8月の映画

 ★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会

「キネマの神様」(8月6日公開)★★★★

映画作りへの愛と映画の力を信じる心

 ギャンブル漬けで借金まみれのゴウ(沢田研二)は、妻の淑子(宮本信子)と娘の歩(寺島しのぶ)にも見放された駄目おやじ。そんなゴウにも、たった一つ愛してやまないものがあった。それは映画。行きつけの名画座の館主・テラシン(小林稔侍)とゴウは、かつて撮影所で働く仲間だった。

 原田マハの小説を山田洋次監督が映画化。とは言え、原作の設定を大きく変え、ゴウを撮影所の元助監督とし、現在と過去を交錯させながら描くという、全く別の話になっている。つまり、少々意地悪な見方をすれば、山田監督が原作を利用して、自分の思い出用に改変したと思えなくもなかった。ところが、実際に映画を見ると、見事に“山田洋次の世界”に昇華されており、小説と映画は別物だということを、改めて知らされた思いがした。

 特に、若手俳優たちの生かし方が素晴らしい。菅田将暉(ゴウ)、野田洋次郎(テラシン)、永野芽郁(淑子)に、生き生きと“昔”を演じさせている。また、女優役の北川景子を原節子的なイメージで思う存分に美しく撮っている。さすがは「男はつらいよ」シリーズで名だたる女優たちをマドンナとして撮ってきた監督だと思わずにはいられなかった。ゴウ役の志村けんを新型コロナで失うなど、紆余(うよ)曲折を経て完成した映画だけに、映画作りへの愛と映画の力を信じる心がより強く感じられるものになっている。

 

Ⓒ2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

「サマーフィルムにのって」(6日公開)★★★★

「映画って、スクリーンを通して今と過去をつないでくれるんだ」

 時代劇オタクで勝新太郎を敬愛する高校3年生のハダシ(伊藤万理華)は、映画部に所属しながら、時代劇が撮れずにくすぶっていた。そんなある日、自分が脚本を書いた時代劇の侍役にぴったりの凛太郎(金子大地)を見付けたハダシは、仲間を集めて時代劇「武士の青春」を撮り始めるが…。

 監督のハダシをはじめ、主演の凛太郎、撮影のビート板(河合優実)、殺陣兼メークのブルーハワイ(祷キララ)、助演のダディボーイ、録音と音声の駒田と増山、照明の小栗という寄せ集めの仲間たち。そんな彼らが、映画を作る楽しさを体現し、それを見ているこちらも、彼らの一人一人がいとおしく思えてくる。

 監督・脚本の松本壮史と脚本の三浦直之は、恋と友情、時代劇、SF、学園ドラマといった、さまざまな要素を混在させながら、ハダシの「映画って、スクリーンを通して今と過去をつないでくれるんだと思う」という言葉に代表されるように、端々に映画への愛を表している。そして、自主製作映画のようなノリがかえって効果を上げているところも面白い。

 

Ⓒ2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

「ドライブ・マイ・カー」(20日公開)★★★★

優れたミステリーを見るような面白さ

 舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島秀俊)は、脚本家の妻・音(霧島れいか)と幸せに暮らしていた。だが、妻はある秘密を残したまま急死してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きていた家福は、演劇祭で演出を担当することになり、広島へ。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と過ごす中で、家福はこれまで自分が目を背けてきたことと向き合うことになる。

 村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」を、濱口竜介の監督・脚本により映画化。同じ短編集に収録されている「シェエラザード」と「木野」も取り入れている。カンヌ映画祭脚本賞受賞作。

音が亡くなるまでを描いた約40分のプロローグが東京編で、残りの2時間20分は広島が舞台となる。179分の長尺だが、少しも飽きさせない。全体を貫くテンポがいいのだ。

 そして、心に傷を持つ家福とみさき、家福を愛しながら複数の男たちと関係を持つ音、そして音と関係を持っていた俳優の高槻(岡田将生)の屈折、彼らの心情がだんだんと明らかになってくるところは、優れたミステリーを見るような面白さがある。また、家福が演劇祭で演出を担当するチェーホフの「ワーニャ伯父さん」と、家福自身の心情が重なって見えてくるところも秀逸だ。

 

Ⓒ2020「子供はわかってあげない」製作委員会 Ⓒ田島列島/講談社

「子供はわかってあげない」(20日公開)★★★★

彼らをずっと見ていたい気分になる

 高校の水泳部に所属する朔田美波(上白石萌歌)は、母(斉藤由貴)と義父(古舘寛治)と弟と共に幸せに暮らしていた。だが美波は、幼い頃に行方不明になった実父の藁谷友充(豊川悦司)のことが気になり、アニメオタク同士ということで意気投合した書道部の門司昭平=もじくん(細田佳央太)の兄の明大(千葉雄大)に頼んで、新興宗教の元教祖だった友充を見つけてもらう。美波は今の家族には内緒で、友充に会いに行くが…。

 田島列島の同名コミックを沖田修一監督が実写映画化。家族、アニオタ、水泳、書道、初恋など、さまざまな要素を入れ込みながら、少女のひと夏の経験を描く。沖田監督の映画は、総じて独特の間や緩いテンポの中、シュールで、不思議なユーモアが漂い、現実とファンタジーの境目を描きながら、ほのぼのと明るい。そうした“沖田ワールド”は今回も健在だった。

 何よりキャストが皆いい。上白石と細田が体現する初恋と青春、豊川と古舘の“2人の父”、見た目は女性で涙もろい千葉…。沖田ワールドの中、脇の脇に至るまで、皆が生き生きと描かれていて、こちらも彼らをずっと見ていたい気分になる。特に、上白石=美波の、最初は怪しげな父に戸惑いながらも、自然に打ち解けていく姿や、もじくんに不器用な告白をする姿が愛らしく映る。そして学校の屋上でのラストシーンがまた素晴らしい。   

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly8月16&23日号から転載)

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