河野 茂 著
崎長 ライト 編
●326ページ
●長崎新聞社(税別1500円)
結束した「チーム長崎」
国内で新型コロナウイルス初確認が発表されたのは2020年1月のことだ。
あれから1年以上が経過した今もコロナの話題を耳にしない日はない。報道は、ひっ迫する医療現場の悲痛な声を取り上げ警鐘を鳴らすが、長く続く鐘の音に人々の感覚がまひしていることは否めない。
未知の敵との終わりの見えない闘いに心が疲弊しているのならば、自らの力で事態を「終わらせた」人々のことを知っておくのもいいかもしれない。
「623名が乗船したクルーズ船で、新型コロナウイルスの集団感染が発生。陽性者は149名。結果的に、死者はゼロ」
奇跡ではない。努力の結果だ。本書はこの〝災害〟を乗り越え、死者ゼロを達成させた人たちの膨大なメモやインタビューをもとに編集した物語である。
2020年4月、緊急事態宣言発令下の長崎市。修繕のため長崎港に停泊中だったクルーズ船コスタ・アトランチカ号で新型コロナウイルスの集団感染が発生した。感染者が乗っている船を受け入れる港などない。長崎でなんとかしなければ…。感染症ベッドが14床しかない長崎市の地域医療はたちまち崩壊の危機に立たされた。
長崎県医師会長は「医療危機的状況宣言」を発し、長崎大学病院長はこの集団感染を「災害」と認識し「緊急災害宣言」を発令した。長崎市の人々は恐怖におびえ、医療物資は入手困難に。風評被害も起こった。
この未曽有の災害に、医療、行政、自衛隊、DMAT(災害派遣医療チーム)、DPAT(災害派遣精神医療チーム)、バス会社などの人々が「チーム長崎」として結束し、立ち向かった。本書は、当時のやり取りを小説仕立てで再現。行間から現場の空気を感じ取れる。
5月末、コスタ船内の陽性者がゼロになり、フィリピン・マニラに向け出港。こうして1カ月に渡る「コスタ災害」が幕を下ろした。
命を懸けて日夜、奔走した人々の奮闘を描いた本書は、ウイルスに直接作用する特効薬ではないものの、心に希望の火をともす一冊となることだろう。
表題作のほか、著者の河野茂・長崎大学長らによるウィズ・コロナ時代に向けた論文も収録している。ウイルスに関する基礎知識や検査方法はもとより、今後の展開を予想したシナリオやビッグデータの活用についてなど、感染症に対する幅広いアプローチを見ることができる。
(長崎新聞出版室 伊藤 礼子)
(KyodoWeekly2月22日号から転載)