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「特集」 外国人労働者 受け入れ政策転換 確保と育成が目的 共生社会の実現を

佐野 孝治
福島大学理事・副学長

技能実習制度を廃止

 外国人労働者の技能実習に代わり、新たに「育成就労」制度を設ける改正出入国管理法などが6月14日に参議院本会議で可決・成立した(写真)。技能実習制度は、国際貢献という目的と労働力の確保という実態の乖離(かいり)がかねてより指摘されており、失踪が相次ぐなど深刻な社会問題を引き起こしてきた。これに代わって、人材確保および人材育成を目的とする「育成就労」制度が新設されたことは大きな前進である。また、2019年に新設された「特定技能」(1号、2号)と合わせて、キャリアアップの道筋を明確化することにより、長期間産業を支える人材を確保するための基本的な枠組みが整ったといえる。

実は「選ばれない国」

 今回の制度改正の背景として、日本の少子高齢化の中で、短期的・中期的・長期的に労働力不足が深刻化していること、国際的な外国人労働者獲得競争が激化する中で日本の魅力が失われていること、技能実習制度の問題が深刻になっていることなどが挙げられる。 

 まず、日本の総人口は23年の1億2430万人から65年には8808万人に減少し、生産年齢人口も、7396万人(割合59・5%)から4529万人(51・4%)に減少すると推計されている。特に、「消滅可能性都市」が危惧されている地方では極めて深刻な状態にある。これを女性や高齢者、技術革新で補うのは困難であり、外国人労働者の受け入れは必要不可欠である。

 2023年10月現在、日本の外国人労働者は204・9万人であり、10年間で2・9倍に増加し、就業者数に占める割合は3%である。在留資格別では、技能実習41・3万人、特定技能1号20・8万人である。特定技能1号については、3月に自動車運送業など4分野を追加して16分野にするとともに、5年間の受け入れ上限を82万人に拡大した。このように増加傾向にあるが、国際協力機構(JICA)によれば、40年に経済成長の目標を達成するためには、外国人労働者が674万人必要だが、供給ポテンシャルは632万人で、42万人が不足すると予測している。

 第二に、国際的な外国人労働者獲得競争が激化する中で日本の魅力が失われている。特に、高度外国人材からは「選ばれない国」になっている。スイスの国際経営開発研究所によれば、23年の日本の「働く国としての魅力」は、対象64カ国のうち54位であり、シンガポールの6位、香港の23位はもとより、中国(39位)、韓国(47位)の後塵(こうじん)を拝している。政府は高度人材ポイント制を導入しているが、高度外国人材の在留者数は22年末で1万8315人と他国と比べて低水準である。

 また、1ドル=157円台(6月14日現在)まで急速に円安が進んだことで、米ドル換算の賃金は10年前から約4割減少し、経済協力開発機構(OECD)によると、22年の平均賃金は38カ国中25位である。競合する韓国の平均月給(23年)と比較すると、日本の技能実習21・7万円、特定技能23・5万円に対し、韓国(製造業)は28・5万円と上回っている。同様に、韓国の全国一律の最低賃金(24年)は9860ウォン(1122円)であり、日本の全国平均時給額1004円はもとより、東京都の1113円をも上回っている。日本では、東北、九州など900円を下回る地域が多くあり、外国人労働者が日本の地方よりも韓国の地方を選択する一因となっている。さらに韓国は一般雇用許可制の新規受け入れ上限を6万人程度に抑制してきたが、23年に12万人、24年は16・5万人へと急拡大させており、今後、人材獲得競争は激化していくものと思われる。

 アジア地域の外国人労働者からみて、日本は、韓国・台湾などと並ぶ選択肢の一つにすぎず、他にも中東、欧州など多様である。22年の送り出し国の移動先における日本の順位をみると、ベトナムでは台湾に次いで2位、インドネシアでは台湾、韓国などに次いで5位、中国では8位、フィリピンでは10位、ネパールでは7位、ミャンマーでは4位となっている。ベトナム、中国、フィリピンなどとは、まだ経済格差があるとはいえ、既に中国の技能実習生は大幅に減少しており、今後、より所得の低いネパール、ミャンマーなどに労働力を求めても中長期的に限界がある。 

 第三に、30年近く続いてきた技能実習制度は、目的と実態の乖離、労働者としての不十分な権利保護、不適正な送り出し・受け入れ、失踪など多くの問題を抱え、国内外から批判を受けてきた。この間、16年には技能実習法が成立し、「外国人技能実習機構」が設立されるなど、改善の方向に進んできたが、毎年7割に当たる事業場で労働基準関連法令違反が起きており、米国務省「人身取引年次報告書」でも、07年から継続して「人身取引」と批判されてきた。

ブローカーを排除

 今回の抜本的改正により、技能移転による「国際貢献」を目的とする技能実習制度から育成就労制度に代わったことで、人材確保および人材育成が目的とされ、実態とのズレが解消された。受け入れ対象分野を特定産業分野と一致させ、3年間の就労期間を通じ、特定技能1号水準の人材を育成する。その後、通算5年上限の特定技能1号、在留期間に上限がない特定技能2号へと続くキャリアアップの道筋が明確化した。

 次に、技能実習では3年間、原則転籍を認めておらず、劣悪な労働環境などに耐えられず、22年には失踪者は9006人に達していた。これに対し、新制度は一定の要件を満たせば同一業務区分内での本人意向の転職が認められる。要件として、同一機関での1~2年間の就労、技能検定、一定水準以上の日本語能力などが課せられているが、労働者としての権利保護としては一歩前進したといえる。 続いて、技能実習制度では、不適正な受け入れ機関や監理団体による人権侵害や送り出し機関による高額な手数料徴収、悪質なブローカーなどが存在していた。これに対し、新制度では、監理団体の名称を「監理支援機関」に変更し、許可基準などを適正化・厳格化する。また外部監査人の設置を義務づけ、中立性や独立性の確保をめざす。2国間取り決め(MOC)作成国のみから受け入れ、悪質な送り出し機関を排除し、送り出し手数料の透明化などにより負担を軽減する。さらに、外国人技能実習機構を「外国人育成就労機構」に改組し、特定技能外国人への相談援助業務も行わせ、支援・保護機能を強化する。転籍仲介については、ハローワークや監理支援機関などに限定し、民間の仲介業者は認めず、不法就労助長罪の法定刑も引き上げ、ブローカーを排除する。

移民統合政策へ転換を

 以上のように、技能実習の問題点の多くを改善した制度といえるが、人材獲得競争の中で、「選ばれ続ける国」になるためには課題も残っている。そこで、これまで日本と韓国の外国人労働者受け入れ政策を研究してきた立場から、いくつか提言を行いたい。 

 第一に、実効性のある監督体制と支援システムの構築である。育成就労制度では関係機関の適正化を図っている点は評価できるが、これまでも幾度となく監理機関の適正化が行われてきたにもかかわらず、実態は改善していない。「看板の掛け替え」に終わらせないためにも、今後、罰則規定の強化と専門的スタッフの増員による実効的な監視体制を構築するとともに、日本語教育、生活支援、社会保障などについて、国、地方自治体、NPOなどによる財政的・人的裏付けのある支援システムを構築すべきである。

 第二に、政府主導型の一貫した受け入れ制度の構築である。韓国では、雇用労働部が主管して、韓国語教育から、マッチング、帰国までの全プロセスを運営している。韓国でも、不法滞在、悪質な仲介業者を完全に排除できていないとはいえ、プロセスの透明化と不正の減少、さらに労働者の求職コスト、事業主の求人・管理コストの削減にもつながっており、国際労働機関(ILO)、世界銀行などから優れたシステムとして評価されている。日本も、長期的には透明性が高く、低コストの入国から帰国までのシームレスな「グローバル・ハローワーク」を構築すべきである。 

 第三に、多文化共生を基本に置いた持続可能な移民統合政策への転換が必要である。外国人労働者は、単なる労働力ではなく、人間である。19年以降、「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」などが策定され、外国人在留支援センターなどが整備された。しかし、移民統合政策指数(MIPEX2020)では、労働市場、家族呼び寄せ、教育、政治参加、永住、国籍取得、反差別、保健の8分野を総合した評価は52カ国中、日本は35位(47点)であり「統合なき受け入れ」グループに属している。

 これに対し、韓国は19位(56点)に位置し、移民庁の検討など移民活性化政策を進め、24年から、政府指定の「人口減少地域」に住み、5年間働くと、永住許可を申請できる在留資格「地域特化型ビザ」を開始している。

 日本では、特定技能2号は家族を帯同でき将来は永住権も申請できるが、高度な技能水準が要件となっており、わずか37人にすぎない。また国会審議で争点となったように、税や社会保険料の納付を故意に怠った場合は永住許可を取り消せるようになり、まだ短期ローテーション制度の域を脱していない。

 今後、日本が長期的な生産年齢人口の減少と外国人労働者獲得競争時代の中で、経済成長を持続させ、外国人と共生できる社会を実現するために、外国人労働者政策だけでなく、移民統合政策の本格的な検討が求められる。

福島大学理事・副学長 佐野 孝治(さの・こうじ) 1963年福井県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。同大学経済学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学経済学部研究助手、福島大学経済学部助教授などを経て福島大学経済経営学類教授に就任。2022年から理事・副学長も務める。専門はアジア経済、開発経済学、外国人労働者研究。主な著書は「外国人労働者と支援システム 日本・韓国・台湾」(八朔社)。

(Kyodo Weekly 2024年6月24日号より転載)

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