「特集」外部専門家管理 新築マンションで増加 元々は「老老」対策 長短所十分見極めを
新築マンションを探している時に「仕事や家事で忙しい毎日だから、休日は気兼ねなくのんびり過ごしたい。その思いをかなえるマンションです」と言われたら、どう思うだろう?「管理を外部専門家へ委託して、管理組合の業務から解放されるマンションです」という言い方もある。
「のんびり過ごせる」「解放される」といった耳に心地よい言葉から、とても良いマンションと思うかもしれない。実態は、当初から管理組合の理事会を置かずに、管理会社が丸ごと管理を行うマンションなのだ。
二つの老い対策から誕生
マンションの管理組合は、区分所有者が必ず加入することになっている。当事者として自分たちのマンションを管理するために、毎年「総会」を開いて重要事項を決めていく。そのための実行役として組織するのが「理事会」で、理事長は「管理者」として管理組合を代表する立場になる。
ところが、近年、「マンションの二つの老い」の問題が顕在化している。マンションの「高経年化」により、解決すべき管理の課題が増えて判断が高度化する一方で、区分所有者の「高年齢化」により、理事会の担い手不足に悩まされている。管理組合が機能不全に陥ることを回避するために、国土交通省は、監事や理事長などの役職を外部の専門家に委託する方法などを検討し、2016年に「マンション標準管理規約」の改正などを行ったうえで、17年に「外部専門家の活用ガイドライン」を策定した。
外部管理3パターン
国土交通省が想定した外部管理の方法は、次の3パターンだ。
1.理事会役員外部専門家型(理事会あり)
理事会の役員のうち、監事や理事長などいずれかの役職に、外部の専門家が就任するパターン。専門知識を有する専門家が理事会に入ることで、高度な判断がしやすくなる。外部専門家が理事長に就任する場合は管理者となる。
2.外部管理者理事会監督型(理事会あり)
理事会の組織は継続するが、外部の専門家が管理者に就任するパターン。その外部専門家が管理組合の代表となり、それを理事会が監視する。
3.外部管理者総会監督型(理事会なし)
外部の専門家が管理者に就任し、理事会は設けないパターン。理事会がないため、区分所有者から「監事」を選出して外部専門家を監視したり、管理組合総会が監視したりする。監査法人などの外部監査を行う必要もある。
想定外の外部専門家
国土交通省は、17年に「外部専門家の活用ガイドライン」を策定していたが、24年6月になって、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を策定した。その理由は、国土交通省が想定していなかった実態が浮き彫りになったからだ。新築マンションの分譲時に、分譲会社の系列の管理会社が管理を丸抱えで受託し、理事会を設けない「外部管理者方式」の事例が増えたのだ。
実は、当初、国土交通省が想定していた「外部専門家」とは、マンション管理士や弁護士などで、管理組合からマンションの管理業務を受託している管理会社は想定外だった。
というのも、管理組合と管理会社は利益相反の関係にある。管理会社は自社の収益を増やしたいし、管理組合は支出を抑えたいはずだ。加えて、管理会社と管理組合では、その専門知識の情報量に大きな差がある。そのために、管理組合側にマンション管理士などの外部専門家を入れることで、管理組合側の負担を軽減することと併せて、専門知識の面で管理会社と対等な関係を築くという考え方だった。
管理会社という新たな外部専門家に対応するために、国土交通省では、23年に「外部専門家等の活用のあり方に関するワーキンググループ」を設置し、実態の把握と課題の解決に乗り出した。
管理組合に不利な内容も
ワーキンググループが23年9月に管理会社に対して行った「第三者管理者方式に関する実態調査」では、管理会社が管理組合の管理者になっているという回答が35%に達した。その場合、管理事務を行う部署と管理者として業務を行う部署が同一の部署という回答は60%(同一部署で責任者も同じ42%+同一部署だが責任者は異なる18%)もあった。
さらに、公益財団法人マンション管理センターが把握している新築分譲マンションの「管理規約」を調べたところ、管理規約に管理者として管理会社の企業名が記載されていたり、管理者の任期を定めなかったり、管理者による利益相反取引を防止する規程がなかったりする事例が多いことが分かった。
こうした管理規約になっていると、管理組合が管理会社から管理者を変えようとした時に、過半数ではなく、4分の3以上の賛成が必要となる「特別決議」によって、管理規約そのものの改正をしなければならない。管理者を変えるハードルが高くなることは、管理組合に不利になる。こうした実態を考慮して、管理会社が外部専門家となる場合に適切なルールに基づいて行われるように、ガイドラインを策定することになったわけだ。
管理会社=管理者のルール
新たに策定された「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」では、まず、外部管理者方式の中でも、管理会社が外部管理者になる場合を「管理業者管理者方式」と呼んでいる。この場合のガイドラインとして、次のようなものがある。
■「管理業者管理者方式」の場合のガイドラインの一例
・通常の管理業務を受託する場合(管理業務)と管理組合の管理者に就任する場合(管理者業務)で、それぞれ委託契約書を分ける。
・管理者の権限を管理者業務の委託契約書で明確にすることが望ましい。
・管理業務と管理者の担当者をそれぞれ分ける。
・管理者の任期は原則1年程度とする(毎年開催する総会で継続・不再任などの決議を行う)ことが望ましい。
・管理規約には、管理者として管理会社などの固有名詞を記載しないことが望ましい。
・利益相反を防止するために、総会で承認を得た金額以上の支出や関連企業との取引については、総会で承認を得る。
加えて、新築マンションの場合は、マンションを購入した後で管理業者管理者方式だと分かっても遅いので、検討している期間に、指定の情報提供項目について詳しい説明をすることを求めている。
国土交通省「管理業者が管理者となる管理形態の現状等について」より
メリットとデメリット
ここで、管理会社が外部専門家として管理者になる場合のメリットとデメリットを整理してみよう。
■管理会社が理事会のない管理者となる場合のメリット
・区分所有者の負担を軽減できる。
・一定レベルの管理組合運営が期待できる。
■管理会社が理事会のない管理者となる場合のデメリット
・費用がかかる。
・利益相反行為のリスクがある。
・管理組合の運営ノウハウが蓄積しづらい。
・管理方式などを変更しづらい。
既存の二つの老いを課題とするマンションの場合と、新築の分譲マンションの場合では、そのメリットとデメリットの比重も異なるだろう。理事会の担い手不足に悩むマンションには、実績のある管理会社が管理者を代行してくれることのメリットは大きい。それまでに理事会を担ったり総会を繰り返したりした経験があるので、管理組合が管理会社を監視する機能も期待しやすい。
一方、新築マンションの場合は、区分所有者もマンションもまだ老いてはいない。築後10年以内であれば、管理に関する高度な判断を要する事項も少ない。この間に、区分所有者の多くが理事会を経験することで、運営ノウハウが蓄積することにつながる。しかし、いきなり「総会」のみで判断を求められることになるので、管理に関する知識やノウハウが蓄積されないというデメリットの比重が大きくなる可能性もある。
とはいえ、共働きが当たり前になり、〝タイパ〟が重視される時代になったいま、新築分譲時の宣伝文句の根底にあるように、「理事会の役員から解放される状況はとても良い」のかもしれない。
管理会社に望むこと
筆者が気になっているのは、管理会社が既存のマンションで「管理業者管理者方式」の導入を図ることよりも、新築マンションで積極的にこれを採用していることだ。新築ならば、売主の判断で簡単に導入することができる。系列の管理会社にとっては、管理組合の理事会に頻繁に出席することもなく、機動的に運営ができるので効率的だ。その上、管理者業務についての収益が見込める。こうしたさまざまなメリットがあるから推し進めているのだろう。
かたや新築マンションを購入する人たちは、予算や立地、間取りなどの条件が優先されて、加入することになる管理組合の管理方式について深く考えることなく、購入を決めてしまうということになるだろう。
もっと気になるのは、多額の費用が使われる大規模修繕工事だ。ガイドラインでは、「修繕委員会を主体として検討するのが望ましく、修繕委員会は、複数の区分所有者及び監事から構成することが望ましい」としている。しかし、管理会社にお任せで、管理の知識やノウハウが十分ではない区分所有者が、積極的に修繕委員会に応募するかには疑問が残る。
こうしたことから、「管理業者管理者方式」を採用する新築マンションには、管理会社が区分所有者に対して、さまざまな手当てをすることを期待する。まずは、コミュニティー形成のための仕組みの構築だ。次に、管理に関する十分な情報の提供。ほかにも、決定経緯の公開や区分所有者が管理に関する疑問や意見を言える場づくりなど。
筆者が管理会社に期待することは以下である。
・区分所有者の意見が吸い上げられる仕組み
・疑問を持った時に情報が公開される仕組み
・管理の決定事項をどういった基準で決めたか分かる仕組み
・当事者意識が醸成される仕組みーなど
一方、「管理業者管理者方式」のマンションの区分所有者には、ガイドラインに即しているかチェックすることを望みたい。管理者を変更するハードルは意外と高い。軽く考えていたが、こんなことだと思っていなかったということのないようにしてほしい。
早稲田大学卒業。リクルートにて、住宅情報誌の編集マネージャーを経て現職。住宅メディアへの執筆やセミナーなどの講演を行う。現在、「SUUMOジャーナル」「東洋経済オンライン」「Yahoo!ニュース」などのサイトで連載中。宅地建物取引士、マンション管理士、ファイナンシャルプランナーのほか日本不動産ジャーナリスト会議理事。
(Kyodo Weekly 2024年12月2日号より転載)