「言の葉の森」立ち止まって眺めた「雨模様」

写真はイメージ

 「あいにくの雨模様とあって……」

 原稿を追いながら引いていた、黒い線が止まった。見つけたぞ、とシャープペンシルを赤のボールペンに持ち替え、ぐるりと「雨模様」を囲う。取材の写真の撮影場所と日時を手がかりに、気象庁のサイトで現地付近の降水量を調べる。予想通り、降っていてもおかしくない天気だったようだ。余白に「?雨」と直し案を書き込む。後で記者側に問い合わせよう。続きを読み始めてすぐ、また手が止まった。

 「雨は降ってきそうです」。先ほどの直しは、どうやら早とちりだったようだ。

 雨模様は本来、「雨の降りそうな空の様子(広辞苑第7版)」を指すが、雨が降っている状態を指して使われることが多い。先の勇み足の言い訳をすると、これまで「雨模様」が原稿に出てきた時はいつも、記者側に問い合わせてみると実際に雨が降っていたのだ。

 決めつけてごめんなさい、あなたが正しかったです、と心の中で記者に謝りながら、黒で斜線をいくつも引き、直し案を消す。その手もまた、止まる。

 正しいって、何だっけ?

 語源を考える。「雨模様」の基になった言葉は「雨催(もよ)い」。「催い」は「物事のきざしの見えること(同)」だ。

 だが「催い」が「模様」という、違う意味の言葉にすり替わってなお、本来の意味を保っていると言えるのか。もう一度「雨模様」を赤でぐりぐりと囲む。別の疑問もわいてくる。

 正しいとして、それでいいのか。

 「雨模様」を雨降りだと思っている人を混乱させてしまわないか。毎日新聞の用語集では、雨模様について、本来「雨が降りそうな空の状態」とし、両様に解釈できる表現は使わない、としている。

 ただ今回は、直後の「降ってきそう」という表現から、誤読の恐れはないだろう。むしろ、辞書や用語集に載る本来の意味を読者に知ってもらえるとも言えそうだ。

 結局、雨模様はそのままにした。校閲を始めて3年目、引っかかった言葉を直すべきかどうか、立ち止まって考えることが増えたように思う。入社したばかりの頃は、校閲は間違いを直す仕事だと、とにかく直さなければとばかり思っていた。当時の私だったら今回も、「雨模様は『両様に解釈できる表現』だから」と、深く考えずに赤を入れただろう。悩んだ末の「直さない」という判断も、ひとつの成長かもしれない。赤と黒でぐしゃぐしゃになった原稿を見ながら、そんなことを考えた。

(毎日新聞社 校閲センター 神尾 春香)

 

(KyodoWeekly8月2日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ