「言の葉の森」その「絵姿」に異議あり!

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 「皆さんにわが国の将来の絵姿を具体的に示しながら、スピード感を持って実現してまいります」―。今国会の召集日に行われた菅義偉首相の施政方針演説から抜粋しました。

 筆者が演説全文の校閲をしていたところ、終わりに差し掛かった場面で現れたこの一節に引っかかりを覚えました。うーん、「国の絵姿」ねえ…。

 首相が何を言わんとしているのかは伝わります。「国の将来の姿を具体的に絵に描いて」ということから、「国の将来像」「ビジョン」という意味を「絵姿」に込めているのでしょう。

 文字から“何となく”連想されるのか、このような使い方は政治やビジネスの場などで増えているようで、インターネットで調べると「復興の絵姿」「50年後のエネルギー社会の絵姿」などの言い回しが出てきます。

 しかし国語辞典をめくってみると、「絵姿」とは「絵にかいた人の姿。肖像。画像。絵像」(明鏡国語辞典第3版)のこと。他の辞書の説明もほぼ同様であり、肖像でもなければ人の姿でもない用法を取り上げたものはありません。昔話の「絵姿女房」を考えてみればわかるように、絵姿は肖像画を指すのです。

 「わざわざ絵姿なんて用いなくても、『国の将来の姿』で十分では?」とも思えますが、使用例を読み解いていくと、単なる「将来像」以上の意味を込めて「絵姿」が用いられているケースが多いように感じます。

 もしかしたら、「思い描いた理想像」「目指すべき姿」といった、「姿」だけでは表現できないニュアンスを伝えるために“新用法”が使われているのかもしれません。

 では「絵姿」が“登場”する前はどうしていたのでしょう。似たような語はないだろうかと探してみると、「青写真」が思い浮かびました。

 ただ、スマートフォンで簡単に写真が撮れる現代において、青写真へのなじみは薄れてしまったのか、最近はあまり見かけません。そこで「青写真」に取って代わるように、「絵姿」が「将来像」を表すことばとして浮上しつつある―ということも考えられるでしょう。

 私たち校閲センターが運営しているサイト「毎日ことば」で「国の絵姿」という表現についてどう思うかと尋ねたところ、実に76%の方が「違和感がある」と回答しており、どうやらこの用法が定着するまでには至っていないようです。

 むしろ「青写真の方がいい」といった意見が複数寄せられました。たとえ青写真の由来がピンとこなくなってきたとしても、美しいことばは残していきたい―。そんな日本語の「絵姿」、もとい「青写真」を描いたのでした。

(毎日新聞社 校閲センター 佐原 慶)

 

(KyodoWeekly4月5日号から転載)

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