「漫画の森」ギャグ漫画の魅力

写真はイメージ

 漫画の中で、定番とそれ以外の区別がつきやすいのがギャグ漫画だ。和山やまの作品は明白に後者。デフォルメから遠いリアル系の、怪奇漫画を描いたら似合いそうな絵柄で笑わせにくる変わり種だ。

 「夢中さ、きみに。」(全1巻/KADOKAWA)はポイントの定まりにくいくすぐり技を堪能できる一作。高校を舞台にした全8話のオムニバス形式で、冒頭作「かわいい人」には作者の才の根源が凝縮されているように見える。体育祭の借り物競走で「かわいい人」という「男子校にあるまじき」お題を引いた少年が、障がい物競走の網を振り切れずまとったままのクラスメートの「林」を発見し、なりゆきでそのまま林を連れてゴール。その後ことあるごとに、林に「僕かわいい?」と絡まれるだけの話なのだが、ナレーションと絵がツッコミとボケの関係を見せるリズムのせいで、始まりの数ページは息継ぎすら難しいインパクトだ。網に絡まった林の、かわいいといえなくもない微妙な説得力は作者の絵柄ならではで、とぼけた味と、ウナギのようにぬらりくらりとした林のしたたかさがにじみ出ている。全編を通し、世渡りに細心の注意が要求される学校生活を、図太く生き抜くノウハウが陳列されているかのような力加減も心憎い。

 「女の園の星」(既刊2巻/祥伝社)では、より洗練された技が見られる。主人公は女子高校の国語教師、その苗字は「星」。つまり彼は女子生徒の希望の星などではなく、ただの「高校の星先生」なのだ。第1話(学校が舞台の作品らしく、話数のカウントは「1時間目」「2時間目」)では、担任するクラスの生徒たちが学級日誌にリレーでつづる「絵しりとり」に星が頭を悩ませる。たわいもない遊びだが、ことは絵なので日によって完成度に落差がある。日直生徒の画力が底辺のときには、しりとりとして成立しているかどうかもあやふやだ。積極的に笑いに関与してくるせりふ量と、下手な絵の醸す直球のおかしみが相性よく絡む。

 第4話(4時間目)はとりわけ傑作で、「生徒につけられる変なあだ名」とのとっかかりから、同僚同士の飲み会場面に発展。盤石の酔っ払いネタを経てあだ名に収斂(しゅうれん)する過程を、絶え間ないギャグが彩る。「絵が」「せりふが」と分けて論評するのも、はばかられるなめらかさで、貫禄すら感じる。ぱらぱらとめくって絵面だけ追うととてもギャグ漫画にはみえず、じっくり読んだ者だけが真価を堪能できる。そのギャップが味わい深い。

 「カラオケ行こ!」(全1巻/KADOKAWA)は先鋭的設定とストーリー性が魅力の作品。中学合唱部の部長を務めるも声変わりに悩む少年岡聡実(おか・さとみ)は、ある日見知らぬ男に声をかけられる。男が差し出した名刺には「四代目祭林組 若頭補佐 成田狂児(なりた・きょうじ)」とあった。組のカラオケ大会で最下位になると、組長手ずから下手な入れ墨を施されてしまう。なんとか避けたいので歌唱指導をお願いしたい、というのだ。カラオケボックスで恐怖に震えながら助言する中学生とこわもて男のミスマッチに加え、選曲のニッチな情報と率直な論評を笑いに落とし込み、リズミカルな関西弁でたたみかける。聡実が不本意ながら狂児に心を開いてしまう王道展開のみならず、スポ根めいた高揚感と泣かせどころまで盛り込み、謎の感動に導かれる。山あり谷ありで、長編を読んだかのような充実感をくれる怪作だ。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly6月7日号から転載)

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