2月の映画

写真はイメージ

 ★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

 映画の祭典、米アカデミーの授賞式は、例年2月に開催されるが、第93回となる今回は、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、ノミネートの発表が3月15日、授賞式が4月26日(いずれも日本時間)に延期された。

 アカデミー賞の前哨戦ともいわれる、各賞の結果を見ると、作品賞の大本命は、米西部の路上に暮らす、現代の“ノマド(遊牧民)”たる車上生活者の生きざまを描いたロードムービー「ノマドランド」(日本公開は3月26日予定)とされる。

 中国系女性監督のクロエ・ジャオと主演女優のフランシス・マクドーマンドも有力候補。もし、マクドーマンドが受賞すれば、「ファーゴ」(1996)、「スリー・ビルボード」(2017)に続く3度目の受賞となる。

 ところで、ここ数年来、配信作品を賞の対象として認めるか否かの論争があったが、今回は、コロナ禍によって配信作品の出品条件が緩和されたことに加えて、目ぼしい劇場公開作の中止や延期が相次いだこともあり、Netflix(ネットフリックス)旋風が吹くのではないかと言われている。

 Netflixの製作作品では、第91回でアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」が、監督賞ほか3部門で受賞したが、作品賞にはまだ手が届いていない。今回は、作品賞のほか、主演賞や監督賞の候補にも多くの関連作品が顔を出しそうだ。

 こうした変化を見ると、もはや配信作品なしに映画は語れない時代になったと言っても過言ではない。昨年の「パラサイト 半地下の家族」に続いて、アカデミー賞にまた新たな風が吹くのか。注目したい。

 

「モルエラニの霧の中」(2月6日公開)★★★★

室蘭を舞台にした映像詩集

 昨年の9月から、館内工事のため一時休館していた都内の岩波ホールが2月6日から再開した。

 その第1弾として上映されるのが、北海道・室蘭出身の坪川拓史監督が、5年越しで完成させた力作「モルエラニの霧の中」だ。

 この映画は、坪川監督自身が室蘭で出会った人々の実話を基に、実際の場所で、時にはエピソードに登場する本人も出演しながら撮影された「街の自画像」のような映画。「ここに生きる人々の息遣いを映画に残したい。そして、この街を知ってほしい」という監督の強い願いを聞いた、街の人たちが結集して製作された。

 タイトルの「モルエラニ」とは、アイヌ民族の言葉で「小さな坂道を下りた場所」を意味し、室蘭の語源の一つともいわれているという。

 そんなこの映画は、[第1話]冬の章「青いロウソクと人魚」、[第2話]春の章「名残りの花」、[第3話]夏の章「しずかな空」、[第4話]晩夏の章「Via Dolorosa」、[第5話]秋の章「名前のない小さな木」、[第6話]晩秋の章「煙の追憶」、[第7話]初冬の章「冬の虫と夏の草」という、7話連作のオムニバス形式で描かれる。

 それぞれの話と登場人物が微妙に関連し合い、まるでメビウスの輪のように、曲がりくねりながら、ぐるりと一回りしてきて最後につながる。だから、見終わったときに「あー、そうだったのか」と合点がいって何だかうれしくなる。

 観念的で難解な映画かと思いきや、さにあらず。春夏秋冬の美しい風景、ノスタルジックな映像、子どもたちの歌声、消えゆく建物に、古時計、レコード、桜の木、カセットテープ、冬虫夏草といった象徴的なアイテムをちりばめながら構成された一種の映像詩集、あるいは寓話(ぐうわ)集のようでもあり、純文学風の室蘭のガイド映画といった趣もある。不思議なことに3時間34分を決して長く感じない。

 コロナ禍で公開が延期となり、その間に出演者の大杉漣、佐藤嘉一、小松政夫が逝去した。

 記憶、約束、生と死、再生などをテーマにした映画であるだけに、謎の老女役で登場する大ベテランの香川京子の存在も含めて、そこに映る彼らの姿には特別な感慨を抱かされる。

 

「すばらしき世界」(11日公開)★★★★

この世界は生きづらくあたたかい

 佐木隆三のノンフィクション小説「身分帳」(受刑者の個人情報が記されている極秘資料)の設定を現代に置き換えて、西川美和の監督・脚本で映画化した。

 殺人罪で服役していた三上(役所広司)が13年ぶりに出所し、何とかまっとうに生きようと悪戦苦闘する。そんな三上に、作家志望の元テレビマン津乃田(仲野太賀)がすり寄ってくる。

 この映画のキャッチコピーは「この世界は生きづらくあたたかい」だが、個人と社会、三上の暴力と優しさ、あるいは前科者に対する世間の不寛容と善意といった、二律背反するものを描いている。どちらが正しいのかではなく、どちらも存在するということを提起している。何より「すばらしき世界」というタイトル自体が反意的だ。

 そして、津乃田、弁護士夫婦(橋爪功、梶芽衣子)、ケースワーカー(北村有起哉)、スーパーマーケットの店長(六角精児)、旧知の組長夫婦(白竜、キムラ緑子)が、三上に示す善意や優しさが、この映画の救いになるのだが、「なぜ、皆三上に魅かれるのか、放っておけないのか」の理由を深くは描いていない。

 それ故、もやもやさせられるところがあるが、それが三上の不思議な魅力や複雑さにつながるところもある。こちらも、決して三上に共感はできないのに、何故か憐憫(れんびん)の情が湧いてくるという、二律背反する思いを抱くことになる。そこが、同じく佐木の小説を映画化した「復讐(ふくしゅう)するは我にあり」(1979)の主人公・榎津(緒形拳)とは大きく違う。

 不遇な生い立ちを背負った一匹おおかみの元やくざ三上。複雑でコロコロと態度が変わるこの男を、役所は、表情やしぐさ、あるいは口跡を変化させながら見事に演じているが、仲野や六角が示した変化に富んだ演技とのコントラストもまた見事だった。彼らからこうした演技を引き出した西川監督の手腕も認めたい。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly2月22日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ