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「特集」 ラニーニャ現象 猛暑・大雨リスク 企業活動に影響 気象予測の活用を

小越久美
​日本気象協会

地球沸騰化の時代到来

 地球温暖化による気温上昇が進んでいる。昨年2023年は、世界の年平均気温が統計開始以降最も高い年となった。夏も記録的な暑さとなり、人々の健康、作物の生育、経済活動など広範囲に影響を与えた。23年7月27日には、その月の世界の月間平均気温が過去最高を更新する見通しとなったことを受け、国連のアントニオ・グテレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警告した。

 パリ協定では、世界の平均気温の上昇を、産業革命以前(1850~1900年)に比べて、できる限り1・5度に抑えるという目標が示されている。昨年はそれに迫る1・45度上昇を記録した。

 世界気象機関(WMO)によれば、2028年までの5年間に、少なくとも1年は1・5度上昇する可能性が高いとされている。こうした気温上昇は、大雨や干ばつなどの極端な天候の要因にもなっており、今後も気候変動による私たちの生活や企業活動への影響はより大きくなると予想される。

昨年夏に匹敵する暑さも

 地球温暖化と今年春まで続いたエルニーニョ現象の影響により、地球の大気はかつてないほどの高温となっている。今年の夏も、太平洋高気圧が強まれば、昨年夏に匹敵する猛暑になるリスクがある。

 今年の夏はエルニーニョ現象からラニーニャ現象への過渡期にあたる夏となる見通しだ。その特徴として、今年の夏は日本の南海上を中心に太平洋高気圧の勢力が強いため、高気圧の縁辺を回る水蒸気が日本列島に流れ込みやすく、気温が上昇しやすいとともに大雨リスクが高い。

 夏の終わりから秋にかけては、ラニーニャ現象への移行に伴って西部太平洋熱帯域の対流活動が活発になるため、台風が発生しやすくなる。台風が接近するリスクも高まるため、警戒が必要だ。
 この夏の暑さや雨によって影響を受ける商品や消費活動を見ていきたい。

影響を受ける商品数々

 夏に気温が上がると売り上げが伸びる主な商品は次の通り。アイスクリーム、液体茶、ビール、スポーツドリンク、殺虫剤、日焼け止め、炭酸飲料、果汁飲料、ミネラルウオーター類、栄養ドリンク、制汗剤、乾麺など(※)。今年の夏も昨年の夏と同様、こうした商品の売り上げが大きく伸びる可能性が高い。
 夏に気温が上がると売り上げが落ちる商品は、チョコレート、カップインスタント麺、菓子パン・調理パン、スナック、米、ビスケット・クラッカー、煎餅・あられ、日本酒、食パンなど(※)。これらの商品は例年、梅雨入りして蒸し暑くなると売り上げが落ちる。8月のお盆を過ぎるころから売り上げが戻って伸び始めるが、今年は厳しい残暑が予想されるため、立ち上がりが遅れそうだ。

事前の予測と準備重要

 雨の日は家庭で過ごす時間が増えるため、保存ができる食材や、料理の材料などの売り上げが伸びる傾向にある。例として、インスタント麺、プレミックス(ホットケーキミックス粉など)、パスタソース、パン粉、唐揚げ粉、ソースなど(※)。大雨に備えた保存食という需要もあるのかもしれない。
 大雨リスクが高い今年の夏は、これらの商品の需要が伸びる可能性がある。需要量の増加による在庫不足や大雨による物流影響が懸念されることもあるため、事前の予測と準備が重要となるだろう。
 ※調査会社「インテージ」が収集した小売店販売データより日本気象協会が解析

消費行動を変える気温

 日本気象協会では、店舗業種別のクレジットカード消費の統計データ(東京エリア、2019~23年、特定の個人・加盟店を識別できないように統計加工した情報)をもとに、日々の気象状況が消費に与える影響を業種ごとに分析した。

平均気温が1度上昇したときの1日の消費金額の変化量(東京エリア、7〜9月、同時期の平均的な日消費金額に対する割合)

 基本的に第3四半期(7~9月)は、気温が高いほど消費行動は活発になる。猛暑によって消費が伸びやすい業種は、飲食、ショッピングセンター、エンタメ(遊園地、カラオケ、映画館)、車両関連(レンタカー)、高速道路、宿泊施設などがある。

 飲食店の中では、うなぎや焼き肉などのスタミナ料理や東南アジア料理、ビアホールや焼き鳥店が、特に気温の上昇による効果が高い。晴れる日ほど気温が上がる傾向があるため、遊園地などの屋外施設は、晴れることにより消費が増加すると考えられる。

 長期間の暑さが予想される今年の夏は、これら業種の消費が伸びるだろう。

 一方、スーパーは気温が上昇すると消費金額が減る結果となった。一般的に、スーパーでは最高気温が30度を超えると昼間の来店客数が減る傾向があり、暑さによる外出控えが影響している可能性がある。衣料もわずかながら気温が高いほど消費金額が減る傾向にあり、要因として秋物需要の遅れが考えられる。これらの業種では、今年の夏の猛暑の影響で消費が減る可能性がある。

雨で客足鈍る業種は?

 同様に、店舗業種別のクレジットカード消費の統計データから、降水量による消費活動の変化を見ていく。

降水量が10ミリ増加したときの1日の消費金額の変化量(東京エリア、7〜9月、同時期の平均的な日消費金額に対する割合)

 年間を通してほとんどの業種が降水に影響される。第3四半期に雨によって特に消費が落ち込みやすい業種は衣料、家具・ホームセンター、百貨店、スーパーなどがある。雨の日に消費が落ち込みやすいということはすなわち、雨が降らなければ消費が伸びる業種となる。今夏は猛暑となる一方で、大雨リスクも高いことから、消費の変動が大きくなる可能性がある。百貨店、スーパーなどでは雨により客足が左右されやすく、家具・ホームセンターは、DIYなどを中心に雨の影響で消費が落ち込むことも考えられる。

最長2年先まで予測も

 日本気象協会では、独自の技術で細かく精度の高い気象予測および商品の需要予測を開発し、企業のビジネスを支援するコンサルティングを行っている。ただ、最初からすべてがうまくいったわけではない。実際に予報データを受け取っても、どのように業務に生かしたらよいか分からない、という声は多かった。いまでも同じである。

 こうした第一関門を突破するために最初に実施しているのが、企業のビジネスに気象がどのような影響を与えているかを分析することだ。そのうえで予報データをどのように加工して提供したら業務改善につながるかを企業と議論を重ねる。気象は重要なファクターであるが、課題のすべてではないのだ。

 ニーズに応じて新しい情報の開発も行っている。今年6月に提供を開始したのが、最長2年先までの長期気象予測だ。実はこれまで、日本気象協会が提供してきた長期の気象予測は、最長6カ月先までであった。理由は、精度に技術的な限界があったことと、国の予報業務許可制度で認められていた予報の期間は6カ月先までだったからだ。しかしながら、製造業における生産計画は半年から1年以上前に行われており、実際には天候により需要が大きく左右されるため、廃棄ロスや機会ロスが生じやすく、1年以上先の気象予測のニーズが高かった。

 日本気象協会では2019年より、筑波大学生命環境系・植田宏昭教授の助言・協力のもと、長期気象予測の精度向上と予報期間の延長を可能にする技術の開発に取り組んできた。この開発に一定の成果が出たこと、さらに、昨年秋に予報業務許可制度が改正され気象庁から認可を受けたことから、最長2年先までの長期気象予測サービスを企業に向けて提供することが可能となったのだ。予測期間が2年先まで延びることで、翌年度の計画策定や資材発注、CM計画、新商品の開発といった重要なビジネスシーンにおいて、根拠ある意思決定を支援することが可能となる。2年先長期気象予測のイメージ ※10年平均値からの差を表す

ビジネス向け予報アプリ

 これまで、気象データの活用にはビジネスデータや予報データの授受や専門的な解析、ある程度の費用コストが必要となっていた。日本気象協会では、より幅広く、多くのユーザーに手軽に気象データを活用してもらうため、ビジネス向け天気予報アプリ「biz tenki」の提供を開始した。「biz tenki」は、これまでの気象コンサルティングよりもリーズナブルな価格でビジネス向けの気象データを活用することができる。

ビジネス向け天気予報アプリ「biz tenki」画面イメージ

 アプリの主な特徴は、①30日先までの天気予報で長期の計画が立てられる ②天気予報と併せて前年の天気や気温実績が比較でき、前年の売り上げ実績などと照らし合わせて具体的な計画が立てられる ③一般的な天気予報では把握できない大雨確率、暴風確率、降雪確率が2週間先まで確認でき、余裕をもったリスク管理ができる ④ビジネスに役立つチャンスやリスクのコメントが表示され、今後どのような行動や対応をすればよいのかという意思決定に活用できるーの4点が挙げられる。

 ビジネスに気象を活用したいと考えている意思決定者には、まず「biz tenki」から、気象データの活用を考えていってもらいたい。

 極端気象に加え、資材の高騰や人手不足などさまざまな社会問題が深刻化する中、気象は唯一「物理学的に未来を予測することができる」要素である。気象と自身のビジネスの関係を知り、気象予測をうまく活用することで、リスクはチャンスに変えられる。

日本気象協会 小越 久美​(おこし・くみ) 1978年生まれ、岐阜県出身。筑波大学第一学群自然学類地球科学専攻(気候学・気象学)卒業。気象予報士として2004〜13年、日本テレビ「日テレNEWS24」で気象キャスター。現在は日本気象協会の商品需要予測事業で、食品、日用品、アパレルなどのマーケティング向け解析や商品の需要を予測するなど、さまざまな企業の課題を解決するコンサルティングを行っている。

(Kyodo Weekly 2024年7月8日号より転載)

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