「言の葉の森」根強い「入籍」

写真はイメージ

 〈私たちは〇月〇日に「婚姻届を提出」して夫婦となり―〉

 昨年出席した結婚式のスピーチで少し驚いた。「入籍」ではなかったからだ。現在の一般的な結婚は夫婦の戸籍を新しく作る。従ってある人が既存の戸籍に入ることを指す入籍(戦前の結婚ではまさにこれが行われていた)を、婚姻届を出す意味で扱うのは間違いだ。印象的な誤用なので見聞きした覚えがある人も多いだろう。しかし世間一般では、入籍≒結婚と受け止められているのが実情だと思う。よって報道各社では入籍を「婚姻届を出す、結婚する」などと言い換えるよう取り決めている。

 前言を翻すようだが、日常生活で積極的に「婚姻届を出す」を使うのは苦しいというのが個人的な考えだ。区役所に勤める知人が、「区民が入籍の意味を理解していると感じたことはほとんどない。しかしわざわざ『入籍と婚姻は別物ですよ』なんて訂正はしない」と話していたように、正確さよりも円滑さが優先されるシーンは少なくないからだ。「みんな」が使う言葉と闘うのは相当にストレスがかかる。

 「結婚する」への言い換えも、あくまで「役所に書類を提出する法的な手続き」という意味だけを表したいつもりの時はうまく当てはまらない。「入籍だけ済ます」なんて言われるように、法的な手続きと結婚式がそろってこそ結婚だと考える人にはやや踏み込んだ表現に映ってしまう。

 そもそもなぜ「みんな」は誤った意味の入籍を使うのか。2002年版の毎日新聞用語集を作るにあたって開かれた会議のメモを見ると、「学芸部がよく使う。入籍会見を開いたと。(中略)用語集に書いてある『婚姻届を出す』にしてくださいと言うんですが」と委員の一人が発言しているように、芸能との関係が深いとみられる。良くも悪くも影響力の強い芸能人が「入籍した」と発表すれば印象に残りやすい。ワイドショーやスポーツ紙、現代ではSNSでも拡散される。悲しくもあるが「新聞社が抵抗したところで…」と考えてしまう。

 「入籍」派が圧倒的なのはこれからも変わらないのだろうか。きっかけになるとすれば、事実婚など婚姻によらない家族の形が今以上に増えて「当たり前になる」ことだ。もともと「入籍」は、女性が男性の戸籍に入るのが当たり前とされた戦前の家制度の名残であり、中身が変わっても言葉だけがそのまま使われている。時代のすう勢にはまったくなじまない。いつまでも戦前の亡霊に付き合い続ける必要もないだろう。

 「まだ『入籍』なんて言ってるんだ。よした方がいいよ」。そんなことが言われる日が来る可能性がないとは言えない。

(毎日新聞社 校閲センター 本間 浩之)

 

(KyodoWeekly2月1日号から転載)

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