7月の映画

 ★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

Ⓒ2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

「スーパーノヴァ」(7月1日公開)★★★

老夫婦の姿と何ら変わるところはない

 ピアニストのサム(コリン・ファース)と作家のタスカー(スタンリー・トゥッチ)は20年来のパートナーで、幸せな人生を歩んでいた。ところが、タスカーが認知症に侵される。病が進行する中、最後まで共に生きることを願うサムと、サムの負担になることに悩むタスカー。決断を迫られた2人は、キャンピングカーで旅に出る。

 ひと昔前なら、こうした同性カップルの動静と安楽死の問題を真正面から描くこと自体がタブーとされただろうが、いまや違和感は薄くなった。2人の姿を見ていると、老夫婦の姿と何ら変わるところはないと思わされたし、2人を囲む隣人たちの温かさにも時代の変化を感じさせられた。

 サムとタスカーの複雑な胸中を、ファースとトゥッチという2人の名優が、豊かな表情としぐさで巧みに表現。イギリスの湖水地方の風景も美しい。ユニークなロードムービーとしての側面もある。監督・脚本は、これが長編2作目というハリー・マックイーン。

 

Ⓒ2021 The Asian Angel Film Partners

「アジアの天使」(2日公開)★★★

「ビールください」と「愛してる」さえ知っていればいい

 妻を病気で亡くした青木剛(池松壮亮)は、一人息子の学と共に、疎遠になっていた兄の透(オダギリジョー)が暮らすソウルへ渡る。一方、ソウルでタレント活動をするチェ・ソル(チェ・ヒソ)は、仕事や家族との関係について悩んでいた。

 韓国の首都ソウルから地方に向かう列車の中で出会った日本人と韓国人の、言葉の通じない2組のきょうだいが、旅を通じて心を通わせていくさまを描いたロードムービー。石井裕也監督が、韓国人スタッフ&キャストと共にオール韓国ロケで撮り上げた。

 言葉と文化の違いという壁による両者のかみ合わない会話、コミュニケーションのすれ違いが、半ばドキュメンタリーのように、ユーモラスに描かれるが、やがて両者が心を通わせ、別れ難くなる変化の様子が見どころとなる。うさんくさい透が、「『ビールください』と『愛してる』」。この二つだけを知っていれば、この国(韓国)でやっていける」などと語るせりふも面白い。

 

Ⓒ2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.

「ゴジラvsコング」(2日公開)★★★

「怪獣映画を見た!」という気分にはなれる

 モンスターの戦いで壊滅的な被害を受けた地球。特務機関モナークは巨大怪獣のルーツの手掛かりをつかもうとしていた。そんな中、ゴジラが再び姿を現す。人類は対抗措置として、コングを髑髏島から連れ出し、ゴジラ対コングの対決を引き起こす。

 東宝版の「キングコング対ゴジラ」(1962)から60年の時を経て、日米の2大怪獣が再び激突。今回はオリジナル色がより強まっている。

 前作「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(2019)同様、人間側の描写や設定があまりにも雑で、思わず失笑させられるが、監督のアダム・ウィンガードが「これは巨大怪獣の大乱闘映画」と語っている通り、要は、怪獣映画とは、そうした人間ドラマの欠点を忘れさせるようなインパクトが怪獣たちの描写にあるかどうかが勝負の分かれ目であり、この場合、いかにゴジラとコングを相まみえさせるか、その闘いをどう見せるかが重要なのだ。その点では、前作同様「怪獣映画を見た!」という気分にはなれる。シリーズ前2作で渡辺謙が演じた芹沢猪四郎博士の息子役で小栗旬が出演している。

 

ⒸUniversal Pictures

「プロミシング・ヤング・ウーマン」(16日公開)★★★

変幻自在の脚本とマリガンの怪演

 タイトル通りに、「明るい未来を約束された」医学生だったキャシー(キャリー・マリガン)は、友人のレイプ事件によって未来を奪われ、事件の当事者たちへの復讐(ふくしゅう)を企てる。

 製作は、女性の立場を主張する役を演じることが多い女優のマーゴット・ロビー。監督・脚本は、これがデビュー作となったエメラルド・フェネル。アカデミー賞の脚本賞を受賞したことからも分かるように、前半はシュールなブラックコメディー、中盤はラブロマンス、後半はサイコミステリーと、変幻自在の展開を見せる。その中で、時にはかわいく、時には哀れを誘い、時にはグロテスクに映るなど、さまざまな顔を披露するマリガンの怪演が目を引く。

 また、復讐の前段として、キャシーが、女性を性欲のはけ口としか思わない男たちに色仕掛けで近づき、制裁を加えるさまが描かれるが、これを見ながら、同じく、女であることを武器にした復讐劇である山本周五郎の小説「五辨(ごべん)の椿(つばき)」のことを思い出した。

 

Ⓒ1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.

「返校 言葉が消えた日」(30日公開)★★★

ホラーの形を借りて迫害事件を告発

 1962年。国民党による独裁政権下の台湾では、市民に相互監視と密告が強要されていた。ある日、翠華高校の女子生徒ファン・レイシン(ワン・ジン)が、放課後の教室で目覚めると、校内には誰もいなかった。校内をさまよったファンは、読書を禁じられた本をひそかに書き写す読書会のメンバーのウェイ・ジョンティン(ツォン・ジンファ)と遭遇する。2人は学校からの脱出を試みるが、どうしても外に出ることができない。

 監督のジョン・スーは、この映画がデビュー作。ホラーの形を借りて、暗黒の白色テロ時代の政府による迫害事件を告発しているが、元はゲームだという。読書会の存在を当局に密告した者を明かしていく、謎解きミステリーの要素もあるが、こういう題材がゲームとして成立することに驚かされた。

 禁書、密告、裏切りをテーマとした、レイ・ブラッドベリの原作をフランソワ・トリュフォー監督が映画化した「華氏451」(66)のことを思い出した。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly7月26日号から転載)

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