して善戦した。だが、永田町で石破氏への支持が広がらないだけでなく、今や完全に政権から干されている。あと2年もすれば、干物になりかねない。

 

人気は絶大だが…

 

 本人が何ら口にしなくても、世論調査で必ず上位に登場するのが小泉進次郎氏である。国民的な人気は絶大で、行く先々は黒山の人だかりとなる。しかし、安倍首相が小泉氏を抜擢する動きはまだないし、当の小泉氏も、もう少し先を見ている。

 有力な後継候補が見当たらず、また育てないことによっても、「安倍1強」の政治状況がつくり上げられている。安倍内閣を支持する理由で群を抜いて多いのが「他の内閣よりも良さそう」となるのも無理はない。

 

絶対条件

 

 もともと党則の改正で総裁3選が可能になったのはわずか2年前のことで、安倍首相の続投のために行われた。だから「ロシアや中国であるまいし、特定の者のために再び制度を変えるのはいかがなものか」(閣僚経験者)との批判もある。

 しかし、安倍首相による懸案解決が進行形で、なおかつ有力な後継候補が浮上しなければ、続投を求める声が出てきて当然である。

 林幹事長代理や加藤総務会長が「4選もあり得る」と言い出しても、党内で真っ向から否定する声は聞こえてこない。

 「安倍4選」の条件を来る参院選での勝利だという者もいるが、それだけでは十分でない。衆院の任期と安倍首相の総裁としての任期は再来年のほぼ同じ時期に満了となる。つまり「もう一度衆院選で大勝することが絶対条件」(三役経験者)なのである。

 安倍首相は「解散は頭の片隅にもない」と言ってのけているが、永田町では「首相は解散と公定歩合についてはうそをついてもいい」が共通認識で、首相の言葉を額面通りに受け取る者はいない。石破元幹事長も「片隅ではなく、真ん中にあるのではないか」と皮肉る。

 

既定路線?

 

 思い出されるのは、中曽根首相による1986年の衆参同日選である。

 解散のそぶりさえ見せなかったことから「死んだふり解散」と名づけられたが、この同日選で自民党が大勝し、中曽根首相の総裁任期は特例で1年延長された。

 すでに自民党内には「両院で改憲勢力が3分の2を維持するには同日選しかない。改元が大義名分になるのではないか」(若手議員)と想定し、衆院選の準備を進めている者もいる。

 逆にこのタイミングを逃せば、安倍首相のレームダック化が始まりかねない。

 もちろん4選への道のりは平たんでない。だが、虎穴に入って虎児を得られれば、4選は現実味を帯びる。1年程度の任期延長、あるいは一時的に総理と総裁を別々の者が務める〈総総分離〉もあり得る。次期衆院選の結果次第で「安倍氏の次も安倍氏」は既定路線になるかもしれない。

(政治アナリスト 楠 拳太郎)

 

(KyodoWeekly3月11日号から転載) 


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