3月の映画

 ★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

Ⓒ2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & Ⓒ DC

「THE BATMAN ザ・バットマン」(3月11日公開)★★

「ジョーカー」の影響を受けた新バットマン

 ミステリアスな青年ブルース・ウェイン(ロバート・パティンソン)が、殺害された両親の復讐(ふくしゅう)を誓い、悪と敵対する存在“バットマン”となって2年が過ぎた。

 ある日、権力者が標的となった連続殺人事件が発生。その犯人は、史上最狂の知能犯を名乗るリドラー(ポール・ダノ)だった。 彼は犯行の際、必ず“なぞなぞ”を残し、警察やブルースを挑発する。

 DCユニバースの“新たなバットマン”で、監督はリブート(再起動)版「猿の惑星」のマット・リーブス。この映画も、ある意味リブート版だ。今回は、探偵としてのブルースをクローズアップし、フィルムノワールの雰囲気を漂わせながら、謎解きを展開させる。また、刑事(ジェフリー・ライト)とのバディ物としての要素もある。キーワードは「うそ」と「復讐」だ。

 ただ、全体的に暗過ぎて、見ていて全く気が晴れない。しかも3時間は長過ぎる。いろいろな意味で、「ジョーカー」(2019)の影響が大きいと感じた。

 

ⒸBoo Productions and Lava Films Ⓒ Bartosz Swiniarski

林檎(りんご)とポラロイド」(11日公開)★★★

知的好奇心を刺激される不条理映画

 自分の部屋を出てバスに乗った男が眠り込み、目が覚めると「りんごが好き」ということ以外の記憶を失っていた。実は、世界中で記憶喪失を引き起こす奇病がまん延し、患者への治療法として、医師が出す指示を実行し、それを行った証拠としてポラロイドカメラで撮影するという回復プログラムが行われていた。

 ところが、男に出された指示は、「自転車に乗る」「ホラー映画を見る」といった何の脈略もないものだった。

 寡黙な男が与えられた指示を淡々とこなしていくさまから、そこはかとないユーモアともの悲しさが感じられる。ギリシャ人監督クリストス・ニクによる、何とも不条理な映画なのだが、言葉にはできない不思議な魅力がある。

 男は本当に記憶喪失だったのか? そもそも記憶とは何なのか、などと考えさせられるラストシーンも含めて、もやもやとした思いが残るのは否めないが、たまにはこういう映画から知的好奇心を刺激されるのも悪くないと思った。

 

Ⓒ2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

「ガンパウダー・ミルクシェイク」(18日公開)★★

過激なバイオレンスシーンは必要なのか?

 ネオンきらめくクライム・シティ。暗殺組織に所属するすご腕の殺し屋サム(カレン・ギラン)は、ターゲットの娘エミリー(クロエ・コールマン)をかくまったために組織を追われ、命を狙われることになる。

 監督・脚本はイスラエル出身の鬼才ナボット・パプシャド。赤を基調にしたポップで独特な色遣いが印象に残る。

 また、子どもをかくまう殺し屋という設定は「グロリア」(1980)や「レオン」(94)、ユーモアとバイオレンスを合体させたアクションシーンは「キングスマン」シリーズ、そのほか、タランティーノの映画や、マカロニウエスタンからの影響も感じさせる。音楽もエンニオ・モリコーネ風だ。

 ただ、この映画のような、最近流行の女性のアンサンブルによるアクション映画を見て思うのは、フェミニズムを主張するために、ここまで過激なバイオレンスシーンが必要なのか? それがかっこいいと思っているのならそれは勘違いなのではないか、ということである。

 

Ⓒ2021 20th Century Studios. All rights reserved.

「ナイトメア・アリー」(25日公開)★★★

ギレルモ・デル・トロ独自の世界

 訳ありの青年スタン(ブラッドリー・クーパー)は、怪しげなカーニバルの一座に潜り込む。そこで、偽読心術を身につけた彼は、座員のモリー(ルーニー・マーラ)とともに都会へ旅立つ。やがてスタンは、偽読心術と天性のカリスマ性を武器に、豪華なホテルのステージで上流階級の人々を相手にショーを繰り広げるようになるが、心理学者のリリス(ケイト・ブランシェット)との出会いが、彼の運命を大きく変えていく。

 「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)のギレルモ・デル・トロ監督が、「悪魔の往(い)く町」(1947)をリメーク。1940年代のフィルムノワールを意識した画調、見世物小屋のおどろおどろしい雰囲気、ギーク(グロテスクな芸を見せる見世物師)の存在などで、独自の世界を表現している。

 また、心理劇としての要素が強く、主人公のスタンよりも、彼を取り巻く女性たちの方が目立つところが現代的。中でも、スタンとリリスの心理分析対決はなかなかの名場面だ。

 

Ⓒ2021 Focus Features, LLC.

「ベルファスト」(25日公開)★★★★

「私の愛した場所、愛した人たちの物語」

 ケネス・ブラナーが、自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。69年の北アイルランドのベルファストを舞台に、宗教間の対立に翻弄(ほんろう)される町の様子や、家族や周囲の人々とのふれあいの中で成長していく主人公の少年の姿をモノクロ映像で描く。

 監督のブラナーはもちろん、父親役のジェイミー・ドーナンと祖父役のキアラン・ハインズ、音楽のバン・モリソンもベルファストの出身。母親役のカトリーナ・バルフもアイルランドのダブリン出身。

 だから、同胞の心の痛みを描くこの映画は、彼らにとって、決して昔話や人ごとではなく、“自分たちの物語”なのだろう。その彼らが皆素晴らしい演技を見せる。ブラナーは「私の愛した場所、愛した人たちの物語だ」と述べている。

 筆者はブラナーと同い年なので、劇中に出てくる「恐竜100万年」や「チキ・チキ・バン・バン」といった映画や、アポロ11号の月着陸の様子などが、思い出として重なるところがある。それがこの映画を甘酸っぱく感じさせる要因の一つになっている。

(映画ライター  田中  雄二)

 

(KyodoWeekly3月28日号から転載)

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