「落語の森」棟梁

写真はイメージ

 よく噺(はなし)で「大工は、職人の司(つかさ)なんてェことを申しますが」と言っているが、確かに職人の中でも大工さんは別格だったようだ。その大工さんの親方だけが「棟梁(とうりょう)」と呼ばれ、関連の職人たちを監督指揮し、収入をも確保してやったという。

 江戸なまりだと「とうりゅう」となり、古今亭志ん朝師もそれで演(や)っていたが、ある高座の際に客から「師匠、間違ってるよ! 棟梁は『とうりゅう』じゃなくて『とうりょう』だよ」と言われ「もう、嫌(や)ンなっちゃった」と言っていた。

 筆者も「子別れ」などを演る際には粋がって「とうりゅう」で通している。

 江戸なまりで有名なのが「ひ」と「し」。「あのひと」が「あのしと」になるし、「しとつ、ふたつ」と数える。昔、三遊亭圓生師が「この節(せつ)、コーシーてェものも結構なもので」と言っていた。無論「コーヒー」のこと。「まっすぐ」は「まっつぐ」に。

 言葉の頭にアクセントが来る場合がある。「赤とんぼ」だと「あ」に、「東海道」では「と」にアクセントが来る。

 かの山田耕筰先生の名曲「夕焼け小焼けェの赤とんぼ♪」のアクセントと言えば分かりやすいか。江戸語で「オレは、肴(さかな)ァ、荒らさねェ性質(たち)なんだ」と言う。

 これを気に入っていて筆者も「妾馬(めかうま)」で八五郎さんに言わせている。「とォんと来てる」もご贔屓(ひいき)の江戸ことば、「あの女が、オレにとォんと来てるんだよォ!」などと、いくつかの噺に出てくる。

 さて「棟梁」、一番の活躍は「大工調べ」だ。日頃、面倒をみている与太郎さんの道具箱を店賃をためたため大家に取られ、その掛け合いに大家さん宅に行くが、「八百文足りない!」と返さない。ここで棟梁の胸のすくタンカが聴ける!「何をぬかしやァがんでェ、べらぼうめェ、大きな声はこちとら地声だァ、いくらだってせり上がんだよォ! てめェの方で渡さねェってから、こっちァいらねェってんじゃねェか。分かったか、この丸太ン棒!」と3分間近く続く。

 このシーンがクライマックス! 与太さんのあわてぶりも楽しい。古今亭志ん生師は、この棟梁を「タンカを切りてェやつなんだ」と言っていたという。志ん朝、春風亭柳朝、立川談志の各師、それぞれ楽しめる! 演じ手は多いが、今、柳亭小痴楽師が威勢よく演っている。

 「三枚起請(さんまいきしょう)」では、棟梁ら3人が1人の女郎にだまされる。「三千世界のカラスを殺し、主(ぬし)と朝寝がしてみたい」、高杉晋作の作といわれる都々逸(どどいつ)がサゲ。志ん生・志ん朝親子にとどめを刺す。気(け)だるそうな女郎の物言い!

 「三井の大黒」の棟梁は、名を明かさない上方の大工(左甚五郎)の面倒をみる。先々代(三代目)桂三木助師の昭和36(1961)年の最後の高座がこの噺。師はこの2カ月後、58歳で夭逝(ようせい)。志ん生・圓生師もそれぞれの味で演っていた。今は、三木助師の孫弟子の入船亭扇辰師の他、立川生志師らが演る。

紫紺亭 圓夢(しこんてい・えんむ)

 

(KyodoWeekly7月19日号から転載)

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