「言の葉の森」文字に悩んで、文字に救われ

(株)共同通信社が発刊する「記者ハンドブック第13版」より

 私たち校閲記者は文字と共に生きている。自分が執筆するわけではないけれど、校閲の目を通すことで初めて、伝えたい情報や記者の思いが記事となり世の中に送り出される。そんな使命感を持って文字に手を加えつつ、文章に命を吹き込んでいく。

 校閲の最も重要な役割は、紙面に訂正が載るのを防ぐこと。人名が間違っていた、数字が正しくなかったなど、情報の誤りは即訂正につながるから、事実関係の精査が大事になる。

 一方で「脅威」ではなく「驚異」、「終活」は「就活」の誤り―など、調べ物に気を取られるあまり、同音異義語の取り違えを見逃した例は数知れない。

 こんな訂正が出たこともあった。「『光よりも速く』とあるのは『早く』の誤りでした」。素粒子ニュートリノについて取り上げた記事だったのだが、「ニュートリノは光よりも『早く』地球に届く」が正解。ニュートリノが光速よりも速いのではなく、他の物質とほとんど反応しないため、光より「先に」直接地球に届くというわけだ。形容詞一文字で訂正が出てしまうなんて、文字は悩ましい。

 南スーダンについての原稿では、とある箇所でペンを持つ手が止まった。政府と反政府勢力が和平合意を結んだ後も「州の数や州境の確定を巡って対立している」と書かれた部分だ。

 州の数は「確定」でよいのだが、州境は区切りを定めるものだから「画定」である。話し言葉なら「かくてい」でまとめられるのに、文字にするとそうはいかない。うまい言い換えが思いつかず、結局「州の数や州境を巡って」と「かくてい」を削ることになった。うーん、やはり一筋縄ではいかない。

 それでも悩んで迷ったおかげで、光が差し込むこともある。

 先日、ある力士について「愚直な押しだけでなく、巧みな出し投げも披露」と表現した原稿に出くわした。「愚直」は「ばか正直」のことで、他者への評価に用いると失礼にあたることもあるから、使うのは避けたい。

 とはいえ「ひたすらの押し」と直すのもしっくりこない。それなら「押し相撲だけでなく」と言い換えてはどうか。うん、これなら伝わるはずだ。悩み抜いた末に納得いく表現を見つけると一気に視界が開け、何だか文字に救われたような気持ちになる。

 校閲は「言葉の番人」に例えられることもあるが、完全無欠の職人などでは決してない。簡単な誤字・脱字を見逃すこともあるし、日々文字に悩んで頭を抱えている。それでも受け手に情報が正しく伝わるのであれば、何度立ち止まっても構わない。今日も文字が持つ力を信じ、一字一字と向き合っていく。

(毎日新聞社 校閲センター 佐原 慶)

 

(KyodoWeekly2020年12月28日/2021年1月4日号から転載)

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